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果ての先のそのまた先へ 四頁目


 最後の戦いが始まった。

 世界すべてをひれ伏せさせるかのような咆哮が教会内部に轟き場を支配し、蒼野達五人は反射的に体を跳ねさせると一拍遅れ彫刻にでもなったかのように体を固めるのだが、そんな彼らを見届けるより早く、既に『果て越え』は動き出していた。


 そしてそれを迎える男。すなわち彼の相棒たるシュバルツもまた、それに呼応するように動いていた。蒼野達のように怯むようなことは微塵もなく、真正面へと一歩踏み出し――――直後には背後を向き、強く握っていた剣を躊躇なく振り抜いた。


「は」


 『早い』などと感想を蒼野が言う暇もなかった。その時には既に数多の衝突音が響きわたり彼らの口から発せられる言葉を消し、それが終わるよりも早く血の帯を顔から生み出していたガーディア・ガルフの体は教壇の上に移動しており、シュバルツ・シャークスが鋭い視線を送っている。


「友達だからこそ私の道を阻む? 君は、君は何を言っている」

「…………」

「困っているときに手を差し伸べるのが――友達なんじゃないのか? 味方なんじゃないのか?」


 友の視線に怯み悲痛な色を奏で続けるガーディア・ガルフは、蒼野を除いた四人を滅するために余力を残すということさえ今はしていない。千年ぶりに襲い掛かる抑えきれない衝動に身を任せ、友の真意を測る。


「そうだ。お前の言う通りだ」

「ならばなぜ」


 蒼野達の耳ではとらえられない速度の言葉が彼らの間で流れ、それと合わせるように万を超える攻防が行われる。

 その最中にシュバルツの体がふわりと浮いたかと思えば消え去り、二人を探し始めた五人はほぼ同時に教会と外の境目になっている扉が砕けているのを見つけた。


「壁と違って扉は砕けるんだな」

「いや鍵をしてなかっただけっぽいな。封をしてたら今の衝突でも壊れてなかった可能性があると思うとちょっと怖いな」


 さほど広くない戦場で行われていたあまりにも現実離れした戦いの規模に彼らは思わずそんなことを呟いてしまうのだが、そうしている間にも二人の戦いは繰り広げられる。

 花や緑など命蔓延る大地で足を止めたシュバルツに対し、影一つ残さず、音を遥か彼方に置き去りにしてガーディア・ガルフは襲い掛かる。残り少ない命の蝋燭を、己の意志で燃やしながら。


「シッ!」


 二メートルほど飛び上がった状態で体を縦に三十回ほど回転させながら脳天へと落下。それが直撃しないように剣を構えたかと思えば既にガーディア・ガルフの体は真横に移動しており、短刀による突きを何度も行っていたかと思えば、真逆の方向からは散弾銃のような勢いで炎の塊がシュバルツへと襲い掛かっていた。ここまでが一ミリ秒の間に行われ、


「円帯・閃月」


 その全てを退けるようシュバルツは真上に構えていた剣を弧を描きながら真下へ。そこからさらに真逆方向に弧を描きながら真上へと持ち上げ、全ての攻撃を剣圧で潰していった。


「ふむ」


 もちろんその攻撃が本体であるガーディア・ガルフにまでは届かない。そんなことはシュバルツとてわかっている。


「どうした? やはり死にかけの体ではそれが限界――」


 だから続く言葉はただの煽りだ。言う必要など何もない。

 ただ彼が綴る言葉を最後まで聞くまでもなくガーディア・ガルフは友が綴る言葉の末尾までを把握し、その煽りに応えるように右足に分厚い炎を纏い、

  

「――――フンッ」


 それまでの攻撃とは比較にならぬ、速さ熱量共に最大の蹴りが撃ち込まれ、シュバルツの体が後退。


「オレ達を相手にしてる時ってよ、文字通り『児戯に等しい』ってやつだったんだな」

「悔しいけどそうだろうな」

「どっちも、ね」


 後退する肉体を追い越したガーディア・ガルフが両手を炎で包むと、既に体勢を整えていたシュバルツが手にした神器を今度は上段に構え、


「濁流落花」


 無数の拳全てを一つずつ丁寧に、剣を振り下ろしては振り上げ、それをまた振り下ろすという動作を無限に繰り返し、剣圧と水流、そして刃自身の三重防壁で防ぎ、いつの間にか背後を奪っていた友に対しても人形のように精密かつ迷いのない動きで完璧に対応しきった。


「ッ」

「………………ッ」


 するとガーディア・ガルフは最後の一撃を見届けた直後にさらに一歩踏み込むのだが、そのタイミングで勢いよく吐血し動きを止め、あまりにも大きな隙を前に、けれどシュバルツは反撃をすることなく、


「終わり、だな」


 膝を突き、目と鼻と口から血を延々と流し続けるの友の死に際を目にして、沈痛な面持ちと静かで悲しみに包まれた声でそう告げ、


「我が身は」

「!」

「数多の果てのその先に!」


 そんな彼の言葉を遮るように力強い声を上げ、『果て越え』はその身に少々白みを帯びた炎を纏い、


「神威炎導! 光陰敏速!」

「照準固定!」


 対峙するシュバルツは流れるような言葉に合わせるように青い練気を纏い腰を落とし、全身に漲る力の方向性を一か所に定め、炎が形を成していく様子をしっかりと目にしながら、友を仕留めるために編み出した究極の一の名を口ずさみ、


「神速――――」


 厳かに、デュークにヴァン、それに蒼野の時にも微塵も見せなかった、己が編み出した炎の深淵に繋がる言葉を続け、


「滅失!!」

「白虎!!」


 最大最高の一歩を伴った斬撃を前に白い獣が口膣を開けながら駆け、解け、姿を失い、


「――――――」


 シュバルツの体に触れるよりも遥かに早く、泡沫の夢となった。


「すまん」


 そしてシュバルツの攻撃は当たる。深々と切り裂くわけではない。ほんの数分前にゼオスが与えた傷よりも浅く、けれど確かに彼の刃が届いたことを示すように頬には細く伸びた赤い線が走っており、そこから垂れた目や口や鼻から溢れるよりも遥かに少ない血が、この戦いの終わりを示していた。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


めちゃくちゃ遅くなってしまい申し訳ありません。明日に延期も考えたのですが、流石にこのタイミングでそれはないなと思い、日を跨いでしまいましたが投稿させていただきました。


ちなみに最後の最後にガーディア殿が使った技は本気の本気。秘中の秘。死にかけながらも、当たればシュバルツもまずいと思うほどの一撃です。


さて今回にて戦いは終了。次回、シュバルツによる回答編です


それではまた次回、ぜひご覧ください

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