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アデットという青年 二頁目


「これでまた一つ話が終わったわけだが、情けない話、私たちは彼女を犯人だと決めつけることができないでいる」


 流れていた記憶のテープが終わり、時が止まったかのようにピタリと静止する。

 その事実を確認すると、記憶の旅を続けてきた五人の青年の瞳をしっかりと見据え、シュバルツは正直に話した。


「そうなんですか?」

「あぁ。しかしだ、あの神崎優香を名乗る童女以外に理由が思い浮かばないというのが、私たち三人の総意だ。だから私たちは探し回った。あの女に全てを語ってもらうために、現代によみがえって以降あらゆるところに訪れた」

「結果は芳しくなかったけどね」

「…………俺たちと遭遇したのはそれが原因か」

「あ、なるほど。そういうことなのね」


 ここにいる五人はシュバルツ達と戦場だけでなく牧場などという奇妙な場所で出会っている。

 かつてはただの観光が目的とシュバルツとエヴァは語っていたが、今になってその真意を彼らは知った。


「あれ?」

「急速に先に進まない?」


 一つの物語が終わりを迎えた。それは間違いない。

 ただ先ほどのように勢いよく時が進むことはなく、その事実に仲良く並んでいた優と蒼野が首を傾げた。


「どういう変化があったのか、あとはその結果どのようなことが起きたのかくらいは知っておいてほしいと思ってな」


 そう告げるとシュバルツが背後にいるエヴァに視線を向け、その意味を察して彼女が鼻を鳴らす。

 すると彼らの見ている前で記憶を刻んだテープがかなりの速さで進むのだが、一夜明けたところで現実と同じ速度に戻った。


『どうしたんだその顔。何かに目覚めたのか? ダサいぞ?』

『開口一番にずいぶんなご挨拶じゃねぇの。あれか? お前は俺にボコられたいドM野郎か?』

『そういうわけではないが、喧嘩なら大歓迎だ』


 彼らが新たに見始めた記憶の舞台はすでに何度か目にしていた生徒会室だ。

 すでに語っていた通りガーディア達四人はこの場所を根城としているようで、数年前の記憶と比べると変化しているものもいくらかあった。


 そんな生徒会室の主が隣にある寝床から顔を出すのだが、先に見た映像までとは少々様子が違っていた。

 美しい金の髪の毛に一筋の『黒』が混じり、鼻先には親指の面よりもわずかに小さいサイズの黒点が張り付いているのだ。


「…………この時代のガーディア・ガルフを見た時から抱いていた違和感があったがその正体はあれか」

「マジマジと観察することがねぇからよくわかってなかったが、こうしてみてみると差は歴然だな」


 千年前のガーディア・ガルフがわずかばかり現代の見知った姿に近づいた。

 その様子を見せたところで時は再び流れ出すのだが、過ぎ去っていく時の流れに従うようにガーディア・ガルフの髪の毛と鼻先についた黒点は広がっていく。


「見てると思うんだが、あんたらは決まった役割がある感じなんだな」


 流れ始めた映像はすぐに止まるものではなく、先ほどと同じように輝かしく充実した日々の様子が描かれていくのだが、その途中で積が口を挟んだ。


「いい観察眼ね。その通りよ。もうちょっと嚙み砕いて説明するとね、彼は私たちを引っ張る『星』だった。だから細かく言うなら『ガーディアを中心とした役割』といったところね」

「一応言っておくとこれは示し合わせたわけではないぞ。本当に偶然、全員が自分のやりたいことをやった結果、うまい具合に役どころを演じることになっただけだ」


 そう説明するシュバルツとアイリーンだが、話を聞いても積除いた面々は理解しきれない。それが伝わったからか彼は一度咳払いをすると、仲良く紅葉した山道を歩く面々を一人ずつ指さしていく。


「ガーディアさんが中心人物であらゆる物事の発起人。見た感じどこかに行ったり何かをする場合は、大抵が中心っぽいな。いやそれにしても今とは大違いだな」

「…………他は?」

「エヴァさんはそんな彼の最大の賛同者。イエスマンつってもいいかもな。とにかくガーディアさんのいろんな提案にエヴァさんが乗っかる。で、それにシュバルツさんとアデットさんも付いていくわけだが…………その、シュバルツさん」

「ん?」

「こういう言い方すると失礼かもしれないんですが、シュバルツさんは貧乏くじを引く役目。色々と損をする人ですよね?」


 流暢に説明をする積はけれど途中でわずかに口をつぐむ。それから確認するような視線を向け、自身に注がれる視線に敵意を筆頭とした危険なものが潜んでいないことを確認すると、遠慮がちに続く言葉を語り、


「ハッハッハッハッハッハ! なるほど! それは確かに言いにくいな!」


 指摘された内容を前に全員が反射的に耳をふさぐような笑い声が発せられた。


「だが気にしなくていいぞ。そういう役回りな自覚はある。むしろそうして私にうまいこと苛立ちを募らせれば、あいつは結構簡単に手を出すからな。それがいい修行になるから割と狙ってやってるところもあった!」


 「あいつのガス抜きにもなるしな」とそこから言葉は続けたわけだが、残念ながら耳を抑えている彼らがそこまで聞き取ることはできなかった。


「…………で、アイリーンさんは外部からの風。なんというか…………ガーディアさんに刺激を与えるような感じの役割だ。時たまアイリーンさんがやってくると、ガーディアさんは他に接する以上に明確な反応を示してる」

「トラブルメーカーの取り締まりに動いてただけで、嫌われてただけの話だけどね」

「で、アデットさんだけど」


 続く考察に関しても本人が正答であることを示し、積の視線は最後に残った一人へと移動。


「俺の勝手な推測ですけど、ガーディアさんの一番の『理解者』って感じですか?」

「すごいな。完璧だよ積君」


 指差し、振り返りながら告げた答えを前に、シュバルツは心からの賛辞を贈る。


「私とアデットはね、エヴァがあいつを『愛している』アイリーンが『注意する』のに対し、別々の方法で彼に『寄り添いたい』と思ったんだ」

「寄り添いたい?」

「私は同じ『実力』の人間がいることを示し、あいつ同じ『思考』の人間がいることをあいつに示してやりたかった。ここら辺は腕っぷしが強いか、頭がいいかの違いだな」


 そんなことを話していると、彼らを包むように待っていたテープの進んでいた時が緩慢なものに変化する。

 「まだ止める予定の場所ではない」とそれを見てアイリーンは語るが、エヴァは「時系列順」に進めるといい完全に時を止め、アイリーンを除いた四人がボランティア活動で空き缶を中心としたごみ拾いをしている最中の画面で止まった。


 この場所で止まった意味を知らされていないため、所見の五人はこの記憶にどのような意図があるか測りかねていたのだが、足元にあった空き缶を掴んだ女性が、ごみ袋を無表情で持っているガーディア・ガルフのもとに近づき名乗ったところで、この記憶の意味を理解した。


「ガーディア・ガルフですね。周りにいるのはそのお仲間」

「……あんたは?」

「突然失礼。私」


 言葉を語るのに呼応させ、空き缶を持っていない左手を確かなふくらみを備えている胸部へと持っていき、


「イグドラシル。イグドラシル・フォーカスと言います」


 堂々と、敵地の真ん中でそう告げた。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。



遅くなってしまい申し訳ございません。2月1日分を更新です

アデット紹介+他の面々の立ち位置紹介。

そして千年前の戦争に大きく関わる邂逅となります。


彼らがどのような話をするのか。そしてシュバルツ達が語る彼の変化とは?


全て次回で語っていければと思います


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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