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開催! 打倒『果て越え』会議! 二頁目


「ゲゼル・グレア。これを」

「?」

「証拠の一つでもなければ誰も納得しまい。その為に使え」

「………………重ねて感謝する。あんたは………………俺の想像を超えていた。いや想像できることなんて一つもなかった」

「これから死jに行く者にそれを伝えてどうなる。君は、君のするべきことに専念しろ」

「………………本当にこんな道しかなかったのか? あんたなら、もっと別の道を模索することができたはずじゃ」

「それもまた、意味のない質問だな」


 のちに世界樹として祀られ樹の根元で勝者と敗者は言葉を交わす。

 すでにその場に戦の気配はなく、発せられるのは刃や闘気ではなく応酬のみで、二人が身に纏う空気は穏やかなものだ。


「じゃあな、ガーディア・ガルフ」

「ああ。達者でなゲゼル・グレア」


 その応酬も終わりを迎える。立ち去るものの名残惜しさを感じさせる足取りと、発せられた最後のあいさつによって。


「…………」


 斯くして残ったのはただ一人。最後まで己の我を貫いた男。

 のちの世において『果て越え』という唯一無二の称号を得たガーディア・ガルフその人で、周りに誰もいなくなったことをしっかりと把握し、草原に座り込んでいた彼のの口から息が漏れる。


「終わった、か」


 ついで零れる言葉は長きにわたる陰謀の終わりを感じさせる、けれどそれに反比例するように短い感想。

 此度の戦いを除けば傷一つ負わず、多くの命を救う選択をし続け、同時に戦況を自分らが望むままに進めた男の誰に聞かれることもない呟き。

 それを終えると彼は失った心臓の回復をせず、とめどなくあふれる命のしずくを取り戻す様子もなく頭上を見上げる。


 空に浮かんでいるのは綺麗な満月で、死ぬにはちょうどいい日である。

 誰に言うこともなく彼はそう思い、そのまま瞳を閉じ、目前に迫った終わりを甘んじて受けいれる。


「っ!?」


 しかしである、彼の内に眠る獣は違った。

 宿主が自身の生存を諦めた瞬間『否である』とでもいうように蠢き始める。


「こ、れはっ!?」


 巨大な芋虫が自身の腹部を動き回るような嫌な感覚に彼は吐き気を覚え、腹に手を置き体をくの字に曲げる。口からは数年ものあいだ発することのなかった戸惑いの色が溢れ、人類史上最強である男は身をよじる。


 全てを終えあとはただ死を待つだけだったこの瞬間を除き、生涯において一度たりとも危機的状況に陥ったことのない皇帝の座ガーディア・ガルフは知らなかったのだ。

 強い力を得た彼の体内に眠る魔の者。彼が目を覚まし暴れる条件が一つではないことを。すなわち宿主の弱体化により、表に出ることを。


「厄介な性質をっ!」


 想定していなかった事態を前に彼は顔を歪め、同時に即座に選択に迫られることになる。己はどう立ち回るべきかという選択に。


 当初の予定では彼は友に対し一言も告げることなくこの場で命を落とすはずであった。そうすれば己が身に宿した厄災は漏れ出さず、世界は平和の一途をたどるはずであった。

 しかし前提条件がここにきて大きく変わる。その場合、体内に宿した脅威が表に出ることは避けられないのだ。これでは彼が望んだ世界は訪れない。


 ではどうするべきか?


「情けないことだな」


 迷うことなど何もない。

 表に出た結果が世界の破滅であるというのならば、体内に宿したまま生存することを選ぶしかない。

 幸いにも彼は炎属性の使い手ながら生き延びられるだけの回復術を持っていたため、それを使い直後にもう一度思案する。これからの立ち回りを。


「……致し方があるまい」


 が、これに関しても迷うことはさほどなかった。

 というのも彼が生きているこの時代で、彼の望む結末、すなわち体内に飼っている魔の者を退けられる術を持つ者は誰もいなかった。


 であれば彼が選ぶ未来は友とともに千年後へと向かうしかあるまい。


 今は誰一人として彼の目的、すなわち『魔の者』を完全に退けられる者はいないだろう。

 しかし千年後ならば違うかもしれない。正面から自身の体内に宿る怪物を退けられる者、そのために己に完全なる死の形を届けられる者がいるかもしれない。

 

 そんな一縷の望みに縋り、彼は友とともに未来へと足を運ぶことを選んだ。



 そしてその望みは叶うに至る。

 千年経った現代に現れた、古賀蒼野という少年が得た破格の殺傷能力を備えた能力によって。




「これも完璧な予想だけどな、蒼野君が得た新たな力を知った時、あいつは狂喜乱舞したんじゃないかな。流石に表に出すことまではしなかっただろうがたぶんそうだ。で、そのために色々とうごいたはずだ。例えば蒼野君に直接接触したとか」


 自身の提示した説が正しいと示すためシュバルツは語る。その内容を聞き康太やゼオスは首をかしげたが、蒼野と積の二人はあからさまに顔色を悪くした。


「積」

「あぁ。けどよ、別にここでお前が落ち込む必要はねぇぞ。立ち上がったこと自体が間違えてるわけがねぇ」


 なぜならこの二人には心当たりがあったのだ。

 蒼野が『原点回帰』を習得したその日、パペットマスターを殺め悪夢を見るに至った際、姿と名を偽っていたガーディア・ガルフが不器用ながらも蒼野を慰めたという事実。

 それこそ古賀蒼野という一個人に対する関心があった証である。


「だからまぁあいつはどれほど非道な手段を選ぼうと君だけは最後まで残す。そうしなくちゃ、自分の目的が果たせないからね」

「証拠は?」

「明確な証拠はあるんですか。俺が立ち直った裏に、いや今おっしゃってた仮説が正しいものであるという証拠はあるんですか?」


 語っている蒼野自身が、情けないことを聞いているという自覚がある。この段階で具体的な証拠を求めるなど創作物の世界だけだと理解している。それでもいまだに信じ切りたくない蒼野は、縋り付くような思いでそう口に出し、


「……これはあまり言いたくなかったんだけどな」


 目を伏せ言いずらそうな様子を示したシュバルツは、そんな少年の一縷の思いを完膚なきまで叩きのめす事実を説明。語られた内容を信じたくない蒼野は項垂れるが、


「落ち込んでいる暇はないぞ蒼野君!」

「シュバルツさん?」

「私が思うにあいつの野望を打ち砕く可能性があるとすれば、それはやっぱり君なんだ。君が持つ他の者は備えていない力が、現状を打破する鍵になるんだ」

「いやでも『原点回帰』じゃガーディアさんの望みを叶えるだけじゃ」

「君が持ってる力はそれだけじゃないだろう?」

「え?」


 そんな蒼野の頭に手を置き、優しく撫でながらシュバルツは励ます。


「君たちにやってほしいことを説明する。聞いてくれ」


 かつて彼の友がやったように。けれど友ではできなかったほどしっかりと、少年の心に炎を宿すように、一つずつ丁寧に説明していく。


 その説明を聞くと蒼野はその瞳に炎を灯し、


 それから三日が経ち、ガーディア・ガルフの告げた日がやってきた。

 五人の若人は決戦の地へと赴く。













ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸福です


長きにわたる準備編がついに終了。正真正銘最後の戦いへと物語は進みます。

なお準備に関しては割愛します。それは後々語っていけば十分ですので。


さてこれから始まるのはこの『ウルアーデ見聞録』という小説において最大規模の戦い。三章までに至る彼らの最終決戦と言っても過言ではありません。


全てが終わった時、見ていただいている皆様がご満足してくださったのならば幸いです。


それではまた次回、ぜひご覧ください

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