綺羅星よ、夜闇を貫け 四頁目
絶望の時間が訪れる。彼らが必死に避けようとした瞬間、それでも避けきれなかった事実が覆いかぶさる。
それはどうあっても逃れられないものだろう。力なきものにとっては時間や重力に等しいものである。
しかし、彼らは力なきものではない。
今日まで生きてきた中で、自身の願いを叶えるため力を磨き続けてきた色とりどりの宝石である。
であれば願わずにはいられない。
その努力の成果がここで活かされることを。今日という日まで紡いできた無数の糸が、過去千年超えることのできなかった事実に届くことを。
「レオンさん!」
受けに回っていたガーディア=ウェルダが動き出したところで、それまで何とか保ち続けていた均衡が大きく揺らぐ。彼を助けるために動いたレインの肉体の半分が奪われ、蒼野は負傷後に追放。そしてターゲットとなっていたレオンは真っ黒の炎の塊により、生死の境目に立つほど重い傷を負ってしまった。状況を大きく傾けさせないよう努力した康太が打ち出した最大の一撃。それは真正面から押し負け、神器の担い手であった康太も爆炎の彼方に消える。
「こ、康太ぁぁぁぁぁぁ!!」
「わかりきってた結果でグダグダ騒ぐな。格上に喧嘩を売った時点で、命なんて捨てるつもりなのが常識だろうが」
その光景に対する態度は主に三つ。
一つはすぐに時間を巻き戻し戦線に戻った蒼野が見せたような、溢れ出す感情を制御できず怒声や涙で表現する者。全体で言うと一割程度。
半分以上の面々の心を占めるのは二つ目で、彼らは疑似的に構築した銀河のエネルギー全てを集中させた銃弾を真正面から打ち破るという破格の事態に対し怖れを抱き、死なないために足を止めることこそしなかったものの、混乱した頭を整理することができずにいた。
『対象の戦闘データを読み込み中。現在――――』
「クソッ。まだ時間がかかるのか! これ以上は待てんぞ!」
「だが今の状態で出すわけにもいかん。仕方がない。ここは俺が!」
「ちょっと待ちなさいシュバルツ。あなたが負ければ私たちはたぶんおしまいよ。ここは彼らを信じて」
ただそれ等でない者達。全体のおよそ三割を占める者達の様子は明確に違った。ここまで絶望的な力の差を見せつけられてなお、その眼には勝利への貪欲な意志があり、それを掴むための準備を整えていた。
「アルさん。あいつのデータを見て、何か気になる点はありませんか? あの途方もない強さには、なにか絡繰があると睨んでるんですが」
『あらゆる出来事を解明するのが私ら科学者の仕事だ。そう簡単に匙を投げたりはしないさ。だがやはりデータが足りない。もっと奴について知らなければ」
シュバルツにエヴァ、それにアイリーンの三人は友が援軍として残した機械の兵に期待を寄せ、積はこの戦闘データを、『戦士』という役職とは異なる視点で見る『科学者』に投げ、一縷の望みを託す。
「…………デカブツから片付けるか。肉盾なんざ、ない方がいいに決まってる」
だがガーディア=ウェルダがそれを待つ理由はどこにもなく、なおも地面に咲き誇る色とりどりの花を踏み、その視線が次なる標的。すなわち腕の再生を終えた竜人族の親子へと注がれ、大勢が顔を曇らせる。あまりにも大きなその体は、仲間の誰が守ろうと足掻いても、逃れられない結末を届けることを予期したからだ。
「俺らの中でも際立って強い旦那らを、ここで失うわけにはいかねぇな」
「だね。ま、無理を承知で頑張ってみようじゃないか!」
それでもなお那須童子と壊鬼が立ち塞がれるのは別々の理由によるもので、一方は使命感から、もう一方は戦士として強敵に挑む性によるものだが、ガーディア=ウェルダにとってそんなことは関係ない。
「どけ」
二度三度と拳を振るい、巨大なキセル型の神器の頭頂部と棘のついた棍棒を粉々に破壊。その奥にいる本体の頭部へと狙いを定め、
「この戦いは、私が始めると言い出したものだ、ゆえに!」
「……あぁそういえば一番うっとおしい奴が残ってたな」
「これ以上の犠牲は許さん!」
そのタイミングでしびれを切らしたシュバルツが、二人の美女の制止を振り切り躍り出る。結果行われる衝突は先に敗れた二人の比ではない。
間違いなく劣勢ではあるのだが、それでも『戦い』の形を保ち続けることはでき、その間に地面の染みといってもいいほど肉体を崩していたアイビスが、何とか体を再構築し接近。さらに遠距離から砲台の役目を担っていたシャロウズも、先ほどの光景が信じられず第二波を打ち出す構えを見せ、
「プロミネンス・D(灼爍の)」
その光景を見届け、ガーディア=ウェルダの掌に黒い炎が集まる。先ほどまでの万物万象を飲み込むような昏い穴の印象とは真逆の、けれど同じ結末を想起させる輝く黒。それは固体としてではなく液体として宙を舞い、
「フェーリ(激怒)」
振り抜かれた腕の軌道に現れると、まっすぐに虚空を進み、支配し、根絶する。
シュバルツの堅牢な構えも、アイビスの参戦も、シャロウズの投擲も、全て、全て全てを自分の色で染め、主が歩む道を作り、
「デカブツもこれで終わりだ」
距離を縮めながらもう一度打ち出された液体状の黒い凶器は、後退していた二体の竜人を飲み込み、その内部をのぞかせた。
「あ?」
そこから見えたのは氷により形成された分厚い断面。すなわち
「久しぶりの外の空気。じっくりと味わいたいところだが、贅沢は言ってられないな」
レインやアイビスら第一陣が待ちわびた援軍。本命の到着である。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です
圧倒的な強さを見せつけるガーディア=ウェルダ
僅かではありますが続いたウェルダ無双。次回からそれに対する反撃回です。
オールスターという言葉にふさわしい援軍の到着。次々と繰り出される奥の手
そしてウェルダの強さの秘密へと向かいます
それではまた次回、ぜひご覧ください




