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綺羅星よ、夜闇を貫け 一頁目


 これから起きる出来事、その始まりは三日前。現代を生きる少年少女が千年前に起きた出来事を見終えて数時間経った深夜のことである。

 シュバルツ達が眠り、蒼野に康太、それに優も床についた跡、自身の背後にゼオスを侍らせた積が、重ねた掌の上に自身の顎を置き、無数に展開したモニターを前に語る。兄の意志を継ぐことを決意した彼が話した内容は、自身が知った様々な出来事。すなわち千年前の記憶に他ならない。


「というわけだ。放っておけば世界を食い殺すような怪物が現れる。でだ、ここに集ったお歴々には、その討伐に手を貸してほしい」


 目にしたものをそのまま見せることはできなかったので、モニターの奥に控える各勢力の有力者が得る情報は積が口にするものに限られるわけだが、様々な職種を経験した彼の語りは慣れの色が見られ、十分な情報が含まれている上で思考の妨げになるような不必要な情報はなかった。

 そのような説明は彼の背後にいるゼオスでは絶対できないものであり、その自覚があるからこそ、ゼオスは顔には出さないが、内心で彼を称賛した。


「信じられんな」

「だな」

「いや君たちを疑っているわけではないんだ。ただ……脳が理解を拒んでいる」


 末尾となる言葉を発し終えたところで僅かな沈黙が訪れ、しばらく続いた逡巡の末に発せられたのは、『困惑』の色に染まった打算など一切ない素直な言葉なのだが、モニターの向こう側にいる彼らの反応は十分に予想できたもので、積とゼオスは動じない。

 なにせ数時間前の自分たちが同じような気持ちに陥ったのだ。ここで責めることが卑怯なことくらい理解しているし、それをしたところで事態が自分たちの望む方向に進まないことも承知している。


「えーとだね、まず最初に聞いておきたいんだけどね積君?」

「どうしたんですかシロバさん?」

「うんあのね、そもそもの話なんだけど………………ガーディア・ガルフを助ける理由が君たちにあるのかい? こう言っては何だが、彼を見捨てさえすれば、全て丸く収まる気がするんだ」


 桃色のシャツに袖を通した美男子が、やや遠慮しながら伝えた気持ちも十二分に理解できたし、その言葉に同意を示すような色を見せる他の者らを非難の目で見ることもなかった。


「いや、それだとガーディア・ガルフが救えない。それじゃダメだ。それは原口善が行うような行為じゃない。目指していた未知じゃない」


 その意見の否定の言葉の裏に佇んでいるのは、彼が兄の意志を継ぐと決めた上で『譲れない一線』であり、兄譲りの鋭い瞳で迷いなく言い切った内容に、誰も反論することはしなかった。


「……それにこれは、おそらく亡きゲゼル・グレア最後の頼みでもある」

「それは?」

「……ゲゼル・グレアが遺した神器。その新たな形だ」


 そうして出来上がった空白に今度はゼオスが言葉を挟む。積ほど説明上手ではない彼は、けれど誰の目で見ても明らかな証拠の品を堂々と晒し、続いて人工島で行われた戦いの顛末を積が語った。


「情報の波が強すぎるな。だがとりあえず前の話と総合するとだ、シュバルツ・シャークス達は、君たちと共に行動していると。つまり味方になったという事でいいんだね?」

「はい。それは断言できます」

「残る敵はガーディア・ガルフただ一人。いや君が語る通りならば、その奥にいる者も含むと。そしてわざわざ必要もないのに、死の危険に晒される戦いに進んで参加する。なんとむごい。なんと恐ろしい。なんと、なんとなんと」


 全てを終えた時、最初に胸に抱いた疑念を口にしたのは貴族衆の長であるルイで、感想を告げたのは魚人族の長であるキングスリングであった。特に多くの者の印象に残ったのはキングスリングが口にした乱雑で長ったらしい感想であったが、けれどそれを責めたり非難するものはいなかった。誰もが同じ気持ち、つまり強烈な混乱に襲われていたのだ。


「で、だ。もしもこの報告を聞いてくれた奴の中に」


 混沌極まりない場で行われる各勢力の長やそれに近しい立場の者らが行う様々な意味を込められた会話。それをかき分けるように音量を最大まで上げた積の声が発せられ、


「三日後に行われる最後の戦いに『参加してもいい』って人がいるなら、ギルド『ウォーグレン』に来てくれ。俺たちが戦った様子を見て、その結末を見届けた上で、腹を決めて『門』を潜ってくれ」


 善の真似が仕切れていない、それこそ原口積という存在が抱えている本音が見え隠れする声色を、彼らは聞く。その心の底を見通すように。


「あぁ。それとエジェルンさんに頼みたいんだが、確か時間間隔を伸ばす能力持ちがいるんだよな。そいつをこの三日間だけ借り受けたい。ガーディア・ガルフにせよその後に控える化け物にせよ、速度に対応できないんじゃ話にならないからな」

「う、うん。いいよ。それくらいならお安い御用だ」

「…………以上だ。ご清聴感謝する」


 ただそのような態度はすぐさまひっこめられ、およそ十分、しかし体感時間としては一時間以上経ったかのような説明を締めくくる言葉を積は発し、多くの者達は現実に舞い戻る。

 三日後、ギルド『ウォーグレン』に所属する善の残した生きた遺産が、必要のない危険に飛び込むと知ったうえで、自分たちはどう立ち振る舞うべきかという難題に晒された上で。


「……どの程度が参加すると思う」

「兄貴の受け売りを使ったってバフにゲゼルさんの遺産っていうバフ。それにそもそも極限の戦いを楽しみたい壊鬼さんタイプ。そこに勢力ごとの力関係なり後々の動き方を考えりゃ――――五人以上、十人以下。いや、希望的観測を見積もって、ギリギリ十人に届くってところか?」


 その姿をじっくり観察することもなく積はモニターの電源を切り、背後から投げかけられたゼオスの質問に対し、疲労の色を感じさせる息を吐きながら答え、


「レオンさん!」

「遅れてすまない。どうやら、思った以上の化け物みたいだな」


 その成果の最初の一。それが三日経ち極限の戦場に挑む今、彼らの前に現れる。

 美しい橙色の髪の毛を携え、男とは思えぬほどきれいな顔立ちをした二本の神器を携えた剣士。かつては『勇者』の二つ名で呼ばれていた、どれほど思い悩んでも根本を変えきれなかった暗殺者。

 すなわちレオン・マクドウェルの乱入である。


「気を付けてください! 多分レオンさんの斬撃じゃ傷一つ付けれません! シュバルツさんや康太の銃撃に繋ぐイメージで動いてください!」

「神器の刃で傷一つつかないだと? ミレニアムのような体をしてるんだな!」


 登場直後からおよそ数秒、現れた第二の『果て越え』の繰り出す攻撃の数々を捌き、その過程で姿勢を崩す。それにより本来行われるはずの秒間攻撃回数の大半を彼は削ぎ落とし、


「感謝する!」

「貴方にそう言っていただけるのなら光栄だ!」


 シュバルツの斬撃がぶつけられるだけの隙さえ稼いだ。


「面白れぇ技だな。どこまで通用するか試してみろよ」


 が、ダメ。

 振り抜かれたシュバルツの一撃は、ガーディア=ウェルダの神器さえ超える強度の肌から僅かな血さえ流すことができず、彼は微塵も怯んだ様子を見せず、体勢を整えると再度攻撃を開始。


「っ!」


 その精度に速度。そして動きのバリエーションに、レオンは早くも顔を歪める。己が磨き上げた技術の粋が、瞬く間に追い抜かれる感覚に心胆が冷える。


(単純な膂力だけじゃないな。これは…………反射神経か!)


 その途中にそこまでの事ができる絡繰、他の者がいまだ完璧には把握していなかった強みもしっかりと理解し、けれど対応しきれぬ力の差に顔を歪め、


「まずはテメェが退場しろ!」


 彼の見ている前でガーディア=ウェルダの瞳はこれまでは見せていなかった形に変質。すなわち瞳の全てを真っ黒に染め、口の端が裂けるような凶悪な笑みを浮かべる。すると目標であるレオンを完璧に捉え吹き飛ばし、その身が木々にぶつかるよりも早く易々と追いつくと、


「い~位置ね。すごくいい。それに意識がこっちに全く注がれてないのもいい。これはあれね」

「っ!?」

「『格好の的』なんて言うやつね!」


 致命の一撃が撃ち込まれるよりも早く、その全身を数十本の鋼の杭が襲い掛かった。


「お待たせみんな。それと積。三日前の啖呵は完璧よ」

「姉貴!」

「お姉さま!!」


 その攻撃の発射口。すなわち担い手の姿を見て戦場にいた者達は顔を綻ばせ、降り注ぐ虹色の光による傷と疲労の消失に感謝する。


 神教最強の実力者にしてセブンスター『第一位』、不死鳥の座アイビス・フォーカスの参戦である。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


最後の戦い。集う仲間達という王道中の王道展開。長く小説を書くと決めた時点で絶対にやると決めていた話です。

計算高い積は今回の戦いの援軍は十人ほどといっていましたが、最終的には何人になることやら。


あと、ウェルダがいきなり瞳の色を変えましたが、これはトドメの際の変化とかではないです。ちゃんとした意味があります。


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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