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ガーディア=ウェルダ 二頁目


 夢を見ているような感覚に彼らの多くは陥っていた。

 いや正確には、現実にいることはしっかりと把握しているものの、見ている光景がどうしても本当の事であると思えなかった。

 それこそ創作などでしか語られることのない出来事が目の前で繰り広げられ、脳が理解を拒むような反応を起こしていたのだ。



 それほど『神器が素手でくり貫かれた』という事態は異常であった。



 同じ神器をぶつければ、延々と強力な攻撃を繰り出し続ければ、ごく稀に、選ばれた者だけがすることができる。神器の破壊とはその類の特別な行為であると彼らは思っていたし、そのためには途方もない準備や訓練が必要であると認識していたのだ。


 がしかし、そういう彼らの中の常識を、『果て越え』から生まれた新たな『果て越え』は易々と超える。

 神器である以上能力が通用するわけがなく、練気のように練り上げた武を用いたわけでもなく、本当にただただ圧倒的な暴力で、男は奇跡なんて言葉では到底片付けられない事態を巻き起こした。


「お、おぉぉぉぉぉぉ!!」

「怯まず向ってくるか。豪胆だな」


 その状況でなお一切緩むことなく、いの一番に動けたのは己が神器をくり貫かれたシュバルツで、神器を砕いてなお迫る腕を払いのけ、神器に刺さっていた右腕を無理やり抜き取ると、いまだ原型を保ち、その切れ味をしっかりと残している己が得物を振り抜こうとし、


「余計な火の粉を吹っ掛けてきたのはテメェらの方だ。死にたくなけりゃ足掻くんだな!」


 それよりも早く、この場にいる誰の目で見ても明らかに危険すぎる右腕一本の猛攻が、シュバルツへと向け注がれる。


「っっっっ」

「ほう。得物なしでも足掻けるか」


 それをシュバルツは捌く。主力である剣よりもさらに近い距離に迫っているということで、左手一本で抵抗を続ける。その動きはまさに熟練のもの。剣士ではなく武道家としても彼が優れているという証左であり、


「だがダメだな。お前だってわかってるはずだぜ?」


 同時に、その程度では『果て越え』には届かないという証明でもあった。

 シュバルツの見事な回避と受け流しは、けれど数秒も経たぬうちに均衡が保てなくなり、彼自身もあと数度の呼吸のうちに、自分は首を締め付けられ死んでしまうだろうことを予期した。


「シュバルツ!」

「アァッ?」


 ただ、その想像が現実になることはない。なぜなら彼は一人ではなく、窮地に立たされた時、それを回避するべく動く者たちがいる。ガーディア=ウェルダの腰にエヴァが作り上げた真っ白な帯が張り付き、同じように顔面を砕かれていた蒼野と優も力を貸し、三人の力でガーディア=ウェルダを引き寄せる。

 彼の向かう先には、同じく彼女が展開した底なし沼があり、


「仕掛けるぞ!」

「一撃じゃどうやってもダメージを与えられねぇ! 反撃をさせない勢いで攻撃を繰り返すぞ!」


 その中にガーディア=ウェルダが腰を沈めた直後、号令が発せられ攻撃が繰り返される。

 顔に肩、脇腹にヘソ、いや考えられうる全ての場所にその場にいる全員の攻撃が注がれていく。攻撃と攻撃の合間に隙間はなく、呼吸することさえ許さず、窒息死させることが目的のような勢いで。


「っ」

「うぅ」


 それほどの猛攻を仕掛け、しかし彼らの心にはヒビが刻まれる。

 攻撃を浴び続けても微塵も揺るがぬ強烈な気に、それを保持できるだけの硬度と微動だにしない姿。そしてガーディア・ガルフと比べ僅かに鋭い視線が、無言で攻撃する者達を睨みつけているのだ。彼我の実力差を早くも感じ取っているゆえに、彼らの胸には重い感覚がのしかかる


「燃え盛れ」

「「!!!!」」


 全てを侵食する解号は、攻撃が雨のように降り続ける中で。

 無数の豪快な音や爆音をかき分け、戦場に立つ全員の耳に届き、


 その直後、炎がガーディア=ウェルダの体から噴きあがった。


 通常の赤や紅で表されるよう色ではない。ゼオスのように紫紺の炎なわけでもない。

 光を一切通さない、強烈な質量と密度を感じさせる真っ黒な炎。

 触れたものすべてを飲み込む漆黒は彼らの攻撃全てを焼き尽くし、その直後に姿を消した彼は、最前列に立っていた蒼野と優、それにエヴァという再生・回復能力持ちの全身を再び焼き尽くし、そんな三人を見届けながら男は悠然とした足取りで、その背後にいた者達へと向け一歩前に踏み出し、


「この野郎ぉぉぉぉぉぉ!!」


 二度も蒼野に致命の一撃を当てたという事実が、康太に咆哮を上げさせるだけの理由となる。

 続いて照準を合わせ、元々打ち出す予定であった最大火力、すなわち疑似銀河から搾り取れる粒子全てを捧げた銃弾を構成し、躊躇なく引き金を絞り、


「なるほどな。『武器』はあるってことか?」

「なぁ!?」


 彼らの身に、再び凄まじい衝撃が迸る。

 『星一つ』などという言葉では片付けられない。無数の星々を疑似的とはいえ再現し、それ等に宿る全ての粒子をくべて打ち出された康太の片腕を犠牲に打ち出された最大威力の一撃。


 ガーディア=ウェルダはそれを真っ向から否定する。神器を砕いた時と同じくまっすぐに拳をぶつけ、一瞬のあいだ白黒の光が明滅したかと思えば、難なく彼方へと吹き飛ばした。

 ガーディア・ガルフやシュバルツがやっているように『真横から叩いて彼方に飛ばす』などという小細工を弄することなどせず、圧倒的な膂力で捻じ伏せたのだ。


「死ね」


 そんな彼の殺意が、自分に届く武器を備えていると認識した康太に注がれ、康太はそれから逃げるよう動き出すが、そんなものが間に合うわけもない。

 すぐに追いついた彼は握った拳の照準を頭部に合わせ、勢いよく振り下ろす。


「――――――!!」


 逃げる姿勢になっていたため彼がそれを受け止めることなどできるはずもなく、万が一受けるとしても、シュバルツほどの膂力がない彼が辿る結末など目に見えている。他の者達も同様であり、であればこれは、明確な『詰み』である。


「間に合った、か」

「……誰だテメェは?」


 ただし、それはつい先ほどまで、この場にいたものが対処する場合である。


「……俺は」


 例えばそう。攻撃の威力を真正面から受けることなく、完璧な『受け流し』ができる者がいるのならば話は違ってくる。


「この戦いに参加したギルド『ウォーグレン』。彼らの保護者だ」


 つまり、今しがたこの場に現れたレオン・マクドウェルならば、他の者とは違った対処の術があるのだ。






 この戦いに参加した多くのものは思い知らされた。自分達では勝てないと。


 しかし、それは自分達『だけ』で考えた場合の話である。だが、この話は彼らだけでは終わらない。


 人類は今、たった一人の『果て越え』を下すため、集結することになるのだ。 


 


 




 


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


VSガーディア=ウェルダは次なる段階へ。

最大最強を迎えるラストバトルが彼らだけでとどまるわけもなく、戦いの規模は広がります。


言ってしまえば三章のエクストラステージ、ラストバトルは二章の真逆で、一対一のタイマンではなく、レイドボスに対する総力戦のような様相ですね。


本編でも語った通り、全員が力を合わせることで勝利を掴むお話です


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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