神殺しの獣ウェルダ 二頁目
強者の予期せぬ敗北や墜落。その理由は多々ある。
毒を用いた暗殺や自身が敷いた態勢を崩す扇動者や救世主の存在。はたまた予期せぬ超新星の到来だってあり得る。
がしかし、その全ての原因を一言で言い表せる。
仕方がない面もある。様々な偶然による結果ともいえるだろう。しかし『知識』さえ備えていれば、多くの事柄は回避できた。なんとも泥臭い言葉であるが全てはその一点に集約されるのだ。
革命家は扇動者の存在にいち早く気付いていれば対処できただろう。
地位ある者は暗殺者の存在に気付いていれば毒杯を警戒し、毒見係を設けていただろう。
極まった力を持つ者は強敵の出現を予期し対策を組んでいれば負けることはなかった。
つまり高い地位、何人にも脅かされることにないものは、常日頃から様々な『知識』を身に着ける必要があるのだ。
もちろん様々な物事に挑むだけのやる気や、実行に映るための様々な力が必要ではあるが、最優先に必要なのは『知識』ないし『情報』と呼ばれるものなのだ。
そして此度においても、その脅威は迫ってくる。
情報を集められる材料がなかったことが理由であるとはいえ、致命的な思い違いをしてしまい、その代償を今、彼らは自身の身をもって思い知らされる。
知らなかった事実は、ガーディア・ガルフが飲み込んだ薬の効能。体内に宿った獣性の行きつく果て。
そもそもとして嘘偽りの情報を握らされていたゆえにシュバルツ達だけでなくガーディア・ガルフでさえ知らなかった事実であるが、彼の体内に宿った『それ』は、長い年月をかけることで獣の形なぞという不完全なものではなく鏡合わせのように瓜二つの存在として形成され、今この瞬間、分厚く強固な封印を突き破り顕現した。
真っ黒に染まった髪の毛に、サメなどの肉食動物を連想させる鋭利な歯。けれどそれ以外の大部分は依り代となったガーディア・ガルフと共通している彼は星一つない夜闇の如き『黒』を衣として全身に纏い、花咲き乱れる大地に降り立つ。
彼こそは名も知らされていない『神』を打倒するために生まれた歪んだ一番星。
「――――!」
その脅威が桃色の空の下に集った役者達に襲い掛かる。
なんの前触れもなく振り抜かれたそれは、最初に攻撃を仕掛けた蒼野の頭部を確実にとらえる軌道を描き、もはや呼吸する間さえ与えず、彼の脳症をぶちまけることを確定させる。
「むん!」
無論それはなんの妨害もなかった場合の話である。実際にはシュバルツがいち早く動き、振り抜かれる右腕に巨大な神器を真下からぶち込み、それが終わるや否やゼオスが胴体を深々と袈裟に斬り裂き、追い打ちに康太が持っている神器の引き金を絞り、ゼオスが切り裂いた軌道に合わせ銃弾をぶち当てた。
「!!!」
こうして蒼野は助かった。傷一つ負うことなく。
「ごめんなさい。決戦の場が移動した事に気づくのが遅れちゃったわ。大丈夫だったかしら?」
「様子を見るに何とか間に合ったのではないかと。しかしあの姿!」
「ガーディア………………か? そうかそうなのか! シュバルツの奴が予期した獣とやらは出現しなかったんだな!」
「落ち着いてくださいエヴァさん。お探しのガーディアさんはあっちで寝てます。あそこにいるのはそのそっくりさんです」
「そ、そうなのか? いやでも本当に似てるぞ。容姿だけではない。気配だって」
「それはアタシも思いましたね。ウェルダ? とか言われてるあいつって、エヴァさんに見せてもらった過去のガーディアさんと似た口調と雰囲気なんですよね」
続けてエヴァにアイリーン。そしてメタルメテオの三者が到着。
ここに彼らが当初予定していた戦力は揃った。いやメタルメテオの参戦を考えれば、予定を上回るものになっていたと言えるだろう。
けれども彼らはみな一様に歓喜の念を発しているというわけではなかった。浮かべる表情や発する空気の明暗が、明確に分かれていたのだ。
今来たばかりのエヴァ達に蒼野に優。それに積の表情には安堵があった。歓喜があった。そのうえでこれから挑む戦いに対する闘志と凄まじい集中力があった。
「…………シュバルツ・シャークス。俺は、夢でも見ているのか?」
「いや、残念ながら現実だよこれは」
「っ」
だが残る三人。児戯に等しい初接触を終えた三人の表情は暗い。早くも胸の痛みを訴える感覚に襲われ、戦意に陰りさえ見える。
この時点で彼らは『死闘』という言葉では足りない範疇の戦いを予期してしまっていたのだ。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です
申し訳ありません。
ここ最近忙しかった影響で体調を崩してしまいました。そのため十分な量に達していません。
仕事の方が忙しく、体調が回復するのに少々時間がかかるかもしれませんが、何とか二日に一度は投稿したいと思うのですが、無理そうな場合、また連絡させていただきます。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




