終わりの地 エデン
「ここが」
「あんたらがアジトとして利用していた場所か……にしてもあれだ」
「奇妙な場所、とでも言いたいかしら。同感よ。実際のところ私たちも、ここがどういう経緯でできて、どういう法則が働いている場所なのかは知らないの」
シュバルツから話を聞いてから三日間。彼らはできる限りのことをやった。
示してもらった勝機を押し通すための戦略の構築。各所に対する今回の件の説明。
他いくつかの事柄を終え彼らはこの場所にいる。
「実際のところ、私たちはこの場所の名前すら知らなくてな。だが何もないのは不便だ。だから勝手に名付けた。ダーリンが好きな小説から抜粋してな」
「ガーディアさんが好きな小説ってもしかして!」
「古賀蒼野、おそらくお前の考えた通りのはずだ。そこに記されていた楽園を現すとかいう単語、すなわち『エデン』と我々は名付けた」
「…………楽園、か」
「ちょっと納得できるかも。天国があるとするならきっとこんな場所よね」
これから迎える最後の戦い。その壇上に立つ者はたったの七人。
ギルド『ウォーグレン』に所属している古賀蒼野に古賀康太。ゼオス・ハザードに尾羽優。そして原口積。ここにエヴァ・フォーネスとアイリーン・プリンセスを含めた七人だ。シュバルツ・シャークスに関しては、ガーディア・ガルフが死んだと認識しているため数に入っていない。
「………………………」
「どうした積?」
「いや。死者がたどり着く場所ってならさ、俺の馬鹿兄貴もこういう場所にいるのかなって。で、こっちの気も知らずぬくぬくとやってんのかなって思ってさ」
「……少なくとも善さんなら最後の戦いに向かうオレ達にある程度の関心は向けると思うぜ。場所にしてはそうだといいな。あの人はいつも大変そうだったからな。死んだあとくらいゆっくりしててほしいもんだ」
彼らがたどり着いた場所は摩訶不思議な世界だ。
木造建築の家屋や噴水をこしらえた公園。白を基調とした役場などの公的施設。それに町のシンボルであろう風車が回っている牧歌的な町から少し離れた位置。それが彼らがガーディア・ガルフが渡した鍵を用いたどり着いた異空間のスタート地点だ。
「けど動きづらいですね。足の踏み場に困るほどの花畑っていうのは」
上記の内容だけならばさほど変哲な場所はないのだが、奇妙な点は主に二つ。
第一に地面全てが色とりどり、四季の法則を無視した花で埋まっているということ。もう一つはこの場所を覆う空の色が桃色であるということだ。
そのうちの一方、桃色の空に関しては全員が奇妙な感覚を覚えたものの危険は見られないことを理解したため無視することができたのだが、地面を全て覆う花畑に対しては優が苦言を呈した通りで、蒼野や康太も少なからず意識を向けていた。
「あーいや普通に歩いていいぞお前ら。どんどん踏んじまえ」
「いやでもちょっとそれは」
「気にしないで。ここにある物はね、木にせよコンクリートに土の地面にせよ、それこそ足元に生えてる小さな花だって異常なほど丈夫なの。シュバルツが全力で修行する場として選ぶくらいにね」
「……ほう」
アイリーンの説明を受けゼオスがしゃがみ、足元にある花に触れる。そのまま真上へと引っ張ろうとして彼は僅かにだが驚いた。
かなりの力、それこそそこらにある三階建ての建物程度ならば易々と引きずれるほどの力を込めたというのに一輪の花が引っこ抜けない。それを見た積がそばにあった木々に錬成した斧を振り抜くと、通常の者ならば真っ二つにできるのだが、表皮を僅かに傷つけられる程度にとどまる。そしてすぐに傷は修復する
「とはいっても『絶対』に抜けない。『絶対』に傷つけられないってわけではない。高火力の攻撃を打ち込めば破壊できる。だがそれもすぐに再生する。で、元の状態に戻るんだ」
『時が今の時間で固定されているようだ』
時間操作を可能とする蒼野がふとそんなことを考える。続いて考える。なぜこんな場所が存在するのか、と。
「おい蒼野。置いてっちまうぞ」
「あ、ああ。悪い悪い」
足を止めた理由はそこから先へと考察を伸ばしたためか。はたまたこれから自身に課せられる大役ゆえか。果たしてどちらが本当の理由なのかは蒼野自身にさえ判別がつかない。
ただ彼は義兄弟に呼ばれると奇妙な桃色の空の下を駆けだし、目前にある町へと向け歩く他の面々のもとへと向かった。
「…………」
「どうしたんっすかアイリーンさん」
「ごめんなさい。ちょっと感慨深くって。ここはね私とシュバルツがよく紅茶を飲みながら作戦会議をした場所なの」
名前が塗りつぶされた木製のアーチを潜りアーケード街らしく場所を超え、そこからしばらく歩いた彼らがたどり着いた場所は、真っ白な二人用の丸机に同色の椅子が設けられた場所。
他の場所を見下ろせるよう少々高い位置にあるその場所は一面の花畑が眺められる絶好のスポットであり、
「ここが我々が会議で使っていた場所だ。なんとなく、それこそただ感覚や空気が訴えかけてくるだけなんだがな、私たちが青春時代を過ごしたあの場所と似てる気がしてな」
続けてたどり着いた閑静な住宅街の一角はシェンジェンやヘルスなどの現代組がいたころ、いつも会議を行っていたスペース。今は何もない、各々が目的としていたことの残滓だけが取り残された小さな世界。
「…………エヴァ・フォーネス?」
「すまんな。ちと感慨深くなってた。年を取るとこういうところがいかんな。ガーディアのいる場所はわかっている。ついてこい」
それをじっと眺めたエヴァは目を細め、寂しげな表情を浮かべ思わず足を止めてしまったのだが、ゼオスに話しかけられるとすぐに気を取り直し先へと進み始め、
「お待ちくださいお妃さま」
「お、お前は!」
しかしこの場所にたどり着いた者たちは己が意思に反し足を止めることになる。
行く手を遮るように現れた鋼鉄の鎧纏いし騎士。なくなったはずの彼女と彼の愛の結晶。すなわちメタルメテオの出現により。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です
第三部最終章開幕。戦士たちは決戦の地に赴きます
個人的にはエヴァやアイリーンが自分たちが過ごした安住の地に愛着を持った表現をするのが好きだったり。
そして最後に現れたメタルメテオ。この時点でちょっとばかし種明かしをしている気もしますが、最後の戦いはまさしくこれまで全ての総決算です
それではまた次回、ぜひご覧ください!




