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果ての先のそのまた先へ 一頁目


 古賀蒼野


 彼がガーディア・ガルフという個体が望んだ希望の星であることは既に語った通りである。彼の持つ『原点回帰』こそ、彼が望んだ『完全なる死』を与えられる現状唯一の手段であり、此度の戦いでそれを使わせるために彼は少年の仲間を人質とすることを選んだ。付け加えると、語ってはいない事であったが「時間回帰」の方も彼は気に入っている。これは体力や気力の再生や補充ではなく『時間の逆行』であるため、戦えば僅かな時間で限界を迎える今の脆弱な肉体を延命できる数少ない手段であったからだ。


 そんな古賀蒼野を『果て越え』は自身にとって『最良最高に都合のいい一個体』として見ていた。そう見誤っていた。

 その裏に隠された決して見落としてはいけなかった真実を探ることをしなかった。最も、ほんのわずかに歩くだけでも極限の疲労を強いられるほど衰弱していた彼にそれを言うのは酷ではあるのだが。


 ゆえにここで語ろう。ガーディア・ガルフだけが気づけなかった真実。彼の右腕であるシュバルツ・シャークスが気づけた見過ごせない一つの事実を。




『蒼野君。一つ確認させてくれ。とても大事な事なんだ』


 原口善を失い、けれどなおも戦場に馳せ参じることを選んだ五人の若人。その過程で彼らは自身の力や考えを見つめなおし、ゼオスは考えを改めゲゼルが遺産として残していた神器をその手に手繰り寄せた。積は兄の意志を継ぐ覚悟を決め、余人では扱えぬ領域の究極の錬成に手を出した。

 優や康太とて明確な変化はなかったが、その心中は穏やかなものではなかった。


 そんな中、ゼオスや積と同じく大きな変化を成したのが蒼野だ。

 尊敬できる師を失ってなお修行を続けた彼は、その成果もあって新たな力を得た。それが『時間破戒』。結果に至るまでのあらゆる過程を吹き飛ばすことができるという能力である。

 蒼野はこれを自身だけでなく仲間にまで使うことにまで考えを及ばし、積との連携の末にアイリーンを下すという大戦果を挙げるに至ったのだ。


『は、はい。大丈夫ですけど。どうしたんですかシュバルツさん?』


 実のところ蒼野達五人にとってこの能力の価値はそこで終わっていた。『溜めに時間がかかる積の究極錬成の時間を省略できる』『回復にかかる時間をなくせる』『背後や死角に移動する動きを悟られない』など、利便性でいえばその時点で十分であったからだ。


『君のその能力の本質。それは間違いなく『時間の省略』だろう』


 シュバルツにしてもその能力の本質を見誤ることはない。彼らの見解や認識を正しいと認めていた。


『ただその能力が示す時間の矢印は過去と未来のどちらに向かっているのだね? 私はそれがとても気になる』

『え?』 


 問題なのは、ことガーディア・ガルフという相手にとってのみ、その力に秘められたシステムが文字通りの『特攻』になりうる可能性があるということで、戸惑いを示す蒼野に対し彼は喋り続ける。


『『時間回帰』や『原点回帰』は、あらゆるものの『時間を戻す能力』だ。だから時を示す矢印は過去に向いている。だが『時間破戒』にその様子はない。なんせ』

『『過程の省略』ってのはいわばこれからやってくる時間をなくしてること…………あんたの言う通りなら矢印は未来を向いてるってことか!』

『そうだ。そしてそれが『時間を進める』という意味を秘めいてるなら、今回の戦いにおいて間違いなく最強の切り札になる。なぜなら』

『ガーディア・ガルフが一番恐れてるのは長期戦だからか!』


 途中で積に合いの手を入れてもらいながらも彼が話を続け、それが終わる兆しを見せたところで確信を得たという様子で康太が近くにあった湯呑にお湯を注ぎ、


『待て康太。それじゃわかりにくい。こいつを使え!』


 すかさず積が間に入ると自身が錬成した電池で動くシンプルな丸時計を作り出し机の上に安置。胸の弾みを抑えきれていなかった蒼野は丸時計mんお秒針が頂上を指した瞬間に能力を発動し、


『じ、時間が……』

『進んだ』

 

 結果、彼らの前で希望は示される。蒼野が全力で使った『時間破戒』は『時間回帰』と同じく時を動かし、けれどそれは真逆の方向に五分進めていた。それはまごうことなき『果て越え』打倒のための切り札が生まれた瞬間であり、


「が、あぁ……こ、れ、なん!?」


 その希望が今、ガーディア・ガルフに直撃する。

 白と黒の混ざった光に包まれたガーディア・ガルフはあまりにも少なかった行動可能時間を一気に減らされ、まだ先であったはずの限界を迎えうずくまる。全身から溢れ出るドロリとした血が彼を中心として円を描き、その中心で彼は足掻き、立ち上がろうとするが思うようにいかず、体が震えるだけで終わる。


「……もしあなたが冷静だったとしたなら、たぶんもっと警戒されてたと思う」


 そんな姿の人類史上最強を見て蒼野が言葉を発する。申し訳なさからか、そこに込められている感情は暗い。喜びなど微塵もない。


「結局のところ、頭に血が昇った時点であなたは負けていたんだと思う。積の言葉に反論できなかった時点で、もう終わってたんだ」


 もしガーディア・ガルフが普段通りの思考を保っていれば結果は大きく違ったと。少なくとも自分たちの未知の力に警戒をしていたはずだと目を伏した蒼野は告げ、言葉にできるだけの余裕はないがガーディア・ガルフも胸中ではその言葉に同意した。

 ただ両者には大きな違いがあった。それは


「まだ……戦うんですか…………もう動けないんじゃないんですか?」


 常時指一本動かすことに苦心するほど弱体化しようと、タイムリミットが喉元まで迫り、それを示すように穴と言う穴から血が溢れ、視界が霞み全身が寒さで震えようと、


「わ、たしは」

「………………」


 最後の最後にこれまでの生涯で一度も経験した事がない窮地を経験しようとも、蒼野達が「もう無理だ」とどれほど念じようとも、


「愛、する――――世界、を――――――救う、のだ」


 彼は最後まで戦うのだ。類まれなる縁を紡いでくれた惑星『ウルアーデ』を守るために。



 ガーディア・ガルフ。彼が『果て越え』と呼ばれる真意。

 それが今、五人の若人に牙を剥く。





 

 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


蒼野達がいったい何に希望を持っていたのか。その真相説明回。

この時点でガーディア殿に残された時間はおよそ一分。体を支える筋肉やら視界、それに耳もほとんど聞こえない状態です。


次回の話はそこら辺を知ったうえで見ていただくと面白いかもしれません


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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