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果ての先のそのまた先へ 三頁目


 感情の多くを削ぎ落とした『果て越え』ガーディア・ガルフ。そんな彼がなおも驚き、明確な狼狽を示すものが二つある。

 一つは既に提示されている通りゲゼル・グレアに関する事柄。

 彼本人でなく形見である神器を見るだけであまりにも明確な動揺を示し、どれほど強くなったにしても格下であるゼオスの攻撃を僅かでも受けるという結果を見る通り、その効果は絶大である。


 しかし彼が驚き、明確な狼狽を示すもう一つの要素の効果はそれさえも上回る。


「………………馬鹿な」


 今、彼は間違いなく死の危機に瀕している。ただ立っているだけでも力は体内から失われていき、何もせずとも一分後には地に伏し息絶えるであろう。


 その事実を彼はしっかりと把握している。

 だというのに彼はその事実さえ彼方へと放り投げ息を詰まらせる。目を疑う。心臓を跳ね上げる。絶対に、それだけは『絶対にありえない事態である』と信じていたゆえに。


「なぜ、なぜ君が」

「生きているのか、とでも言いたいか。まぁそれには色々と理由があってな。彼らが許してくれたから生き延びられた。未来に希望を持てたから前を向けた。けどなにより――――――お前がまだ生きてると知ったからだろうな」


 そのような思い込みをしていたのは、まず第一に彼の体を包んでいた神器の効果がなくなったためであった。

 これはシュバルツ・シャークスが抱えていた秘密であったのだが、実は解除に関しては刃を通す必要はない。だから孤島での決戦が終わった直後にアイビス・フォーカス相手に行った行為は、この真価を隠すためのただのパフォーマンスである。

 この秘密はガーディア・ガルフとて知らず、だからシュバルツの神器の効果が消えた瞬間、彼はすぐさま担い手の死を思い浮かべ、もはや二度と顔を合わせることはないと思っていたのだ。

 

 とはいえ実のところこの理由は彼にとってはさして重要なものではない。他の者ならばシュバルツ・シャークスが死んでいると思い込む十分な理由になるのだが、ことガーディア・ガルフにとっては些事に等しい。


「なぜお前がその場所に立つ!」

「………………」

「それではまるで。まるで………………っ!」


 彼にとって最も重要な理由。いや事実はシュバルツ・シャークスという人間が『生きていたこと』ではない。もちろんそれも重要なことだ。しかしそれ以上に、生きていた彼が『自分と敵対する姿を見せていること』こそが彼にとって最も重要かつ信じ難い事実であり、その光景を目にして失われたはずの激情。すなわち積に対し見せたものとは比較にならぬほどの憤怒が全身を駆け巡り、次の瞬間には彼の肉体が消える。


「さすがに早いな!」

「は」

「……早いな。今の俺の動体視力でも追いつかんか


 蒼野やゼオスでは見えなかった。けれど彼は違う。

 『皇帝の座』『果て越え』『人類史上最強』、あらゆる呼び名を得た男の隣で最も長く戦い続けた巨躯は、音も気配もなく光さえ置き去りにする速度で消えた友の姿をしっかりと捉え、首に迫った炎の刃をいつの間にか手にしていた神器で弾き、蒼野達の目では視認することができなかった第二第三の刃も完璧に防いだ。


「偽物ではない、のだな」

「あぁ。正真正銘、本物のシュバルツ・シャークスさ。ついでに言えば死体でもないぞ。見て見ろ。頭に天使の輪なんてついてないだろ?」


 もはやできぬはずの『駆ける』という行為を無理やり行った代償でガーディア・ガルフの目と鼻から滝のような勢いで血が流れ、吐血と共に体が左右に揺れるが、そんなことなど知った事でもないというように瀕死の彼は目前の友を見据え、


「本物なら」

「ん?」

「なぜ私と敵対する。お前は――――いつだって私の味方なんじゃないのか?」


 全身を襲う痛みからではない。

 この世界で最も信頼し、いつだって味方であると信じていた男が、己に敵意を込めた刃を向けている。その事実が苦しくて顔を歪め、信じられないという感情が込められた言葉を発し、


「君だけは、君だけは何があっても私を肯定してくれるんじゃないのか? いつだって隣にいてくれる、最高の友達なんじゃないのか?」


 続けて語られた弱音とした思えない言葉。それを聞き蒼野達は耳を疑った。

 自分達よりも遥か高みに存在する男。彼が口にした幼子が親に投げかけるようなあまりにも幼稚な言葉を耳にして言葉を失うが、ガーディア・ガルフにとってシュバルツ・シャークスとはまさにそのような存在であったのだ。いつだって側にいてくれ、叱ることはあれど自分を否定することなど絶対にない『戦友にして最高の友達』。

 この最後の戦いに挑む際であっても『もしシュバルツが生きていてくれたのならば、自分の側にいて心強い味方となってくれたのに』などと考えたくらいである。


 そんな彼が自分の側にいないこと。自分に敵対していること。それがガーディア・ガルフは信じられない。いや理解できない。

 そうなってしまった理由が皆目見当つかない。一ミリたりとも思い浮かばない。


「友達さ。いつだって私は、お前の味方さ」

「ならばなぜ!」


 命の雫が彼の体内から消えていく。もはやあと十数秒の命であるとわかっていながら彼は更に命を削り友に対し獣の慟哭のような声をあげ、


「友達だからこそ、お前の前に立つんだ!」


 返礼とばかりに彼もまた吠えたてる。


「――――――」


 それを聞いたガーディア・ガルフはほんの一瞬だが呆けた表情を浮かべ、


「お、おぉぉぉぉ」

「ひっ!?」

「こ、こいつはぁ」

「ガーディア・ガルフの、本気、か!!」


 次の瞬間、蒼野達相手、いや現世に蘇って以降は一度たりとも見せることがなかったほどの練気を放ち、


「来い!」


 それに応えるようにシュバルツは剣を中段に構えた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


クライマックスシーン前編。ガーディア・ガルフがシュバルツ・シャークスに向ける激重な感情。

彼がそう思った理由の深掘り。この戦いの結末。そして友である男の言葉。その全てを次回で語れればとも思いますが………………中編後編くらいにはなるかもしれないので、お許しください


それではまた次回、ぜひご覧ください

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