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ガーディア・ガルフとエヴァ・フォーネス 一頁目


『オッケー。わかりました。理解しました。あなたはガーディアのことが好きなのね。私はちゃんと話を理解することができました…………ところで一つ聞きたいのだけど』

『なんだ?』

『その……貴方正気? 変な物でも食べた?』

『お前何を言って……はっはぁーん。わかったぞクソ女! 実はお前もガーディアのことが好きなんだな。ラブなんだな! だからそうして私を遠ざけようと』

『脳みそが腐ったような推測はやめて!! ひっぱ叩くわよ!!』


 喫茶店のテーブルを挟み絶世の美女が会話を行う。その会話は周囲には聞こえぬよう、対ガーディア・ガルフを想定したすさまじい速さの言葉を用い行われたため、周りにいた人々は不思議そうな表情をしたり、にこやかな表情でそれを見守っていたのだが、意地の悪い声でエヴァが発した言葉を聞くと、アイリーンが机を平手でなく握りこぶしで殴打。

 二人の間に広がっていた机が砕け、エヴァが目を丸くした。


『お、おぉ。よくわからんが怒ったのはわかったぞ。謝ろう』


 時は彼らが出会ってから数年後、一貫校であったためエスカレーター形式で大学まで昇ってからしばらくした後の話である。


 出会った当初のエヴァであれば、アイリーンのそのような態度に対し威圧的な態度をとったかもしれないのだが、この頃になるとある程度の落ち着きを得ており、結果として二人が平時から利用している喫茶店が更地になることはなく、アイリーンが砕いた机もエヴァが即座に直した。


『…………で、なんでそうなったのよ?』


 アイリーンにしても溜めていた怒りを発散したことにより冷静さを取り戻したのだが、彼女視点では従順なペットとして扱われていた吸血鬼の姫君が、なぜそのような思いを抱いた理由がわからなかった。

 なので持ち上げた頭に真っ白な手袋をはめていない自身の右掌を置き、ため息交じりに尋ねてみる。


『まぁ一族全体を助けてくれた恩ってのがでかいな。それに』

『それに?』

『……お前らといるとさ、私はただの女の子に戻れる気がするんだ。一族を背負う責務や、いつ忍び寄るのかもわからない魔の手におびえる必要もなく、自由に過ごせるんだ。素顔を隠す必要もなく、精一杯笑える。望んでいた平穏が続くんだ。特にガーディアの前ではな』


 そう語る彼女は店員が持ってきたコーヒーカップを受け取るとお礼の言葉を告げ、そのまま修復した机に戻すことなくじっと見つめているのだが、真っ白な陶器のように美しい頬に、ほんのりと赤みがかかる。無論それは、湯気によるものではない。


 『恋する乙女』


 そんな単語がふさわしい様子に、普段ならば犬猿の仲のアイリーンも茶化すことができない。

 もしもくだらない理由であれば鼻で笑って、本日の飲食代全て払わせてやろうとさえ考えていた彼女は、当てが外れため息を吐く。


『ど、どうしたんだ。私の理由には何か問題があるのか?』


 挙句の果てには普段ならば決して見せないしおらしい表情を晒し声を発し、内心で『ずるい表情をするのね』などとエヴァに聞こえないほど小さな声で呟いた後、もう一度ため息を吐き、


『それで』

『そ、それで?』

『あなたはどうしたいのエヴァ。ガーディアを好きになった。それは別にいいわ。まだ信じられない気持ちはあるのだけどね。けどそれからどうするのよ。着地点は?』

『そりゃ、付き合って、二人で一緒に甘々な時間を過ごして、け、結婚なんかも! あ、子供も欲しい! 一軒家も! あと死ぬときは!』


 気を取り直して話を聞き始めるが、甘い、甘すぎる。

 砂糖もミルクも入れていないブラックコーヒーを飲んでいるというのに、これまで一度も見せたことがなかったエヴァのいじらしい表情やしぐさに胸焼けを起こす。


『待って待って! 話が早すぎるわ。もっと前。そもそもの第一歩をどうやって踏み込むかよ!』

『?』

『あんたねぇ。幸せ未来予定図を描くのはいいけど、そもそもどうやってその状況に持っていくっていうのよ。まずはデートでしょ。デ・エ・ト!!』

『う、うむそうだな。デートだな。いわれてみればそうだ』

『そ、だからまずは、どうやったらその状況に持ち込めるかを考えましょ。色々な夢は、第一歩を踏めてから考えなさい』


 そうは言うもののアイリーンはこの恋はうまくいかないと思っていた。いかに彼女が彼を愛そうとも、それにあの男が答えることはないと踏んでいた。


(エヴァには悪いけど、ガーディアからしたら、ペット扱いよねぇ)


 そのような未来を予期することができれば、その対策も可能だ。なので彼女は失恋後に訪れる様々な事態に対する対処法を考え、


『あなたとガーディアの共通の趣味とかはないかしら。初デートならそのあたりを攻めるのが定石だと思うんだけど?』

『…………拷問?』

『却下。あの道徳皆無の暴れん坊将軍に、これ以上変な知識を与えちゃだめよ』


 そう思いながらも彼女の恋を真摯に応援することにした。

 問題があるとすればただ一つ、


『どうした。エヴァ抜きで話したいなんて言い出して?』

『あまり過激な悪戯はしてはいけないよガーディア』

『ちげーよ! 開口一番にそれを疑うってのはどうなんだよアデット!』

『まあ普段のお前を見てたら誰だってそう思うだろ。じゃあなんなんだよ!』

『いやちょっとお前らに聞きたいことがあってな』

『『?』』

『ここ最近だな、エヴァを見ると胸が熱くなるんだよ。で、前みたいにいじめられなくなったんだ。これがどういうことかわかるかお前ら?』


 ガーディア・ガルフ。人類史上最大最強の男。彼もまた同様の感情を得ていたことだろう。


『『!!!!?』』


 その相談を大学に入学以降も居座っていた高校の生徒会室でされた二人は、アイリーン以上の衝撃に襲われた。しかしそれも無理もない。エヴァ・フォーネスという存在は間違いなく規格外だが、ガーディア・ガルフはそれを上回る。


『なぜ突然そんなことを? 昨日までそんな素振りは……いやそういえば、ここ最近様子がおかしかったな』

『そうだな。毎日やってた訓練とは名ばかりの暴力や、無理難題が減ってた気がする。主にエヴァの分が。そして代わりに私の分が増えた。すごく迷惑!』


 こう言っては何だが、彼らはそのような感情をこの男が抱くことは決してないと思っていたのだ。


 アデットもシュバルツも、形は違えどガーディア・ガルフという存在を理解したいと思っていた。


 ただ近づけば近づくほど、彼らは目指す存在が同じ地平に立っている存在ではないような気持ちにも襲われていた。目の前の存在が、人智を超えた『何か』であるように感じていたのだ。

 そんな彼が、今ここで初めて同じ地平に立った気がするのだ。それは彼らにとってそれは非常に喜ばしい。最も、アデットもシュバルツも夢に向かって走り続けていたため、恋愛に関してはズブの素人でロlクなアドバイスをすることができないと自覚していたのだが。


『お前の感想なんてどうでもいいんだよ…………でだ、7デートに誘おうと思うんだが、何かいい案あるか。今のところは拷問百景なん』

『学生という身分。そして君の将来を考えた場合、それは非常に不適切だと思うな私は』

『そうだ。もっときれいな青春を送れこのバカ! バカバーカ!』


 続いて腕を組み珍しく気難しげな表情で語るガーディアに、お株を株を奪うような言葉の挟み込みをする両者。

 それが終わったところで彼を指さしていたシュバルツの体は生徒会室の窓から飛び出し、遠くに見える山の一つにまで吹き飛んでいくのだが、その際に生じた衝撃が原因で、アデットはガーディアのカバンから頭を出していた物を見つめ、続いて部屋にある本棚に刺さっている物を見て閃いた。


『そういえば君、あの本は結構好きだったね』

『ん? あぁそうだな。色々な本を読んだけど、あそこまで綿密な設定やら心情描写は見たことがねぇ。それがどうし…………あぁ!』


 最初は何を言いたかったのかわからなかった様子のガーディア・ガルフは、けれど話が進むと自身のカバンから細長い紙切れを二枚取り出す。

 そこには『小説家、神崎優香握手券』書かれていた。


『まあエヴァに限らず私も好きな作品なんだが、ちょうどいいじゃないか。確かそのチケットはめったに手に入らないレアものだろ? ならそれをメインイベントにして、食事やらなんやらをしたらいいんじゃ?』


 成否に関して具体的に考えたわけではない、ふとした思い付きである。

 ただこの提案を聞きガーディア・ガルフは大いに満足した様子で、最後まで聞き終えるよりも早く生徒会室から退室。エヴァの元まで移動することになる。


 二人の初デートはこうして決まった。





ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


ということでガーディア殿とエヴァのデート編。その始まりです。

なお、作者は恋愛とは無縁だったので、定石とか語っていますが、間違っていても温かい目と広い心で見ていただければ幸いです。


アデットとシュバルツがどのような形でガーディア・ガルフという存在を理解しようとしていたかはまた今度。

兎にも角にも次回はデート編、という名のサイン会参加編。お楽しみに!


それではまた次回、ぜひご覧ください


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