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皇帝の断言


 古賀康太は感じた。自身の首が宙に舞う感覚を。それが僅かなあいだ続いたかと思えば地面に叩きつけられ、「いて」なんて間抜けな言葉を最後に残し、思考が体から離れていく様子を。そうして空になった彼のガラス玉のような瞳には、噴水のような勢いで血を噴き上げる自身の首から下が映っており、幾度かの痙攣を繰り返したところで『果て越え』の姿が映り、『復活することは許さない』とでも言うように肉体を灰にするのを見届ける。


「っっっっっっ」


 その直後、彼は蘇る。

 崩れ落ちそうな体を何とか整え荒れた呼吸を整えるよう心掛け、けれどどれだけ力を振り絞ろうとも溢れ出る汗は止まらず、心臓の音はやけにうるさい。


「今見てもらった光景。それはこれから諸君が辿る死の形だ」


 自身の全身が熱いのか寒いのかさえ脳は正常に判断できない。そのクセ耳に届く声に対しては、氷柱を全身に張り付けられたかのような反応を示し、反射的に声のした方角、積の熱に感化されステンドグラスの光が当たる位置まで出てきた世界最強に向けられる。


「し、死の形?」


 誰もが同じ状態に陥ったのだろう。五人全員が戦う前から極度の疲労を感じていることを示すような表情をしている。

 ただ頭が働き始めれば、その疲労にもいくらかの違いがあることを彼は把握できた。

 まず第一に自分と優が一番軽傷のようであった。だからこそ優は質問できるだけの余裕があり、自分だってこうして周りを把握することができるのだ。


「そうだ。もちろん私も練気を使えるわけだが、知っての通り他者と比べ幾分か持ち時間が多くてね。一つではなくいくつもの用途を極めることができた。今使ったのはそのうちの一つ。『伝波』の練気だ」

「…………なにそれ。聞いたことがないんだけど?」

「私が想像したビジョンを目標とした相手に伝える力。念話が言葉を伝えるのに対し、こちらは映像で伝えることができる。戦闘に直接使える類の練気ではないから教科書の類で大々的に取り扱われているわけではないが私は気に入っている。映像で見せられるというのは便利だ」


 蒼野とゼオスに関しては思考さえままならず、血の気が引いた青い顔に溢れ出ている大量の汗から、自分以上にひどい状態であると考えられた。ついでに言えば心臓が弱いためかまでは判断できないが、蒼野は過呼吸を起こしており、視界も定まっていない様子であった。


「そのいいからすりゃ『避けられない未来』ってわけではないんだな」

「そうだな。未来予知とは違う。だがわかっているはずだ。私に限って言えば、見せる映像は『未来予知』に等しい意味があるのだと」


 そんな状態の義兄弟を蘇らせるために彼は動き出し、肩を強く叩いて蒼野が息を吹き返したのを見届けると、同時に投げかけていた質問に対しガーディア・ガルフは何の疑いもなくそう返す。


「これから先のことを説明しよう。今、諸君らは分かれ道に立っている。そして行く先を自分で選べる権利がある」


 と同時に示すのだ。彼らが選ぶことができる二つの道。まさしく『天国』と『地獄』に通じる道を。


「一つは蒼野君が即座に原点回帰を使う道。諸君ら五人は傷つかず私を殺して終わる道だ。私が隠し通した真相に気づいたからこそ生まれた、君たちにとって最も都合がいい。平和で幸福な結果に続くみちだろう」

「もう一つはなんだ?」

「『修羅の道』とでも言うべき道だ。積君が口にした誇大妄想に乗っかかり、蒼野君以外の面々が悲惨な最後を遂げる道。先ほど見せた映像が現実になってしまうとても悲しい道だ」

「…………蒼野以外が。どういうことだ?」


 彼の語り口は五人の頭にしっかりと刷り込むためか、普段通り静かで落ち着いた声色に加え気持ちゆっくり目なペースで綴られており、


「私の目的は原点回帰による完璧な死だからね。それをしてもらうまで蒼野君に示すんだ。『君が選ばなかったから仲間たちは死んでいく』のだと」

「っ」


 物騒で血も涙もない非情な計画を、凹凸のない冷たい声で淡々と説明する。最も重いダメージを精神に受けているであろう積を見つめながら。


「五分と一分だ」

「え?」

「あそこまで啖呵を切った積君に乗っかったのだ。君たちとてそう簡単に折れはしないだろう。だから最初に五分、猶予を与えよう。そのあいだ私は回避や防御、それに軽度の反撃は行うが、率先して攻撃はしないし君たちに与える怪我も最小限に抑えると約束する。

 そうやって戦っているうちに実力の差が分かったのなら、降伏するなり蒼野君を説得するなりするといい。なに。彼とて実際には味あわないにせよ、『死』がどのようなものかは今しがた体験したのだ。仲間思いな彼ならば、諸君の請願を受けてくれるはずだ」

「その後の一分ってのはなんだ?」


 そこまでガーディア・ガルフが語ったところで、最も症状の重かった積も息を吹き返す。

 するとなおも戦意を残したことを示す目で睨み、


「君たちを殺した後に与える自由時間。一人経るごとに考える時間を設けるということだ」

「テメェ………………」

「殺す順番も言っておこう。最初にゼオス君。次に康太君。優君が続いて、最後に積君だ」


 康太の抗議の声などどこ吹く風で、事務処理でもするような様子で語り続け、


「……俺が最初か」

「で、俺が最後か。トリを飾らせてくれるなんざ光栄だね。感動で涙が出そうだよ」

「ぞれは良かった。私も順番を変えたかいがあった」

「なに?」

「本来なら君の席はゼオス君が座っていて、蒼野君に「まいった」と言わせるためにとことん痛めつけるつもりだったんだ。ほら、彼は他と違って犯罪経歴がしっかりと残っているからね。そういう嫌な役を受けるのに最適だろう。だが先ほどとても素敵な宣戦布告をしてくれたのでね。その役割は君にあげよう」

「………………っ」

「代わりにゼオス君はいの一番に死んでもらうとするよ。この中で一番命に価値がなく真っ先に死ぬとすれば、先に述べた犯罪経歴まみれの君だろうからね」


 その直後に薄情と言う言葉では足りない、まさに『冷酷無比』という言葉がふさわしい言葉の数々を投げつける。


「『果て越え』なんて大層な名で呼ばれるからどんなもんかと思えば」

「?」

「ずいぶんと器がちっさいんだな」

「……決めたよ。たとえ命乞いをしたとしても、君は五体満足では返さない。回復阻害の呪いを死ぬほどかけて苦しませてあげよう」


 ただそこまで聞いても、自分たちが辿る結末を示唆されても彼らは進むべき道を変えない。それを示すように額や頬を伝う汗を拭い、弱りかけていた瞳の光を徐々にだが強めていく。そして


「行くぜおめぇら!!」

「「応!」」


 積が彼の死んだ兄を思わせる力強い声で言葉を発しながら駆けだすと、他の四人が後に続く。


「無駄な足掻きだ」


 それを前にしてガーディア・ガルフは憐れみさえ覚えるが彼らは耳を貸さない。いや貸したとしても自分たちがそのような立場にいるとは微塵も思わない。


 なぜならば




 ガーディア・ガルフが行った提案は彼らにとってこれ以上ないくらい都合のいいものであったのだ。



ここまでご閲覧いただきありがとう

作者の宮田幸司です


過去最もガーディア殿の性格の悪さが出ている回

まぁ過去編を見ていただければわかると思いますが、彼は性根が腐っているところがありますので、キレた場合こうなるのもまぁあり得るっちゃあり得る話なわけです。


なお、前回前々回の二話と今回のガーディア殿と積のイメージは、

前回前々回は積が馬乗りになって思いっきり殴り続けている印象。今回は憂さ晴らしとばかりに積の頭を掴んで壁に何度も叩きつけている印象です。まぁ最後の捨て台詞のせいでさらに気分を害しているので、スッキリ爽やかな心というわけでもありませんが


最後の言葉の意味についてはさっそく次回で


それではまた次回、ぜひご覧ください

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