綺羅星よ、夜闇を貫け 二頁目
「来て早々質問しちゃって悪いけど、あいつは何? 見たところ『ガーディア・ガルフ亜種』、みたいな感じなんだけど。もしかして今の不意打ちで逝った? 逝っちゃった? それなら楽でいいんだけど」
「気を付けて下さい! そいつはミレニアム以上に固いです! 神器を素手で壊せるだけのパワーもあります!」
「はぁ!? それって本当に人間!? というか生物!? いや機械にしても自然現象にしても、あり得ないことじゃないそれ!?」
不死鳥の座が打ち出された鋼属性を固めた攻撃の数々で二メートルに満たない男の体が吹き飛び、その結果訪れた沈黙が活発な声で切り開かれる。『耳を疑う』『俄かには信じられない』という思いを込めて。
「お前らの事なんざ知らねぇし知りたくもないが」
「あ、あら。ホントなのね」
「ずいぶんと慕われてるようだな。意味があるかどうかは別だがな」
その期待に悪い意味で応えるように、桃色の空の下で生まれた新たなる『果て越え』は姿を現す。傷一つない無敵の肉体を晒しながら。
「どういう肉体構造してるのよあんた。生物の限界、というか物質の限界値をぶっちぎってない?」
「………………」
その姿にさしものアイビスも驚愕の息を漏らす。そんな彼女を、男のどす黒くなった瞳は冷めた様子で見つめ、僅かに体を屈ませ、
「あ?」
そのまま己が本能の赴くままに前進しようとしたところで彼の周りが包まれた。色とりどりの球体。すなわち無数のシャボン玉で。
「アイビスさん急ぎすぎっす。敵が厄介であろうことはわかってるんっすから、少しは足並みをそろえてくださいよ」
「この場合戦力の逐次投入なんてする意味がないんだからさ。少しは落ち着いてくれってホント」
「あら? 大切な子供たちを守るために急ぐことをそこまで咎められる筋合いはないはずだけど?」
援軍は次々と彼らの前に訪れる。
シャボン玉による攪乱を行った賢教神器部隊の長、那須童子。ギルド『エジェルン』の経営者にして神教の重役まで担っている初老の強者レイン・ダン・バファエロ。
「それはそうなんだけどね、まだ全員揃ってないのに行くのはいかがと思うんだよ僕らは」
「レオンの奴はどうなのよ?」
「先遣隊を数に入れないでくれ」
「でもアタシが到着したおかげで危機を乗り越えられたのも本当の事よ。そこまで責められる謂れはないはずだけど?」
「まぁ」
「それはそうだがな」
続いてシロバ・F・ファイザバードとクロバ・H・ガンクまで現れ、子供たちを守る盾のように立ち塞がる。
「みなさん! 来てくれたんですね!」
「世界の危機が迫ってるとなれば当然だ。ここで全員で挑んだ方が勝率も高いしな」
「ま! それ抜きにしても僕個人としては、デュークを死なせた畜生と同じツラを殴れるんだ。この機会を逃す手はない」
恐ろしい見た目に似合わぬ質実剛健といった様子で語るクロバ。
続いて爽やかに言ってのけるシロバに浮かぶ笑みは清々しいものであり、蒼野達は彼の本音に思わず苦笑してしまう。
とはいえ味方が増えたことは素直にありがたいことであり、目前のいまだ計り知れない怪物を前に不安になりかけている気持ちが晴れていくが、
「俺の肉体の秘密は、素体になったガーディア・ガルフが原因だ」
「!」
その楽観をかき消すように先を見通せないほど分厚く圧縮された黒い炎が帯を作り、その奥から現れた姿が語る言葉に皆、驚きながらも耳を傾ける。
「俺はこうやって現世に現れるにあたって、ベースとなった奴の体の能力を弄れる。この場合はあいつだな。でだ、あの野郎は無駄に早かった。そりゃもう気が遠くなるくらいにな。だからその分の力を硬度と膂力に回した結果が俺ってわけだ。ついでに言えば千年間練って溜めてた俺自身の力も載せてある」
「総合力ならガーディア・ガルフの上ってことかしら? 最悪ね」
「事情は把握したがなぜそれを俺たちに伝える。お前にメリットなど存在しないはずでは?」
康太の腕の負傷を即座に直し、超級の一発を打ち込めるストックを増やしたアイビス。最前線に立ち、皆を守る盾として動こうと意図するシュバルツ。二人の繰り出した問いを前にガーディア=ウェルダの気は勢いよく昂ぶり、
「単純な話だ。自分を殺す相手のことを何も知らないってのも寂しいだろ?」
言葉と共に、今度こそ動き出す。
「さっきみたいに足止めします。皆さんはその間に攻撃を」
その速度は光の領域を易々と超えている。けれどもガーディア・ガルフの域には到達していないため、ここに集まった彼らはそれをはっきりと捉えることができ、那須が先ほどと同じく様々な効果を用いたシャボン玉で行く手を遮るが、
「生半可な抵抗じゃダメよ! あいつは全部引きちぎってくる!」
叫ぶアイリーンの言葉を示すように黒い獣は依然として突き進む歩みを止めない。
爆発を超え、体にへばりつく粘着力を捻じ伏せ、慌てて援護に繰り出したアイリーンの閃光やシロバの風圧をものともせず進み続け、
「退いて!」
危険を感じた不死鳥の座が敷いた氷や鋼の壁も、微塵も速度を緩めることなく真正面から飛び込み砕く。その姿は一度動き出したら止まらない暴走機関車を連想させるものであり、
「ッ!」
「ナイスエルドラ! デリシャラボラス!」
けれどそのタイミングで、クロバが念話で不意打ちの要請を出した竜人族の二人の拳が、彼の体を押しつぶす。
その余波は周囲にいる面々の髪の毛を掻き上げるほどの風圧を巻き起こし、
「親父」
「こ、こいつは!?」
けれどなおもガーディア=ウェルダに傷はない。
現れた援軍。その全てを『無意味なものである』とあざ笑うように、彼はなおも大地に根付き、
「下らねぇ!」
「なぁ」
「なんだこの化け物は!?」
両者に振り抜かれた二発の拳。その一発一発が、両者の突き出していた右腕と左腕を、肉片にしながら吹き飛ばした。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です
まず初めに、前回から続くタイトルを変えました。なんというか、こっちの方が似合う感じがしたので。
さて本編ではウェルダの強さの理由が紹介されました。
この薬を作った人は、凶暴な人格を作ったうえで、理想的なステータス配分を形成して、戦場に送り出していたわけですね。
現実で言うと、人為的に一点に優れた兵士だったり、オールマイティに活躍できる兵士を作る感じですかね。精神性まで自分たちに都合がいいものにできることを考えれば結構便利な気もします。
まだまだ続く最終決戦。増えてくる参加者に叩きつけられる絶望。
その中から希望を探る戦いをじっくりとお楽しみください
それではまた次回、ぜひご覧ください




