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ギルド『ウォーグレン』史上最大の依頼 一頁目


 その姿を見た五人はすぐに言葉を発する事ができなかった。

 しかしそれも当然のことだろう。

 なぜなら彼らは知っているのだ。現れたその男が黒い海に呑み込まれた事を。もはや亡き者であることを。


 『三狂』・『闇の森』に並ぶ惑星ウルアーデにおける三つの災厄。否、三つの災厄の中でもの頂点に座する『黒い海』。

 これに呑み込まれたものは例外なく命を失う。

 それに男は遭遇し、デューク・フォーカスの奇策に囚われ、抵抗する事ができず飲み込まれたのだ。


 であればその死は避けられないものであるはずなのだ。

 後に上がった報告だけでなく、残っていた彼の同朋の反応が、まごう事なき事実であることを示していた…………示していたはずなのだ。


「久しいな。諸君」


 けれどあらゆる生物の常識をぶっちぎった存在。すなわち『果て越え』は、そんな常識さえねじ伏せ、日輪を模した姿で顕現した。

 髪の毛の大半を真っ黒に染め、鼻を中心に広がっていた黒い紋様を広げてはいるものの、彼という存在を形成する肉体には依然傷の一つもなく、発せられる声に淀みはない。

 まるで最初から自らを阻むあらゆるものに意味などなかったかのように、近所に住む知人にするような気軽な様子で挨拶を行い、見上げる若人達に絶望を与える。


「が、ガーディア・ガルフ!」

「…………………………シュバルツが死んだか」

「「!」」


 彼は康太に呼ばれると機械的に首を動かし、その視線が彼らに隠れるように真っ白な塔に背を預け、赤く染めている無二の親友に向けられる。

 その発言を聞いた直後、その場にいた面々のいくらかが微々たるものではあるが表情を変えるが、


「そうか」


 口を開き、何かを告げようとした。その瞬間、


「っ」

「がぁ…………っっ!?」

「こ、れ……ってぇ!!」


 彼らの全身に、味わった事のないほど強烈な重圧がのしかかる。

 いや、それは物理的に体が重くなる程度の被害に留まらず、脳みそを直接かき混ぜられるかのような不快感と一緒に襲い掛かり、強烈な吐き気が襲い掛かり、胃の中に残っていた物が逆流する感覚に襲いかかる。


「……ガーディア………ガルフ」


 けれどその中でただ一人、神器により凄まじい強化を施されたゼオスだけは頭を上げ、鋭い視線で空に浮かぶ果てのその先に至っている存在を見据える事ができ、その様子に僅かとはいえガーディア・ガルフは驚きの念を示し、


「…………俺達は、『最後の壁』を退けた」

「…………そうだな」

「ゆえに、今こそ…………千年前に行った『約束』を果たす!」

「…………………………………………………………………………………………ほう」


 続けて彼が必死に綴った言葉を聞き、彼は次に移ろうとしていた行動を止める。

 代わりに行われた本当に短い呟き。そこに込められていたガーディア・ガルフらしくもない感情は、他者に対する『関心』だ。


「君がどこでその言葉を知ったかは知らないが…………そうだな。確かにシュバルツを退けたのなら『資格』はある」


 そう告げると同時に五人の若人にのしかかっていたものが消え去る。

 とはいえなおも彼の存在は世界を犯し、空間が歪み続けている居心地の悪さを彼らは感じ、体を自由に動かせないような感覚に襲われる。

 そのような空気を己が意志とは無関係に発している彼の声からは再び感情というものが消え去っていたのだが、それでも彼の心境に何らかの変化が会った事は、その佇まいから全員が察し、真上へと向けられる。


「っ」


 それとかち合わせるように真下を見下ろすガーディア・ガルフであるが、彼は突然大きく咳込み、口から溢れ出すものを右手で隠す。それは何度か続いた。


「……いいだろう。君達が私に挑む正式な挑戦者であるというのなら、約束をした者として、正々堂々と向き合い、待ち受けよう」


 かと思えば大半の者にとっては理解のできない単語を発し続け、虚空から何かを取りだす。


「我々が住処として使っていた場所へと続く『鍵』だ。受け取りたまえ」


 それが何であるか、出された当初彼らは理解できなかった。

 自宅に入るために使うような一般的なものでもなければカードキーのようなものでもなく、複雑な機構を携えた奇妙なものでもない。

 透明な球体の中に数多の虹色に輝く正方形を携えたそれをガーディア・ガルフは『鍵』と言いきり、自身に宣戦布告を行ったゼオスへと、無造作に投げ飛ばす。


「日取りは…………そうだな。三日だけ待とう」

「もし過ぎたら?」

「成すべきことを行う。つまり、この世界の浄化だ…………それにしても、少し雰囲気が変わったな原口積。なにかあったのかね?」


 それをゼオスが取りに行く傍らで積が挑発するような声色で語りかけると、ガーディア・ガルフはさも当然というような様子で答え、続いて意図せず彼らに情報を与えると、返事が返ってこない事を察知し息を吐き、


「まあいい。関係のない事だ。疲れてるのでね。少し休ませてもらう」


 そう言い残すと右手を真横に伸ばし、それだけでゼオスが使う『時空門』のような黒い空間を開き、その中に姿を隠す。


 それで終わりだ。


 存在するだけで乱していた周囲の空気が和らぎ、彼らに平穏が訪れる。


「ゼオス。今語ってた約束って?」

「……ゲゼル・グレアと神の座イグドラシルが行った誓いのようなものだ。それよりも」

「ああ。よくやってくれたゼオス君」


 自由に呼吸する事が可能になり、強張っていた体が動かせるようになった事で、いの一番に蒼野が全員が気になっていた問題に関して突っ込み、ゼオスがその概要を軽く語りながら振り返る。


 そこには凄まじい負傷を身に刻みながらも間違いなく生きているシュバルツ・シャークスがおり、


「ガーディア・ガルフの見間違えってことでいいのか?」

「だろうな。前々から異変は感じていたが、まさか私の生死を見誤るほどまで進行しているとは。素直に驚きだ」

「進行?」

「ああ。それについても説明しなくちゃいけないな。しかし、まず第一にしなければならない事が残っている」


 今の今まで微動だにする事ができなかった彼は、しかし僅かな休息を経て微量ながら蘇った力を振り絞ると、骨が見えるほどまで傷ついたが、なおも原形を残している左足に力を注ぎなんとか立ち上がり、かと思えば彼らの前で両膝をつき頭を垂れ、


「…………ゼオス君に至っては既に理解しているのだと思う。いやそもそも我々は敵同士だったんだ。厚かましいにもほどがある。それは自覚している。しかし! その上で恥を承知で頼みたい!」


 らしくもなく声と体を震わせ、向き合う若人達が聞き逃すことのないよう、大きく、ゆっくりとした物言いで、言葉を続く。


「頼む! 私の親友を助けてくれ! 私と一緒にあいつを救ってくれ!!」


 それは原口善の有無に関わらずギルド『ウォーグレン』に投げかけられた史上最大の依頼。


 かつてゲゼル・グレアとイグドラシル・フォーカスがガーディア・ガルフに誓った約束。


 すなわち、『果て越え』に至るための戦いへの道であった。





ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


さて、三章最後の戦いの始まりです。

最後のターゲットは『果て越え』ガーディア・ガルフ!

三章で出た敵は、三章で倒しちゃいましょう! という話です!


ただ正直な事を言えば、今回の話はどっちなのか困っている作者です。

というのも、

この話を三章の『最終章』として扱うのか、

それとも三章の『EXステージ』と捉えるかで困っているのです。


わけが分からないと思われているかもしれませんが、この辺の事情についてはまた次回以降で


一章から続く大きな物語、その一つの終わりをご覧ください


それではまた次回、ぜひご覧ください

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