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ROAD TO FIVE 一頁目


「あ、あぁぁぁぁぁぁあついぃぃぃぃぃぃ!!」

「おー焼ける焼ける。すっげぇ焼けるわ。ちと気になるんだけどよ、こうやってこんがり焼いてる吸血鬼のお肉。それを食べたらどうなんだろな?」

「生物によっては不死になるらしい。その場合、食べる部位も大きくかかわると読んだことがある」

「いやそうじゃなくて気になるのは味だよ。うまいのかな?」

「味かよ! 好奇心で食うなよ!?」


 洋館での戦いを終え、彼らは普段と変わらない日常に瞬く間に戻った。

 先に示した通りエヴァの懐から取り出した財布(中身に結構な額)で食事を行い、各々親のいない自宅に帰った。

 その際エヴァはガーディア・ガルフに引きずられ寝床としている生徒会室横の小部屋に戻るのだが、夜になり力が戻ると即座に抵抗の意思を示すのだが、ガーディア・ガルフにしこたま殴られおとなしくなり、一夜を過ごす。


 問題が起きたのは次の日の昼下がりだ。

 普段ならば授業に対し退屈そうな様子を示すものの参加だけはしていたガーディア・ガルフが何をしでかしたかと思えば、校舎の前に設けられているグラウンドに飛び出し、日当たりのいい場所にエヴァを投げ出したのだ。

 しかもそれは両手両足を縛り頑丈な棒で括り付けた状態で、掌をかざし中空に浮かべたかと思えば、触れることもなく回し始めたのだ。

 さながらゲームで出てくる骨付き肉を焼くようなアクション。そのバグ映像のような光景。

 授業をまじめに受けていたシュバルツは窓際の席にいたためそれを見て、アデットはしばらくしたところで聞こえてくる悲鳴を聞くと、急いで現場に駆け付け、その結果が先の会話となるわけだ。


「いやそもそも……お前は何をしてるんだ?」

(本気で吸血鬼の肉を食べたいと思ったわけでもあるまい?)


 呆れた表情で尋ねるシュバルツに、内容が内容なだけに念話で会話を送るアデット。

 というのも千年前の時点で大半の吸血鬼は死に絶えており、こうして表舞台に立つことはめったになかった。

 見つかれば様々な思惑で捕獲部隊やら軍やら賞金稼ぎが動き出すことが常であり、それを嫌って彼らは日陰での生活を強いられていたのだ。


「いや昨日見た時から気になってたんだよ。こいつらってどこまで耐えれるのかって?」

「どういうことだ?」

「吸血鬼の伝承くらいなら俺だって聞いたことがあるぜ。なんでも日の光を浴びると消滅するなり塵になるなりするんだろ。けどみろよ。こいつはまだ原型を保ってる」


「煙は立ててるがな」などとシュバルツは言おうとしたが、やめた。

 寝耳に水、右から左に流される、なんて結末が即座に浮かんだのだ。


「お前さんらが殺すな殺すなってうるさいからよぉ、殺人は控える。そりゃほんとだ。けどこうやって不思議な生物の生態を検証するくらいなら、許してくれてもいいんじゃねぇ―の?」


 聞いてみれば彼なりに譲歩したうえでの結末ということはわかった。

 ただ「ならいいよ」ということはできなかった。

 くるくると回され体の一部が焼け焦げる痛みから絶叫をあげるエヴァの姿が、そう口にすることを憚らせていたし、


「ちょっと! またアンタラなの!」

「げっ! クソババア!!」


 非人道的な行為を許さんとする正義の味方が存在し、それが文字通り光の速さでやってくることを知っていたからだ。

 この記憶を見る者たちは知っている、けれど当然と言えば当然だが、今と比べれば若々しい姿の美女。

 常日頃からまとっていた白のスーツではなく一高校生としては当たり前の制服に袖を通し、おしとやかさを示すロングではなく活発な様子を示すショートヘアーを周囲に見せつけ声を上げるのは、風紀委員長の腕章を肩に引っさげたアイリーンだ。


「ねぇ生徒会長? あなた、全校生徒の模範になる立場よね? そんな人が」

「ここでなにを、か? そりゃ簡単だ。強くなれば好き勝手できることを示してたんだよ」


 現れた彼女が不機嫌なことは、傍目からでもすぐに察せられ、けれどそんな彼女の言うことを最後まで聞くことなく、ガーディアは挑発するようなセリフと勝気な笑みを浮かべ腕を組む。

 言ってしまえば『止めたければ俺を倒してみろ』なんて示すその様子を、アイリーンは今日だけではなくこれまで何度も味わっており、返事の代わりに胸にたまっていた鬱憤をそのまま吐き出したかのようなため息が彼らの耳に届く。


「ま、まぁまぁ。人死にがでてるわけでもなければ、人様に対する被害もないんだ」

「縛り付けている彼女は、行政から依頼された件の犯人でして。それに対する報復、というより罰と思っていただければ」

「…………ダメね。やっぱり拷問認められないわ」


 言っている間にアイリーンは頭を上げると、視線を中空で回り続け絶叫をあげるエヴァに向け、それだけで光の刃が空を走る。

 音もなく、姿さえはっきりと視認できないそれは、しかし焼け焦げ煙を上げている両手の拘束を外し、同時に宙に浮かぶ理由を失った小さな体は、受け身も取れず地面に叩きつけられ小刻みに震える。


「何でそんなに怒ってるのか俺にはわからないんだが……なんだ? 拷問ってとこに対して怒ってんのか?」

「ほかに何か理由があると思って?」

「シュバルツ。アデット」

「…………まぁ今回の件はちょっと悪趣味だったな。改めるべきだと俺も思う」

「いろいろ言いたいことはありますが……まだ何か用がおありで?」


 不思議そうな様子で無言を貫くガーディアに対し、シュバルツとアデットは小馬鹿にすることなくまじめに説明し、二人のその言葉とまじめ度合いを汲み取って、ガーディア・ガルフも馬鹿にすることも茶化すこともなくうなずいた。


「…………そうね。話を移しましょう生徒会長。また来たわよ」

 

 その様子を見届け、アイリーンが懐から一枚の紙を出す。

 真っ赤な紙に真っ黒な文字で書かれたその物体の正体をこの記憶にやってきた子供たちはわからず、蒼野や優が慌てて近づきのぞき込むのだが、そこに書いてあった内容を見ると顔をしかめた。


 そこに書かれてあったのは世界を二極化している大戦争に対する徴兵令。

 対象はガーディアにシュバルツ。それにアデットの三人であった。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


遅くなってしまい申し訳ありません。日を跨いで投稿です。

千年前のアイリーン登場。あまりにもひどいエヴァの扱い。そして千年前の戦争。

次回は最後に話題に出た戦争に関して。

今まで出てきた知識のおさらいからですね


それと次回の更新に関してですが、二日後に夜勤が入ってしまっているので、9月20日に更新となります。よろしくお願いいたします。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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