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開催! 打倒『果て越え』会議! 一頁目


 最後の記憶の再生が終わり、それまで彼らの側を流れていたフィルムの帯が彼方に消える。

 するとそれと変わるようにあふれ出た砂塵が彼らの視界を埋め尽くす。

 それは最後の記憶が流される前に訪れた濃霧による緩やかな幕引きとは全く違う。あらゆるものを拒絶する突き離されるような印象を彼らに与え、その真意を測りかね彼らは粒子を纏う。


「っ」

「効果がない!?」

「当然だな。


 普段ならば各々が持つ技術や能力でそれを退けられるのだが迫るそれは物理的なものではなく、慌てる蒼野達と反比例するようにエヴァの口からは穏やかな声色が零れ、


「っっ…………!?」

「帰ってきた、のか?」

「…………そのようだな」


 襲い掛かる砂塵に耐え切れず蒼野が顔を覆った数秒後、耳を襲う轟音が去り、閉じていた瞳を開く。

 すると飛び込んできたのは見覚えのある空間。自分たちと同じくらいの年齢の五人の若人が過ごしていた部屋の一角であり、けれど部屋の明かりが灯っていない事や三人の男女を見つめ時間軸の変化に気づきそう呟き、


「アイリーンさん。九割以上の戦いで死者を出さなかったって話でしたよね」

「ええ。そうよ」

「それでもこんなに大勢の人が死ぬものなんですか? アタシは、ううん他のみんなだって、子供のころから戦争と呼ばれるものをたくさん見てきました。それでも……貴方たちが『ほぼ』死者を出さなかったにもかかわらず、これほどの死者が出るものなんですか?」

「それだけ熾烈だったということよ。世界中の全ての地域と人々が対立したんだもの。悔しいけど『僅かに零れた程度』であっても、数えきれないほどの死者が出た」

「私たちが直接出向いたところはやはりな。ま、これでも極限に削った結果だ。本来ならこの百倍から千倍が命を落とすところだっただろうさ」


 窓の外から見れる景色を前にして優はしみじみとしたようすを見せ、アイリーンは同調。エヴァはそう指摘した。


「さて思うところは色々あるだろうが感傷に浸ってる時間はないぞ。話を進めよう。次はガーディアの奴が現代で何をしたかったか、だ」


 放っておけば彼らはその空気に浸ったままいくらかの時間を過ごしていただろう。けれどそれをシュバルツは許さない。

 優やアイリーン程度の小顔ならば握りつぶせるほど巨大な掌をした彼は、両手を合わせ子気味いい音を響かせ全員の視線を自身に向けると、友を忘れぬ為に作らせた真っ白なマントを黒革のソファーにかけ、その隣に座る。

 それにつられてゼオスが座れば蒼野や康太も続き、徐々に引き締まっていく空気に合わせるように残る面々も不平不満は零さず座った。


「さて……我々が建てた計画。これはな、当初は神の座を退け生き残ったミレニアムを我々が打破し、世界を救った英雄として、迎え入れられるってものだったんだ。ただこの計画は途中で大きな変化を余技されたわけだが、その理由がなんでかわかるかい?」

「よくわからん質問だな。てか聞きたいんだがそんな風に悠長なことをしてる余裕はあるんっすか? 時間がない、って言ってたばっかじゃねぇか」


 口を挟まずに従ってくれた皆にシュバルツは内心で感謝しつつ、問いかけを投げかける。

 すると真っ先に噛みついてきたのは康太であり、ゼオスや積も少なからず同意している様子を示す。


「必要な質問だよ。何せその方針の転換があいつの今回の目的、果てはこれから行う戦いにおける攻略の一助になるわけだからな。いや一助どころじゃないな。二、三……十くらいはあるかもしれん」

「…………ふむ」

「ミレニアムの敗北だろ。それで土台が崩れた」


 しかしシュバルツが柔らかな言葉ながらも意思を曲げない姿勢を見せると彼らも従わざるえず、ゼオスが顎に手を置き康太が口を開きかけたタイミングで、積が真っ先にそう告げた。


「残念ながらハズレだ。それはね道を変えた故に生じた結果だ。最大の転換点は別にある」

「は? ちょっと待て。それはどういうことだ? そんな話は知らんぞ私は」

「そりゃそうだろ。あいつは語ってないからな。これは単なる予想だ。いや当たってる確信はあるけどな」


 部屋の明かりを自身の術技でつけ、黒革のソファーに頬杖をついたエヴァから飛び出す蒼野達が感じている以上に大きな驚きと苛立ち。それを受けてもシュバルツの余裕は崩れず、見ている蒼野や優からしても、自身の答えに絶対の自信を抱いていることが分かった。


「じゃあどこなんですか?」


 その真意を探るべく質問する優。彼女から見て左前にいるシュバルツは小さくうなずき、


「蒼野君が能力『原点回帰ゼロ・エンドを入手したタイミング。それが我々の行動指針の大きな転換期。あいつにとって待ち望んでいた状況の到来だと私は思う」


 確信に満ちた声色でそう言い切った。


「いや待て待て! 待ってくれシュバルツ・シャークス!」

「俺が『原点回帰』を習得したのが大きな転換点。それってどういうですか。てかありえるんですか。あんな能力が転換点だなんて」


 驚天動地や青天霹靂という言葉があるが、今の蒼野の様子を示すのならばそれがふさわしいだろう。

 長く続いた戦いが最後の一戦に至り、ガーディア・ガルフという人物を知るために記憶の旅まで行った。

 こうして迎えた打倒ガーディア・ガルフの作戦会議を行う途中で、自分こそが最重要人物であると突然告げられたのだ。その衝撃は計り知れない。


「そうとしか考えられないわ。これまで何度もガーディアが死ぬ瞬間を見てたから私もシュバルツの案に同意できるわ。蒼野君、望む望まないにかかわらず、今回の戦いで台風の目になるのは貴方なの」


 「知らなかったのは私だけか!」と叫ぶエヴァをシュバルツがなだめる傍らでアイリーンが先を続ける。ただその先はシュバルツが語ったほうが良いと考えた彼女はエヴァを自身の膝に乗せながらなだめ始め、


「納得してもらうにはそうだな………………君たちは千年前の戦いの終わり。ガーディアの奴が敗北した瞬間を見たわけだが、あの時点で抱いた違和感はなかったかな?」


 手が空けばシュバルツが再び語り始め、蒼野や康太が再び頭を悩ませる。


「あ、それじゃあエヴァさんにちょっとお尋ねしたいんですけど」

「ん? どうした?」

「エヴァさんが発明した千年前から現代に移動する術式。それってどういうものなんですか?」

「コールドスリープ、だっけか。肉体をあれで保存したうえで魂を別の場所に安置する能力を使った。結界やら迎撃の備えはしておいたが、もし肉体が破損してもなんとかなるようにな。それ用の寸分違わぬ肉体さえ用意したくらいだ。思えばあれが一番大変だったな。魂と肉体のすり合わせはマジで面倒だ」

「………………それってもしかしてですけど、術式をかけるまでは生きてる必要がありましたか?」

「そりゃな。あ、だからシュバルツやガ―ディアには神器を外すよう頼んだぞ」


 今回最も早く疑問を投げかけたのは優で、彼女は他の者と比べ悩む素振りすら見せなかった。それは望まれていた答えが彼女が普段から専門にしている分野にかかわることであったからで、エヴァが説明を終えると優は「やっぱり……」と呟きながら深刻な表情を晒し、


「最後の前に見た千年前の戦いの記憶があるじゃないですか。あの時――――――ガーディアさんは自分から心臓に剣を持って行ってませんでしたか?」

「!!」


 彼女がたどり着いた答えを聞き、蒼野達は動揺し、エヴァはそれに加え即座に狼狽した様子まで見せた。「そんなはずはない!」と叫ぶように口を開きかけ、しかし否定できなかった。


 今しがた愛する人が自身の手で心臓に剣を突き刺したのを見た故に。


 もちろんその状態から回復する手立てを持っていることを彼女は知っているが、それでも自身の愛する男が未来に飛ぶことを前提に考えた場合、不用意にそんな危険なことをしないことも確信を持って言い切れ、ゆえに認めざる得なかった。


 あの日、あの瞬間、自分たちが未来に行くことを決めた裏で、『果て越え』ガーディア・ガルフは死を選んだのだと。


「その理由は過去の記憶で見た通りだ。あいつはさ、自分の中に飼ってる魔犬でアデットの時みたいに私たちを殺したくなかったんだ。だから死を選んだ………………しかし何らかの理由で失敗した。だから生き延びることを選んだのだろうさ」


 それが次いで語ったシュバルツの推理。


 そしてそれが正答ならば此度の限界においても望む目的はただ一つ。ガーディア・ガルフはまたも望んでいたのだ。そして見つけた。


「『あんな能力』なんて君は言ったがね。君が手にした能力しかできないことがあるはずだ」

「粒子の一粒さえ世界に残さない完璧な死…………じゃあガーディアさんは!」

「ああ。それができるとわかって作戦の変更を決めたんだ」


 痕跡一つ残さずこの世から消滅できるという、待ち望んでいたであろう能力の存在を。



ここまでご閲覧いただきありがとう

作者の宮田幸司です。


長く続いた戦い、その動機がついに明かされる話です。

ここまでの戦いを見ていただければわかるかと思いますが、読者も蒼野達作中の人物も全員『ふざけんな!』と叫んでガーディア殿を殴ってもいい案件。

躱される、ないしカウンターを決めてくるというクソ対応の可能性が濃厚ですが。


ただじなぜイグドラシルを殺したのか。そもそもここまで大きな戦争をした理由は何か

などまだわかってないことも多いと思うので、続きは次回で


それではまた次回、ぜひご覧ください!



3/16追記:申し訳ございません。次回投稿についてですが少々用事が溜まってしまいまして明後日の投稿は見送らせていただきます。そのため次回更新は3/19となりますのでよろしくお願いいたします。

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