千年前の遺留品 二頁目
ラスタリアから歩き続ける二人がきれいに整備された草原を抜け、目的地である森の前に立つと時刻は三時を過ぎていた。
「さて、まずはここまで来たな。ついて来れてるか?」
「はい大丈夫です。にしてもジコンの目の前に広がってる森とは大違いですね」
「まああっちは人避け、こっちは観光地だからな。根本的な理由からして違う」
二人の目の前に広がるのは人の手が入り丁寧に整備された広大な森。
入口から少し先へと進むと内部にあるいくつかの施設に関する看板が立っており、そこにはキャンプ場や池、それに小さな動物園が設置されていることが記述されているが、そんな森全体を覆うように立ち入り禁止と書かれたテープが道を塞いでいる。
「人避けはしっかりされてるな。ここに来たら連絡を入れる手はずだったな……蒼野お前が出てくれ」
「え、どうしてですか?」
「俺とあいつが話すと無駄に長くなるんだよ。時間短縮だ」
「……はは」
嫌悪感や忌避感を見せる善の姿に、蒼野が何とも言えない声を出し番号が入れられた状態で渡された電話を耳に近づける。
『遅いぞ善。エクトデスの中には時限式ものもあるのだ。もっと早く動け』
するとすぐに電話が繋がるが、開口一番に伝えられた言葉に蒼野は苦笑する。
ほんの一瞬でこの男と善が水と油の関係なのがわかったからだ。
「あ、すいません。善さんに同行している蒼野です」
『む、善ではなかったか。これは失礼した』
このまま口を閉じていてはお小言が続き一生話が進まないのではないか、そんな思いが胸中を占めるが、このままでは何も事態が進展しないと感じた蒼野が口を開き名乗っただけで、相手を突き刺すような口調はなりを潜め、丁寧かつ相手を尊重するような声色が返ってくる。
「善さんが連絡をする予定だったとは聞いたのですけど、善さんは周りの様子を見てくるといって離れたので俺が代わりに連絡をさせていただきました。今さっき森に到着しました」
『ふむ、ご苦労。現場の状況はどうなっているかな?』
人間相手が変わればここまで様子が変わるものなのか。
その事実に僅かに驚きながらも蒼野が周囲を見渡し、森一帯を覆っている立ち入り禁止のテープを視線に収める。
「はい、どなたがやったのかわからないのですが森を囲うように『立ち入り禁止』と書かれた黄色いテープが張ってあります」
『それは私が指示した物だな。加えて兵には公園内にいる一般人を非難させるように言っておいたのだが、そちらはいかがかな?』
「大丈夫そうです。風の属性粒子を飛ばして確認していますが人の気配はないです」
「ふむ」
周囲を探索した結果を簡潔に告げる蒼野に、それに対し短い返事を返すノア・ロマネ。
「了解した。連絡感謝する。そのテープは君たちが仕事を終えた後に、事後処理まで使う予定なので外さないでくれ。君は善が戻り次第案内に従い移動。問題解決に向けて動いてくれ。それでは」
電話が切れたのと同時に、森を覆っていた黄色いテープの一ヶ所がひとりでにほどけ、その内の一部から真っ白な紙が出てきたかと思うと、森の奥へ向かい飛んで行き始めた。
「行くぞ」
緊張で口の中に貯まった唾を飲み込み、先頭を歩く善についていく蒼野。
日の光るが満ちるお昼時に誰一人としていない観光地を不気味に思いながらも彼らは進んでいき、やがて道から大きく離れた草原の中へと導かれていく。
「善さん……」
「ああ、あれだな」
それから数十秒歩いたところでそれはあった。
ここに来る前に写真で送られてきた通りの無数のチューブをまとめ丸めたかのような物体。
それはまるで人の心臓を模したかのように鼓動しており、それがこの真っ黒な塊に生物的な生々しさを与え、見る者に不快感を与えていた。
「周りにはゼオス・ハザードも含めて人の気配はなし。うし、なら始めるか」
「了解です。じゃあ、後方支援を頼みます」
不気味な姿に胸がざわつく蒼野であるがゼオス・ハザードやパペットマスターと相対した時の恐怖と比べればたいしたことはないと自分に言い聞かせ、設計図を持って彼はその物体の前に立ち、善が彼の後ろに立ち後方から周囲全体を見渡す。
「善さん、何かあれば頼みます」
「ああ。お前は周りの事は気にせず解除に徹しな」
その力強い声に勇気づけられ、懐にある革袋から鋭利な鋏を取り出し、蒼野が目の前にある兵器の解除を始める。
「えーと、まずはこのコードを切る」
エクトデスの解除方法は単純なもので、黒い球体を形成している要因である無数のチューブを順序良く斬り裂いていく事だ。
爆発の規模は物によって違ってくるが、解除方法は三つに限られており、その識別方法も球体の大きさですぐに判断できるため問題ない。
今回の場合は接触型の物ではなく時限式のものである。
「ふぅ、ここまでで半分」
「順調だな」
無論蒼野は能力で時間を戻せるため被害を防ぐ事はできるが、それでも失敗をして間に合わなければ甚大な被害は発生する可能性がある。
ゆえに元々の性格も合わさり極度の緊張感を胸に抱えながら、彼は額から頬へと伝っていく汗を袖で拭き取り、残りの半分を着々と進めていく。
「あれ?」
そうして解除まであと一歩というところまで進めたところで、蒼野にとって思わぬ事態が起きた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
という事で少々遅れましたが本日お昼の投稿となります。
次回で100話、そして遭遇という形になると思われます。
そちらの方は六時か七時にあげられればと思っているので、よろしくお願いします。




