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ギルド『ウォーグレン』VS『果て越え』ガーディア・ガルフ 一頁目


 積の号令と共に戦いが始まる。それを示すように攻撃を仕掛ける五人の若人の全身からは各々の得意な属性を示す色をした練気が立ち昇り、その事実にガーディア・ガルフは感嘆の息を漏らす。


「年若い身でよくぞそこまで練れたものだ。称賛に値する」

「なら大人しく負けを認めろや!」

「それとこれとは話が別だ。それに私やシュバルツが諸君くらいの頃は、そこからさらに一歩二歩先を歩いていたよ」

「偉大なる大先輩に対して失礼なのはわかってるんっすけどね、一言二言余計なんだよテメェ!!」


 彼らの猛攻の始まりを告げたのは康太が手にした名もなき神器から撃ちだした一発の弾丸だ。それはガーディア・ガルフのいる場所の一歩手前に着弾すると瞬く間に膨れ上がったかと思えば爆発。周囲一帯を白煙で包み込む。


「出てきたのは白煙か。古典的だな」

「な!?」

「何を驚く? 言ったはずだよ。『反撃はする』とね。まさか、私がわざわざ諸君の用意したレールに乗っかると思っていたのかい?」


 そんなありきたりで当たり前な未来を『果て越え』は否定する。

 銃弾が地面に触れるよりも遥かに早く、いつの間にか手にしていた鉄の羽子板で銃弾を弾き、教会の天井に着弾。白煙はその周囲に立ち昇り、ガーディア・ガルフが唖然としていた康太の表情をマジマジと見つめるという結果に収まった。


「さて」


 普段ならばここですかさず反撃し彼の勝利は確定するだろう。しかし今は違う。五分間に限り専守防衛の構えを見せると彼は堂々と告げ、それを示すように様々な色の光の中を一歩二歩と歩き出す。


「次はどうす――――」


 己こそが絶対的な王者であるとでも伝えるような語りをするガーディア・ガルフ。そんな彼の言葉を遮ったのは教会内部に敷き詰められていた長椅子の一つだ。


「…………」

「めちゃくちゃな硬度の家具って聞いてたんだが、その言葉に嘘はなさそうだな。あんだけ強く弾かれたってのに、傷一つねぇ」

「残された時間の使い方は君たちの自由だがね、無駄に消費するのは感心しないな」


 それが二度三度と続き積が感心した声を上げると、ガーディア・ガルフは目を細めながら彼の言葉をそう断定し、けれど積は改めた様子もなく長机の投擲をやめない。


「…………原口善の真似事は口調だけかね?」

「焦るなって。おめぇ相手に段取りの一つもなしで勝てるわけがねぇだろ」

「この無駄な行為が段取りなのか?」


 ガーディア・ガルフからすれば微塵も理解できないそれはおよそ一分間ほど続き、


「………………ふむ」


 それまで全て一歩も歩かず捌いていた彼は、けれど頭上から滝のような勢いで落下してくる無数の長椅子を見ると、退屈そうな声を上げながら姿を消す。


「初めて動いたな」

「まさかそんな事が目的だったのかね?」


 そのまま姿を消されてしまっていれば積たちは動揺したであろう。時間を無駄に消費するゆえに。しかし幸いなことに彼の姿は今しがた小山を形成するに至った長机の上にあり、口から零れた言葉には退屈の色が混じっていた。


「そうだと言ったら?」


 その問いに対する積の返答には確かな意志が宿っており、意図を読めず彼は困惑さえするが、


「!」


 状況はそこで激変する。長机が発する重厚とは言い切れなかった子気味良い音の連続が終わり、無数の風の刃が轟音を鳴らし全方位から撃ち込まれる。それらは全て、無色ではなく風属性を示す桃色がはっきりわかるほど圧縮されたものであり、蒼野が今出せる『数』と『質』を両立させた最大の奇襲である。


「なるほど。無駄な行為を延々とやっていたのは、この攻撃をするための準備を悟られないためか。気づかなかったな」


 星の数ほど、などと言ってしまえば少々大げさかもしれない。ただ一分間かけて蒼野が設置した風の刃はゆうに十万を超しており、それ等はたとえ相手が『果て越え』であろうと捌ききられないよう、タイミングまで完璧に考えられたものであった。


「まぁ、残念な結果に終わってしまうのだがね」


 その全てをガーディア・ガルフは掌に纏った炎で退ける。

 蒼野が放った刃など比較にならないほど圧縮された炎の波は、腕の動きに合わせ宙を舞うと迫る風の刃全てを侵食し、異例の強度を誇る教会の壁に真っ黒な線を引いた。


「だがそうか。ここからが本番であるという事実は嘘ではないのだな」


 蒼野渾身の一手がいともたやすく挫かれたのだ。間違いなく凄惨たる結果である。

 しかし彼らは怯まない。蒼野がどれだけ力を注いだとしても、たった一人の全身全霊が通用する相手でないことくらいわかっており、それを示すように追撃として前に出た蒼野に続いて優とゼオスの二人が接追従した。


「動きの質が驚くほど向上している。なるほど。死線を潜り抜けてきたことに間違いはないだろう」


 蒼野にゼオス、それに優の洗練された連携をそう評しながら、彼は持っていた鉄の板を飴細工のように溶かしたかと思えば短剣を形作り、巨大な鎌と二本の剣が成す連携を一歩たりとも動かずいなし、反撃で繰り出した刺突で三人の両肩と両肘を貫通。

 その負傷をすさまじい速度で再生させた蒼野と優を見て感心する。


「……ゲゼル・グレアは、いやシュバルツ・シャークスもだな」

「ん?」


 残るゼオスは傷をすぐさま治せず片膝をつき、頭を垂れた状態で静かに語り出し、


「今の貴方の姿を見ればみっともないというだろう」

「いやシュバルツだけはそうは言わないだろう。これだけは確信を持って言える」

「なら! アデット・フランクはどうかしら!」

「っ!」


 変わらぬ様子で否定していたガーディア・ガルフは、けれど優の言葉を聞いた瞬間に動揺する。そしてそれまでとは比べ物にならぬ速度を乗せた蹴りがとびかかってきた彼女の脇腹を正確にとらえ、小さな体を大砲の弾丸もかくやと言う勢いで吹き飛ばしながら壁にぶつけ、骨肉がミキサーで混ぜられたかのようにぐちゃぐちゃになった彼女が小刻みな痙攣を繰り返す。


「尾羽優。一つ忠告をしておこう」

「そこだ!」


 彼の意識がそれほどの傷を瞬く間に治し自分を睨む優だけに注がれる。それを明確に理解したと同時に康太は引き金を絞り、弾丸はきれいな弧を描きながら彼のもとに。

 意識が完全に離れていたガーディア・ガルフは、けれど「その程度の攻撃に意味など無い」とでも言うように易々と攻撃を反らし、


「ちっ」


 その直後に血を吐いた。攻撃など一撃も受けていないにも関わらず。


(積)

(ここまで一分五十秒。激しい攻撃を繰りだしたのは今の一回だけだ)

(…………大方の目星はついた。仕掛けるか?)

(いや。まだだ)


 その光景を前に彼らは考える。自分たちが見いだせる唯一の活路。そこに到達するまでの道筋を。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


ガーディア戦開始。

今回は本当に初めのはじめ程度でしたが、積達が何を狙っているのかはかなり明確に出てきたかと思います。


色々と語りたいことはあるのですが、あんまり語ると先の楽しみが全てなくなる気がするのでこの辺で。次回もいつも通り明後日に投稿します


それではまた次回、ぜひご覧ください!



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