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ガーディア・ガルフとエヴァ・フォーネス 二頁目


 小説家『神崎優香』

 千年経った現代でも世界一売れている小説『ピースワット冒険譚』の作者である彼女は、一言でいえば幻の存在だ。

 自費出版を行っているため編集者などが存在せず、メディア関連に出演したこともない。

 ただ彼女は自身が開設したホームページでラジオ放送をやっており、自身が出版する次巻の注目ポイントなどを解説しているため、間違いなく存在していると人々は見たこともないのに確信を抱いていた。


 ただ、そんな彼女に出会う方法がただ一つだけ存在した。

 なんの告知もなく突然行われる握手会に参加することである。

 当たりの数、開催場所に時期、否、あらゆる情報が遮断されているその握手会に参加するための抽選会は、真偽含めて多種多様な方法で行われており、今回の場合ガーディア・ガルフは最寄りのスーパーでやっていたスピードくじで当てることができたのだ。


「シュバルツさん」

「ん? どうした蒼野君?」

「じゃ、じゃあもしかしてこれから…………あの神崎優香さんとお会いできるんですか!?」

「まぁ記憶越しにだがな」

「ちなみにこの記憶は私とシュバルツの二つの視点が混じってるからな。ちとわかりにくいところもあるが許せよ」


 ちなみにあらゆる分野において他を寄せ付けぬガーディア・ガルフであるが、彼には一か所だけ他者と比較し圧倒的に劣る点があった。それが『運』が悪いということだ。

 マージャンなど運要素が絡む勝負事では正々堂々戦った場合、絶対に勝てないのはもちろんのこと、ビンゴ大会などを行えば、間違いなく最後まで残ることになり、年初めのくじ引きでは『凶』か『大凶』がデフォルト。それ以外が出た場合、それだけでお祭り騒ぎになるというクソ運。

 それが彼という男の唯一の弱点だ。


 そんな彼が幻とさえ呼ばれている人物と会うことができたのだ。この記憶には映っていなかったが、その喜びようはすさまじかったらしい。

 そんな彼に一歩も引けを足らぬ勢いで、記憶を見ている蒼野も抱いた喜びを全身で表す。


 というのもこの『神崎優香』千年経った今でも現役の小説家として活躍しているのだ。

 書いている内容も先に述べた物語の本編はもちろん番外編もあり、根強いファンが今なお増え続けているのだ。


 それほどの人物なのだ。話を聞いた直後は『デートのメインイベントが小説家の握手会ってのは微妙じゃね?』などと思っていたガーディアも、一秒と経たぬうちに自身が持っているチケットの希少さを思い出し、友の意見に賛同。

 エヴァもこの本が好きなのを思い出すと、ロクに話を聞かぬまま駆けだし始めたというわけだ。


『お、お待たせ』

『…………いや待ってねぇよ。気にすんな』


 

 そして数日の時を経てデート決行日。日輪が最も輝く夏のど真ん中を超え、少々暑さが和らぐ八月の末に、ガーディア・ガルフとエヴァ・フォーネスの二人は、待ち合わせ場所である駅前金時計で二十分ほど前に顔を合わす。


『あ、エヴァが来たわね』

『これでも十分早いんだが、ガーディアの奴が早すぎたな』

『一時間以上前とはね。彼の感覚を考えればありえないはなしでもないがこれは…………』


 普段の黒を基調とした服装をから清楚な白のワンピースに着替えた少女は日よけの空色の傘を差し、すでに顔を紅潮させながら思い人の前に現れ、黒のチノパンに空色のワイシャツという、普段の荒々しい性格からでは想像できないような綺麗めな格好をしたガーディア・ガルフが、らしくもない口調でそんな彼女を迎える。


『もう。そこは『綺麗だな』くらい言ってあげなくちゃ! 駄目ねダメダメね!』

『今日はテンション高いなお前』

『そりゃもう。普段は頭を抱えさせてる厄介者二人の初々しい姿が見れるんだもの! こうもなるわよ!』

『言っておくが、バレた場合かなりまずい状況になるのだからな。気を付けてくれよアイリーン』


 二人が浮かべる表情は普段と比べればぎこちないもののそこは絶世の美男子とかけ値なしの美少女。多少の違和感など容易に吹き飛ばしてしまう。

 そんな二人に悟られぬよう、持てる力全てを総動員し曲がり道の先からその様子を見守っているのは残る三者。すなわちシュバルツとアデット。それにアイリーンである。


 シュバルツは得意としている変装術を、アデットとアイリーンは得意な術式や高価なアイテムを使い、望遠鏡や昼食まで用意して二人の様子を見守る。


『まさか同じタイミングでエヴァがガーディアの奴に恋心を抱くとはな。驚きだ』

『それはこっちのセリフよ。いきなりやってきたんだもん。びっくりしちゃったわ。普段みたいにソニックブームの対策をして動いてもなかったせいで、店内もめちゃくちゃよ。まぁ全部弁償したけどね』

『はは。悪い悪い。それくらい、俺かアデットが言っておくべきだった』

『まあ彼の情操教育のためと思ってもらいたい。それにこの街にあるお店なら一度は彼の世話になってるだろう?』

『まぁ…………そうね』


 そのように話をしていると視界の先にいる二人は油の切れたロボットのようにギチギチと体を動かしはじめ、監視している三者が話に出している喫茶店に移動。

 『開園時間まではここで潰すつもりか』などと呟いたシュバルツの読み通り、二人はその喫茶店に入り各々好きな物、ではなく、相手の顔を伺うようなしぐさをしながら注文を開始。

 最初はコーヒーだけであったが、三十分ほど経ったときには二人の座る机にはところ狭しと料理やデザートが並んでおり、それを黙々と食べる作業が始まった。


『何をやってるんだあの二人は?』

『相手を見て注文を決めた…………というのが始まりじゃないかしら。けど途中でそれが変わった』

『変わった?』

『そ。多分だけどね、会話が続かなかったのよ。ほら、これって二人にとって初めてのデートでしょ? そうするとね、話す内容に困るのよ。普段通りの会話でいいのか。それとも特別な会話のほうがいいのか。それに迷った結果が、あの大量の料理よ』

『…………なるほど。つまり食べている間はそっちに専念できるから、それで時間を潰そうと』

『そうよ。いやぁ、若いっていいわねぇ』

『おばさん臭いぞお前』


 二人にばれぬよう、数キロ離れた高層ビルの屋上からその様子を缶コーヒー片手に眺めるアイリーンは、隣であんパンを食べているシュバルツが挟んだ言葉を耳にすると、彼がガードをするよりも早く拳を腹部に打ち込み、打ち込まれた本人は悶絶。


『ま、まあいい。俺はちょっと抜けるから、二人の監視は頼んだぞ』

『あら? どこに行くの?』

『あのガーディアがくじ引きを当てるなんて奇跡、それも超がいくつも付くレアものを当てるってのがどうにも信じられなくてな。一足先に現場に向かって、裏がないか確認してこようと思ってな』

『……ふむ。確かに』


 『無駄にタフね。むかつく』などと考えるアイリーンの横で、友の言葉を聞きアデットが唸る。

 五人の中でも最も厄介ごとを持ち込んでくる二人を良い方向に導くいい機会だと彼は考えていたのだが、言われてみれば確かに気になるとこではある。


『場所はわかってるんだったか?』

『デートのコースを聞く時点で聞いてたからな。問題ない』


 なので彼の行動を咎めるようなことはせず手を振って別れ、その十分後、入場時刻三十分前になったタイミングで喫茶店で食事を続けていた二人が立つ。

 それを見ていたアデットとアイリーンが微笑んだのは、彼らがらしくもなく腹を丸々と突き出していたためで、自分たちが見られているとも知らず喫茶店を出て、先にシュバルツが侵入したビルの十階催事場へと向け移動。


『おかしいな…………』

『あら?』

『首をひねってどうしたシュバルツ。何かあったのか?』


 周囲の人々の目を引く二人の様子を避けながら後を追い、五階から六階へ。六階から七階へと。

 とそこで二人は変装術によって一般人に化けたシュバルツと合流するのだが、その様子がおかしい。


『いや。私は確かに十階の催事場に行ったんだよ。そりゃ間違いない。だけどそこは別のイベントがやってたんだよな。ちと遅い気もするが暑い季節に合わせた冷房特集とやらが』

『どういうこと? あなたが見逃した?』


 齢二十歳を超えるまでもなく、シュバルツ・シャークスという男は神器を取得していた。となれば能力の類が彼の邪魔をすることはなく、加えて言えば彼は方向音痴ではない。

 だというのに彼は目的地にたどり着けなかった。


 その事態に、残る二人は不測の事態が起こっているという危機感を抱く。

 ゆえに彼らは急いで二人が向かった十階にまで登り、


『…………会場はここのはずよね?』


 そこで目当ての場所にたどり着けないという真実を知った。


『初めまして』

『随分と風変わりな方法を使ってるんだな。あんたが』

『神崎優香です。お待ちしておりましたよガーディア・ガルフ』


 一方残る二人は、件の人物とまみえていた。










ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


日を跨いでしまい申し訳ありません。28日分を更新です。

正直期待していた方には申し訳ない。ガーディア殿とエヴァの甘々な日常は表現されないのです。

今回の話の中心は一章から名前が出ていた『ピースワット冒険譚』の作者について。


この過去編は色々な意味が含まれていますが、今回の物語だけは三章までの話ではなく、未来の話に目を向けています。


彼女が何者なのか?

どのような話をするのか?


最近忙しく、中々うまくかけているという実感がないのですが楽しんでいただければ幸いです


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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