綺羅星よ、夜闇を貫け 五頁目
「よし。行こう諸君」
「我々が足並みを揃えて動くというのは、なんとも奇妙なことですな」
「で、ですがこれが最善にして最良なのです。ですからそう! 皆様余計なことは考えないでくださいね。こ、こんなところで戦えば、誰も助かりませんよ!」
「あの、落ち着いてくださいキングスリングさん。余計に不安になります」
三日間。それが積が他の者達に伝えた最後の戦いまでの猶予である。その残された多くもない時間を戦士たちは修練や連携の組み立てに使った。少しでも強くなろうとしたのである。
しかしそうではない者達もいた。当日の戦いにおいて、戦力にはならないと考えた者。修練以外にも自分たちが行わなければならない役割があると信じた者。
神教所属の聖野に賢教所属の雲景。ギルド所属のキングスリングに貴族衆所属のルイ、彼ら四人がその代表格であり、長く続く薄汚れた道を歩く。
「着きましたね」
「門番はいるかい。前もってアポを取った四大勢力の代表四名だ。この門を開けてもらいたい!」
たどり着いた場所は、唯人を小人と錯覚させるほど大きな広場。緑もなく、人工物もない、けれど拭いきることができない血の跡がある広大な空間で、彼らの前に立ち塞がるのは竜人形態のエルドラでさえ屈まずに通ることができる巨大で分厚い神器の扉。
中にいる者達を決して外に出さぬよう存在する最大最強の神器の守りである。
『皆様がお望みの人物は最奥『絶対収容領域』の最終ラインにいます。そちらでお話を』
「許可は取ったはずだが?」
『三日間の舌戦の末、我々は敗北を認めました。しかし当の本人が拒否をされました』
「え?」
その扉が物々しい音を立てながら開く。そしてその先にある長く続く廊下。その左右に収容されている者達に視線もくれず彼らは脳内に響く声に意識を注ぎ、ルイと聖野の二人が返答。
残る面々もわずかばかり動揺するが、それでも足取りだけはしっかりとしたまま奥へ。
迷宮と化したエリア。溶岩が流れるエリア。絶海の孤島と化したエリア、他いくつものエリアを歩き続け、彼らは入ってすぐに言われた最奥のエリアへ。
「なんというか、この場所にはふさわしくない場所ですね」
「ここはVIPルームでね。ごくごくわずかな、危険度とは別の判定方法で見極められた者達が収容されてる」
「別の判定方法?」
「どのような責め苦も意味をなさず、いるだけで多くの者たちに影響を与える傑物。いうなれば、ここに封じ込めて彼らに充足感という枷を与えることで、周りへの被害を最小限に抑えているのだ」
「歴史上に名を遺すようなカリスマを備えた偉人。いるだけで他者を平伏させる覇者。そういう者達がここに眠る」
惑星『ウルアーデ』には死刑制度が存在しない。復讐の自由、殺人による報復を許可してはいるが、他の星で言う政府が、法的な理由で人を殺すことは許されていない。
がしかし、当然ではあるが外の世界に野放しにできない者達というのは存在する。『十怪』と『三狂』がその代表格であり、それに付随する実力を持っている場合や、あまりにも危険なものは捕まえておかなければならない。
世界中のどこにあるのか、各勢力の代表さえ知らされていない『監獄塔』は、そんな彼らを収容しておくための施設であり、今日まで誰一人として外に出すことはなかった。
しかしその事実を彼らは覆す。
「久しぶりだな」
「ええ。まさか、ここから出られる日が来るとは思いませんでしたよ」
「ウルフェン。久しぶりだね。元気にしてたかい?」
「おかげさまでな。だが一度ここに閉じ込めた俺様を出すってのはどういう了見だ?」
その場所から、彼らは三人の強者を解き放つ。
一人はこの場にいる雲景と同じ格にいた賢教の裏切り者ゴロレム・ヒュースベルト。一人はギルドの代表にして最強の実力者エルドラと肩を並べる獣人族の長。銀狼のウルフェン。
彼ら二人が最奥のエリアにあるVIPルームから解き放たれ、彼らの前で待ち構える。
「っ」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!?」
敵意もなければ戦意もない。ただそこにいるだけで発せられる強者の空気。それを前に聖野が僅かに怯み、魚人族の長にしてあまりにも弱い心臓を持つキングスリングは悲鳴を上げる。
「彼は?」
「奥にいます。どうやら、外に出るには条件があるそうで」
「……永久釈放、などでなければいいのだがね」
しかしである。彼らがここに来た理由はこの二人ではない。いやもちろん二人を味方として釈放するのも目的であったが、それ以上に重要な人物がこの部屋の奥には眠っており、
「そうか。やはり失敗したか」
外の情報を絶えず覗いていた彼は、優雅に、牢獄の中とは思えないような豪勢な部屋の中で、穏やかな声を発した。
「なんだこりゃ。氷の人形か? にしてはやけに精巧な」
砕いたエルドラとデリシャラボラスの断面。そこに映る分厚い氷の面を前にガーディア=ウェルダは声を上げる。そしてその直後、彼はふと気づく。
「こいつら」
目の前にいる者達の動きに僅かな違和感を覚える。
それは彼ほどの強者でギリギリ気づく程度のものであり、その答えを思い浮かべ呆然とするが、すぐに行動を開始。これまでと変わらぬ圧倒的な暴力で、シロバやクロバ、アイビスやシャロウズに攻撃を行う。
「マジか。こういう奴もいるのか」
その結果が彼の前に即座に示される。
攻撃をして砕いた肉体から骨肉や血は飛び出ない。どれもこれも巨大な竜人族と同じ氷の塊だ。
ではどこに彼らがいるのかと意識を集中させ気を練れば、桃色の空が続く地平線の向こう側、およそ十キロ離れたところで集まっているところが確認できる。
「ちっ。面倒なことしやがるな」
戦いが始まってからここまで、彼は自身の勝利に疑いを持つことはなかった。それは今でも変わらない。
しかしこれまで追い詰めた者達の傷がアイビスや優の手で瞬く間に回復されているのを感じ取れば舌打ちの一つや二つしたくなるのは当然であり、けれど放置しておく気にはならず再び疾走。
「俺が出る。エヴァとアイリーンはメタルメテオに最後の情報登録を。他の者達は」
この戦いを始めた責任者として、そして自身こそが目の前の暴力に対抗できる唯一の存在であるという自負から体力気力共に回復したシュバルツが一歩前に飛び出し、
「いやいい。ここは俺が出よう。それより君はこれを使え」
「これは?」
「神器の修復液だ。これならば時間経過を待たず、その風穴を埋められる」
「馬鹿なそんなものをどこで!」
「熱心な信徒の一人がね。残念ながらそれしかないので、レオン・マクドウェルの方は諦めろ」
それを諫めた男が虚空から小瓶を取り出しさも当然という様子で説明。唖然とするシュバルツに対しそう言いのけながら疾走。
「邪魔だ。どけ」
振り抜かれた拳を躱し、躱し、躱し続け、
「悪いが下らねぇ的当てに付き合うのは飽きたんだ。とっとと死ね」
それでもレオンの完璧な受け流しを下した彼は、そんな男の動きを完璧に読み取り、胴体を捉える。
「思ったよりも早いな」
それを彼は防ぐ。取り出した盾の神器で。
しかしそれはたった一撃防ぐだけで粉々に砕かれ、続く第二の拳で勝負が決することを予期し、ガーディア=ウェルダは拳を振り抜き、
「だが、それくらいならば想定内だ」
「あぁ!?」
続けて出た神器がそれを防ぐ。その身を犠牲にしながら。
それは二度三度ならず、百二百、それどころか千度以上続き、
「何者だ。テメェ」
目の前の男に対し他にはない奇異性を見出した彼は、生まれて初めて他者の名を尋ね、
「クライシス・デルエスク。なに、一時釈放されただけの犯罪者だよ」
かつて賢教を思うがままに操っていた男。ガーディア・ガルフが唯一シュバルツに任すことをためらった現代最強の傑物は、己が名を告げる。
ここまでご閲覧いただきありがとう
作者の宮田幸司です
オールスター最終決戦となれば、そりゃ出てくるよね、という人物達の登場。
二章の最後で猛威を振るった獣の王。数多の人形を操る氷の彫刻家。そしてかつてガーディア・ガルフ直々に仕留めなければならない賢教最強の男の帰還です。
史上最大の強敵を前に、全てを集結させる。個人的に大好きな展開です
それではまた次回、ぜひご覧ください




