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凶々禍々 二頁目


 立場柄彼女は『一個人の人生が崩落する瞬間』を数多く見てきた。それこそ同年代ではトップクラスであるほど。

 これというのも彼女が学校の秩序を乱すものを正す存在であったり、生まれが高貴なもので下々の者がすがる様子を数えきれないほど見てきた故…………という事情もあるが、やはり最大の要因は彼女にとって腐れ縁にあたるガーディア・ガルフとの関係にあるだろう。


 ガーディア・ガルフという存在は最悪に近い性格をしていたが二人の友の手により『秩序を重んじる面』が色濃く存在していた。それは間違いない。

 ただやはり彼の根本的な部分は人でなしなところであり、『気まぐれ』『その日ちょうど気分が悪かった』という理由で、罪を成した悪人が、乗せられた天秤に見合わぬほどの代償負っている風景をありありと見てきたのだ。一度や二度でなく百回千回と。


「あ」


 そんな彼女が今、見る立場から受ける立場に切り替わる。

 行ってしまった過ちの名は『想像していなかった衝撃から来る一瞬の隙』。与えられた代償の名は『隕石落下による圧死』。


「っ!?」


 惑星内にとどまらず惑星の外を戦場としてきた彼女にとっても初めての光景に息が詰まり、ほんの一瞬の間に皮膚が嫌なにおいを発するのを感じ取るが、彼女に衝突しようとする巨大な岩石の塊通しがぶつかり合うことで、薪がはじけるのにも似た音が耳に響き彼女の脳を迸らせる。


「届いてっ!」


 そこから先は紙一重の戦いであった。

 迫りくる隕石の群れが自身の体に到達するよりも早くアイリーンは自身の肉体を流星の如く動かす。光を纏った肉体は一切の迷いなく僅かにできていた隙間へと滑り込み、純白のスーツの至る所を焦げ付かせながらギリギリではあるが突破。


「はぁ!? あれを潜り抜けるか普通!?」

「ふっ!」

「うぐっ!」


 唖然としている小さな肉体へと向け一直線に進み、追撃が行われるよりも早くすすだらけになった白い手袋をはめた拳を打ち出す。

 そうすれば小さな肉体はロクな防御も反撃もできず吹き飛んでいき、九死に一生を得た彼女は空中に浮かんだまま、多量の汗を拭きだし荒い呼吸を幾度となく続ける。


「よく生きてたな。死んだと思ったぞ!」

「ずいぶんと……簡単に言ってくれるじゃない」

「いや驚いたのはマジだぞ。ただ俺も見ての通り……余裕がない!」


 そんな中、二度三度と地面の上を跳ねた末に自身の真下に着地したシュバルツが言葉をかけ、それから一瞬だけ間を置き、跳躍した彼のいた場所に小さく圧縮された嵐の塊が撃ち込まれる。

 それによってもたされた二次被害を足先で片付けつつ彼女は脳内では考察を繰り返す。


「…………そうね。運がよかったのよ。最高のタイミングで隙間ができてね。破れかぶれになりながら突っ込んだら何とかなっただけよ」

「そうか。とりあえずは良かったよ!」


 叩き出された答えの一部を隠したうえで行われた返答は、細かいことを気にしない豪胆さを秘めた彼らしいものである。

 そのまま自分から意識を完全に離し、己と同じサイズに近い巨躯へと突撃を行う彼の姿を見届けると彼女は自身へと向け怒気を注いでくる方角へと視線を戻す。


「ひどいなぁお姉さん。顔が見えていないとはいえ、僕がかよわいかよわい子供だってことくらいわかってるんだろう? そんな僕のおなかをぶち抜くような攻撃をするなんてさぁ…………死に値するよねぇ!!」


 手ごたえはあった。自身の肌に流れてくる感覚に、耳に届いたくぐもったうめき声かしてら、一定以上のダメージを与えられたことは間違いない。


「全回復、ね」


 ただそれほどのダメージを瞬く間に消し去るだけの腕前があるというだけの話。

 それを自覚した彼女の口からは「反則的ね」などというつぶやきが漏れだすが、すぐさま攻撃が行われないことを自覚して考察の手を深めていく。


 正体の分からぬこの相手、おそらく幼子は『最高クラスの粒子使い』だ。

 即座に隕石を落下させることができるだけの超高難度の術式に、指先を動かすくらい早く行われた超速再生の術式。どちらも能力を使った形跡はなく、となればこれが純粋な粒子術であることに疑いはなかった。

 これだけでも頭を抱えたくなることこの上ないのだが、もう一つの注目点はことさら厄介だ。

 どのような経緯、方法であるかはわからない。

 しかし間違いなくこの相手に直面した現状、彼女は粒子を練ることができていないのだ。その証拠に先ほどから光属性を固めた刃を作り上げようとしてもうまくいかず、垂れ流した粒子は霧散するばかりである。


「言っちゃうと君たちは前菜、いや目標に向かって踏み込もうとした際に邪魔する障害物。粗大ごみみたいなものなんだ。力の差が理解できたら、さっさと諦めて端の方にどいてほしいんだけど」


 そうしている間にも彼女へと向け魔の手は伸びる。

 小さな刺客がその場で持ち上げた右足で強く地面を叩くだけで視界が生い茂った樹木の群れで、慌てて交代する彼女に向け、今度は帯のように薄く横長に伸ばした雷が襲い掛かる。一本や二本どころではない。二十三十と一斉にだ。


「それができないなら死んじゃえ」

「危ないわね!」

「ちょこまかと動ごくな! めんどくさい!」


 アイリーンはそれを躱す。

 いつもと同じように全身に光属性を張り巡らせ。

 これは先ほど隕石を避ける際偶然分かったことであったのだが、属性粒子が使えないというのはどうやら体外に発する場合に限るようだった。

 つまり体に纏うことで光の速度で移動することは可能であり、慣れ親しんだ感覚に身を包むことで彼女は死の危険から遠ざかっていた。


「ああそうか力の差を見せつけたら勝手に死んでくれると思ったんだけどさ。どうやらもうちょっと追い詰めなくちゃいけないみたいだね。うん、それなら話は簡単だ。攻撃の圧を増そう。隙間をなくして逃げ場を塞ごう。それがいい!」


 ただそうして逃げ回ることができる時間はすぐさま終わりを迎えた。

 彼女にとっては嘘のように荒唐無稽な話。信じがたい光景であったのだが、撃ち込まれる攻撃の量が急激に増したのだ。

 あるものは町にあるビルを両断できるほど巨大な剣であり、あるものは万象を凍らせ砕くほどの寒波であった。またある者はガーディア・ガルフが使う炎を連想させるような灼熱の渦であり、その全てがたった一人の命を奪うために迫りくるのだ。はっきり言って悪夢の類であろう。


「っっっっっっ!!」

「ああもうしつこいな! さっさと死ねよ!」


 ただそれほどの危機に直面しても彼女は折れない。

 針の穴よりもなお小さな光明にへと向け一直線に駆け、体の至る所を傷つけながらも隙を見つけては攻撃を打ち込む。

 そうしてつけた傷が瞬く間に自身が見ている前で瞬く間に回復するわけだが、闘志はなおも体を満たす。


 目の前の存在は強い。けれども自分が知っている人類史上最強の生物と比べれば遥かに弱い。そんなことを考えながら。


「粒子も思うように使えず、負わせた傷は見る見るうちに塞がっていく」

「!」

「何が目的かは知らないけどさ、気づいてるよね? 僕には絶対に勝てないって。それならさぁ、さっさと諦めてくれないかな? 見ることにさえストレスを溜めるような下等な生物の相手をするのが、どれほど嫌な事かくらい、君の矮小な頭でも十分に理解できるだろ?」


 なんともひどい言いがかりである。

 けれど『勝ち目がない』という一点だけは憎たらしいことに的を射ている。

 だからと言って諦める気は毛頭ない彼女を前に、頭上を奪い続ける二人目の刺客は聞こえるほど大きな舌打ちを行い、


「特異点だけじゃない。この世のルールを守ってないどころかぶち破った腐った死体もいるんだ。手のうちなんて小指の爪程度も見せたくなかったんだけど」

「!?」


 右腕をアイリーンへと向ける。それだけで体は動かなくなった。

 巨大な腕に掴まれたというよりは金縛りにでもあったかのように硬直し、その事実に彼女はこれ以上ないほど大きく目を見開き、


「無駄な努力ご苦労様。じゃ」


 そんな彼女の瞳に、神に向かうものを裁くかの如き神気を纏った黄金の杭が映り込む。

 最初は一本だったそれはけれどすぐさま十二本にまで増加し、ぐるりと彼女を包み込み、


「死んでいいよ」


 その直後には何の感慨も抱いていない声とともに打ち出された。


「アイリーン、君の至った考察は正しい」

「!」

「はぁ?」


 それは一切の迷いなく彼女の体に迫るのだが、先端同士がぶつかり甲高い音を響かせるよりも早く彼女の体は後方へと引かれ、


「だから自信を持っていい。その案を採用してうまく動けば、私たちは必ず勝てる」

「アデット!」

「待たせてしまってすまない。反撃といこう」


 彼女を引き抱きかかえた透明の鎖の持ち主の正体。

 それは傷の修復を終えたアデット・フランクであり、彼は空に浮かび自分たちを見下ろす新たな刺客を見つめ、迷いなくそう言い切った。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です


復活のアデットやら出鱈目な新たな刺客のスペックについての説明。そして反撃の狼煙を上げる瞬間となります。

『嵐の無双者』にしても本編内において最高スペックに近いものを持っていますが、二人目の刺客もこれまたひどい。

なんせ属性粒子の使い手としてはエヴァやアイビスと並ぶ最高クラス。ここにあらゆる属性粒子の無効化が入るわけですからね。

戦ってる側は文句の一つや二つ言いたくなります


さてそんなこの戦いも次回で大詰め。楽しみにしていただけると嬉しいです。


最後にここ最近は更新が遅いことが多くなってしまい申し訳ありません。

見ていただいていらっしゃる皆様には感謝しかありません


それではまた次回、ぜひご覧ください

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