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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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千年前の遺留品 一頁目


「うわ、すごいなこれ」

「これ全部善さんが指揮するの……すご」


 扉を開き視界に収めた光景を前に康太が息を呑み優が感嘆の声を漏らす。

 扉の先で彼らが目にしたのは、数万人が直立不動でまっすぐに立っている空間を拡張した巨大な一室。その壁には無数のモニターが掛かっており、その向こう側でも同じような人々が彼らのいる会場を目にしながら何やら話していた。

 そんな彼らは、善が顔を出し手を挙げた瞬間、全員が雑談を止め手を挙げた善に視線を注ぐ。

 この場所には老若男女様々な人々が種族や年齢の垣根を超えて集まっているのだが、その全てが男の一挙一動に注目しているのだ。


「あー、今日一日ラスタリアの警護を任された原口善だ。知ってる奴は久しぶりだな。知らない奴は……まあこの様子だといないか」


 設置されていたマイクを手にした善が言葉を発すると数万人が集う巨大な空間に声が響き渡り、戦士達は真剣な目でそれを眺め、最後尾で腕を組んで見ていた不死の女王は懐かしいものを見る視線で演説を聞く。


「今日一日この世界の象徴はいない。だがそれがどうした。

 ここにいるのは世界の中心を任された一騎当千以上の猛者達だ。そんなお前らならば神の座の有無に関わらず力を発揮できると俺は確信している。

 ゆえに俺が命じる事は一つだけだ。普段と変わらずその真価を発揮しろ。以上だ」


 男の指示を聞き場内が静まり返る。

 その静寂を打ち破ったのは、頭からすっぽりとフードを被った、最後尾にいる杖を脇に挟んだ存在。

 その者が拍手を行うと、他の者達もそれにつられるように拍手を始め、万雷の拍手が善の身に降り注いだ。


「あれは……まさか」

「え、どうしたんですかヒュンレイさん」


 この部屋に入った時の圧巻されるような人の数にも驚かなかったヒュンレイが、分かりやすく狼狽えている。

 その事実に蒼野が目を丸くするが、その人物を守るように控えている同じようなフードを被った集団の中で、頭だけ出している二人の人物を見て蒼野はヒュンレイが驚いた理由を知る。


 先程見た片眼鏡にオールバックの髪型の参謀長ノア・ロマネと、世界最強アイビス・フォーカス。


 この世界を守護する最高戦力と、文官としてみた場合最高位の地位に就く男。


 その二人が守る存在など一人しかいない。


「では善、後は頼みましたよ」


 讃美歌を歌うかのような声が一通りの拍手が終わり静寂さを取り戻した空間に浸透する。

 それだけで善が喋った時以上の緊張が周囲を支配するが、


「蒼野君! 昨日言ったあの力、易々と使っちゃダメよ!」

「アイビス殿、私語は慎まれよ」


 善達が何かを言うのを待つこともなく、アイビス・フォーカスが声をあげ、ノアがそれを慎むよう注意すると、彼らは部屋を出て歩き始めた。

 

「あれが神の座……イグドラシル・フォーカスか」


 テレビ越しでしか見たことのないその存在の、拳とは別の力に蒼野は感嘆の声をあげた。




 それから数時間は何も異変がなく時間が過ぎていった。

 善は蒼野を連れ見回りを行い、行く先々で兵士たちに声をかけられては足を止め短い間だが話をして先へ進み、そんな事をしていると午後二時を過ぎていた。


「うぃーっす。お疲れ爺さん」

「うむ、お疲れ。しかしあれじゃ、こうやってただ座っているだけじゃと老骨に響くわい」


 外から帰ってきたところで善が挨拶をすると、ゲゼルが隣の席を勧め善がそこに腰かける。


「ラスタリア全域を見て回ったがさして気になる点はなかった。戦士らのまとう練気も上々、流石はラスタリアを守る使命を帯びた兵士って感じだ。

 問題は蒼野の方だ。こっちは何の異常もなかったが、爺さんの方に報告はあったか?」


 善の問いかけにゲゼルは首を横に振る。


「まったくないのう。狙うならば今日をおいて他にはないと思うのじゃが」

「だよなぁ…………」


 師と弟子、両者の見解は一致しており、なんの音沙汰もない現状を不自然に感じる。


「報告します。善さま、ゲゼル様、少々アクシデントが起きました」

「ふむ、何があったのかね」


 まさかこのまま何もしないつもりか


 そんな疑問が脳裏を掠めた時に訪れた兵士に二人の表情が緊張した面持ちに変化する。

 根拠のないただの勘だが、彼らは確信していた。

 このアクシデントこそ、かの暗殺者から彼らに対する挑戦状なのだと。


「はい。実はラスタリア周辺を巡回していた者が奇妙な物体を見つけたと。正体についてわからないとの事で、お二人に一度ご覧になっていただきたいと思いまして」

「写真は?」

「は、こちらに」


 そう言って兵士が見せたものは森の木々の間に埋まっているチューブ状の配線を丸めたかのような物体。


「なんだこりゃ、見たこともねぇもんだな。爺さんはどうだ」


 それを見た善はその物体に見覚えがなく隣に座るゲゼルに話を振るが、


「……なぜこのような物がここに」


 そこで目にした顔面蒼白の師の姿に、彼は息を呑む。


「ノアには連絡を入れる。そして、申し訳ないのじゃが、おそらくお主と蒼野君に出動命令を出すことになる」

「……どういう事だ爺さん。そもそもこいつは一体何なんだ」


 自身の知らぬところで事態が進むことを嫌い善が尋ね、それに対し普段は飄々とした態度を見せる老人は口を開き、重苦しい様子で事実を告げる。


「うむ、この球体の名はエクトデス。千年前の戦争において使われた、大量殺戮を目的とした兵器じゃ」




『確かに、その爆発物の解体の適任は善、お前と蒼野君だな。ゲゼル殿の判断は間違っていない』

「そうかい。そう言われりゃ行くしかねぇんだが、せめてこいつが何かだけでも教えてくれねぇか?」

『いいだろう』


 兵士の報告から数分が経った。

 現在善は写真のデータをノアに送り、その物体の正体について確認。メンバーの選定は早々に終わり、善はノアと電話越しに会話をしていた。


『エクトデスとは千年前の戦争で賢教が使っていた爆弾の一種だ。爆発の際、火薬と共にウイルスを飛ばすのだが、そのウイルスの性質が厄介でな。感染者をおよそ一時間で死に至らしめ、ウイルスを飛ばす苗床に変化させる。そしてより多くの人を殺戮する…………まさに人を殺す事に特化した兵器だ』

「おっそろしいなそりゃ。だが千年前の戦争では何とか対処したんだろ。てことは爆破前に止める手段か中和剤なんかがあると思うんだが」

『無論ある。だが中和剤の方については、当時は死者が出る早さとウイルスを作る早さが吊り合っていなかったらしくてな。爆発前に安全に解除する方法に傾倒していったが、万が一爆発した場合、周りの連中が感染しない範囲まで離れたところで殺害したらしい』

「…………胸糞な話だな」


 善の言葉にこの上ない程の嫌悪感が込められる。


『昔話はもういいだろう。そんな事よりその兵器の安全な解除が先だ』


 しかしそれを聞いても、電話の向こう側にいるノアは普段と変わらぬ様子で淡々と話を続ける。


「解除方法があるつったな。俺と蒼野に任せるのはいいが、それは俺や蒼野でもできるもんなのか」

『貴様、我らが神教を愚弄しているのか?』


 そうして話を続けていると、電話越しでもわかる、苛立ちを纏った声が聞こえてくる。


『いかに脅威とはいえ、千年前の代物だ。初見かつ誰がやっても解除できる方法など、とっくの昔に確立されている。それを使い貴様が解除しろ』


 そう彼が告げると、善の持っている端末に一通の資料が送られてくる。

 その中に記述されていたのは爆弾の解除方法。成人男性ならば誰もが理解できるエクトデスの解除手順であった。


『それを見てできないというのならば貴様はもう少し勉学に励むべきだ』

「いちいち小言が多い奴だなおい。ちゃんと理解できるから安心しろ」

『ならばいい。吉報を待っている』

「てか基本的な疑問なんだが何で俺と蒼野なんだよ。この解説書があれば誰でも構わねぇじゃねぇか」


 そのまま電話を切ろうとする彼に対し当然の疑問を投げかける善。


『単純な事だ。万が一解除を失敗した場合、ウイルスを受けても能力で死なずに済む二人だからだ。そんな二人がいるのならば、無駄に兵士の命をかける必要もなかろう』

「……そうか、そうだな」

『なんだ急に黙って』


 言われてみれば当たり前の理由を言われ、口には出さないが自らが悪かったと胸中で謝罪。


『話は以上だ。目的地に到着した際に連絡を入れろ』


 するとそれ以上善が追及してこないのを確認したノアがあっさりと電話を切り、善は息を吐く。

 ノア・ロマネの指示に間違った点は一切ない。生存率の高さで言えば蒼野と自分が行くという選択肢がベストだ。


「まったく、やってくれる」


 ゆえにこの状況に誘導したであろう少年に対し舌打ちする。

 なにせ彼は善と蒼野の二人を完全に孤立させることに成功したのだから。


「電話終わったぜ爺さん」

「ふむ、どうだった?」

「俺と蒼野の二人で行動だとさ。完全にこっちの動きを読んで動いてやがる」


 席を外していた善がゲゼルの元に戻り感想を口にする。


「どうやら、一筋縄にはいかぬようじゃの。気張れよ善」

「ああ、任せろ」


 それから事態を蒼野に康太そして優に伝えると、康太が反論するがそれを抑え込む。


「じゃあ、行ってくるが何かあった時のために待機しといてくれ」

「おいおい、あんま不吉なこと言うなよ善さん」

「善……」

「お前まで心配すんなヒュンレイ。要はこいつを吸いこむ黒い渦が出てきたらそこから引き話せばいいだけだ。そう難しい話じゃねぇ」


 ギルド『ウォーグレン』の誰もがこの展開に不安を覚えている。

 それでも危機的状況を打破するため、蒼野と善の二人は暗殺者が仕掛けた罠へと向かい進んでいった。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事で本日分の更新でございます。

予定ではもう少し早めの予定だったところ、私用が入ってしまいこのような時間になってしまいました。

申し訳ありません。


さて物語の方はというと、今回が中盤から終盤の折り返し地点の話となります。

もうそろそろ熱血バトルが始まると思うので、そのようなものが好きな方はお楽しみに!


ではまた明日。

明日はできれば午前中に一話上げて、100話目まで到達したいと思います。

よろしくお願いします。

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