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シュバルツ・シャークスVS四大勢力 一頁目


 舞台は整えられた。

 多数の足止めを可能とするアイリーン・プリンセスは子供たちの尽力により引き離し、無限に等しい戦力を呼びだす事ができるエヴァ・フォーネスはアイビス・フォーカスが引き離した。

 となれば子とこの状況において最大最強の敵の戦いに至るための障害はいなくなり、この世界の均衡を保ち続けた四つの勢力は、今揃えられる全ての戦力を目前の存在に注ぎこんだ。


「そうだな…………」


 四方八方を自身に敵意を向けられることになったシュバルツ・シャークス。

 戦士達は彼らの一挙一動どころか発する言葉にさえ気を配り、何らかの攻撃を発する前兆が見られた場合、すぐさま回避に至れるように意識を向ける。

 『反撃』や『防御』ではない。『回避』である。


(シャロウズさん。先に攻めますか)

(いや今は『見』だ。不用意な行動を取り頭数を失う事だけはしたくない)


 今までに見た事がない、何とも形容しがたい空気を全身から放つシュバルツ・シャークス。そんな彼が秘めたる力がどれほどのものであるか、わかるものはこの場にいない。

 ただ誰もが、他の誰かと会話することもなく、確信を抱いている事柄がある。

 

 それはシュバルツ・シャークスが放つ攻撃の直撃、それだけは絶対に避けなければならないということだ。


 インディーズ・リオの面々は一人一人が他者にはない個性を持っており、それを『強さ』としていかんなく発揮していた。


 メタルメテオは一度見た攻撃を完璧に記憶し対応する『自身が機械である』という特性。

 ギャン・ガイアは信じた存在のために全てを支えるという『妄信と執念』。

 シェンジェン・ノースパスはその年齢に似合わぬ戦闘力を持ち、その上で急速に成長する『才能』。

 ゴロレム・ヒュースベルトは高水準な万能性に加え敵側の情報を伝えるという『立場』。

 そしてヘルス・アラモードはその内に秘めた最凶の『人格』。


 現代組に至ってもこのように他の者にはない長所を備えており、千年前から蘇った四人に関しては、長所をはもちろんのこと、それを抜きにしても他を圧倒できるだけの強さを秘めていた。


 がしかし、道理を突き放す埒外の強さを秘めているとなれば、亡きガーディア・ガルフと今彼らの目の前にいるシュバルツ・シャークスに限られるだろう。


 彼の備える他の者にはない個性は『力』。

 大陸を引っ張り、星を一撃で砕いたという逸話さえ残している、怪力乱神という言葉さえ彼を表現するには物とありない、人類どころか一個人が所持する事を許されていない領域の剛力である。


 ともすれば一撃の威力だけならばガーディア・ガルフさえ容易に上回るものを彼は備えており、そうなれば対峙する猛者達がその点を最も警戒するのは当然と言えた。


「…………うん。そうだな」

「!」

「おや? おじさんに何か用かな?」


 そんな男がしばし沈黙を貫いた末に、右腕をゆっくりと持ちあげ人差し指を初老の男性に向ける。

 それだけの行為に幾人かが警戒の色を強くし、コンマ一秒すらかけず臨戦態勢に移行するが、指を刺された当の本人、すなわち神教のレイン・ダン・バファエロは飄々とした態度を崩さず、僅かに首を傾け自分を指差した男に問いを投げかける。


「この場にいる面々で一番付き合いが長いのは君だ。ついでに言えば一度分身体とはいえ敗北を喫したことがある」

「…………言われてみればそうだな。それで?」

「最初は誰を狙うべきか迷っていたのだが、過去の雪辱を晴らすための戦いとなればふさわしい始まりの気もする。だから最初に狙うのは君にするよ」


 この戦いが観客を交えての興業の類であったのならば、誰もが鼻で笑うだろう。

 『リターンマッチ』『雪辱戦』などと当の本人は語っているが、戦う前から挑む側の勝利が透けて見えるのだ。そのような名で行われるにはあまりにもふさわしくない戦いである。


(レイン殿)

(わかってるさ。出来るだけ時間を稼ぐ。そう言う意味では、おじさんが選ばれたのは幸運だ)


 しかし実際に戦場にいる物にとって、シュバルツ・シャークスが口にした情報は値千金の価値を持つ、

 誰が狙われるかわからない状況と比べれば今の状況は格段に良い。

 後はレインがどれだけ粘れるか、その援護をどれだけできるかがこの状況の継続に必須な判断で、その隙に攻撃をする立場に誰が立つかも重要だ。


「………さて」


 シュバルツ・シャークスが、背負っていた剣に右手の人差し指と中指をかける。


「「!!」」

「「っ」」


 その剣が抜かれる様子は未だなく、戦いの始まりを示す様に青い練気を纏う様子もない。腰をかがめているわけでもないので、先日見せた必殺の構えを披露したわけでもない。

 けれどたったそれだけの動作が惑星『ウルアーデ』の明日を賭け金にした戦いの始まりとなり、薬品の力により属性混濁の力を得たシロバと、狙われる立場のレインの二人が、光属性を混ぜた弾丸と刃を射出。

 千を遥かに超える数が一度に撃ちだされるそれを全て視界に収めシュバルツ・シャークスは一歩前進し、そのタイミングで倭都の雷膳が雷の槍を八発撃ち込みゆく手を遮り、足を止めたタイミングでクロバと壊鬼の二人が巨躯の怪物へと挟み撃ちを決行する。


「指示なしでこれとはな。歴戦の猛者とはこれほどのものか」


 その様子を透明化させた上で宙に浮かせたカメラで見ていたルイが、腕を組みながら感嘆の声をあげるが、当然と言えば当然だ。

 何せ今、リアルタイムで作戦を纏める立場にいる彼はなにも指示を出していない。

 同じ貴族衆出身であり、最後のアルファベットを背負う女傑ルーテシア・Z・アリクシアが作戦を提案しようと口を開いたが、彼らの動きはそれよりも遥かに早い。


 それは戦場に立つ豪傑たちが、同じ目的意識を持ったゆえに出来た行為。

 今この瞬間、普段は睨み合いを行う事で均衡を保ってきた四つの勢力は強大な敵の打倒のために本当の意味で手を取り合い、目の前にいるたった一人の相手を倒すことだけに専念し意識を向けている。

 そうなれば彼らは己を敵を倒すだけの歯車に切り替える事が可能で、優れた空間把握能力に事前に周知していた自分と味方の性能を即座に見比べ、全員が全員、最善最適と言える選択肢を選ぶことができたのだ。


「中々やる」


 無論だからといってこの超難敵をあっさりと倒せるわけではない。

 挟み撃ちの際に撃ちだされた鉄の金棒とmシュバルツ・シャークスさえ呑みこめるサイズの棘付きの鉄球は右手に持った剣の神器と左腕で掴まれ、金棒は持ち主ごと沈めるような勢いで地面に。鉄球は握力だけで容易に砕かれ、


「ふん!」


 その一動作に意識を向けている隙に、迷彩効果の練気を持っていたセブンスター第五位の李が彼の懐に潜り込むと心臓に拳を撃ち込み、


「あぁ。早めに来てくれてよかった」

「む!」

「君を待っていたんだよ。俺は」


 それが肌に触れそのまま心臓を抉るために突き進むかと思えば、シュバルツ・シャークスは既にその腕を掴んでいた。

 

「まずい!」

「この瞬間この展開! 全て奴の思い通りか!」


 その瞬間、その場にいる者達は背筋を凍らせ心臓を跳ね上げ、己が過ちを理解した。

 これまでもシュバルツ・シャークスは、有言実行を旨とする態度を取ってきた、これは間違いない。

 しかしだからといって今回もその通りであるなど断言できるはずがなかったのだ。


 それが最終決戦となる戦いであればなおさらで、誰もが目前の怪物が発する『気』という要素でさえ表しきれない佇まいに、自然と呑まれていたのだと自覚。


「ちぃ!」


 そんな中、一早く動いたのは実際に危機的状況に直面している李である。

 彼は一切の躊躇なく自身の右腕を左手の手刀で切り取ると勢いよく後退。

 周囲に意識を向けていたためシュバルツ・シャークスの攻撃は一手遅れ、三メートル近い長さの人斬り包丁が如き神器から放たれた斬撃は空振りに終わった。


「!」


 逆に言えば、空振りに終わった『だけ』である。

 その時生じた風圧は飛ぶ斬撃となり、真正面にいた李だけでなく周囲のものにまで効果を及ばせ吹き飛ばし、李は背後にいたレインに直撃。


「失礼だな」


 普段ならば羽織っているマントをどこかに置いたシュバルツ・シャークスは、黒いタンクトップから溢れている木の幹のように分厚い左腕に力を込め更に膨張させながら一歩前進し、目標へ腕が届く距離に到達。


「させるかぁ!」


 迫る最悪の事態を防ぐために多くの者が攻撃を行うが、シュバルツ・シャークスはそちらに視線を移すことなく、


「は、はぁ!?」

「馬鹿な! ありえん!!」

「『ありえない』、か。その言葉こそありえないと返させてもらおう。私が超えようとしていた相手はあの『果て越え』ガーディア・ガルフ。知覚できない攻撃の数々を撃ち込む男だぞ? 

 であれば、この程度の事はできて当たり前だ」


 体に突き刺さったあらゆる攻撃が、物理的なものは鍛え抜かれた筋肉の壁に阻まれ、様々な効果は耐性の前にねじ伏せられる。


「二人とも!」


 せめて身を守るための盾だけでも。

 そう考え幾人かが様々な属性の粒子を圧縮した盾を展開し振り上げられた左腕の先にある拳と肉体の間に挟み込み、


「ふん!」


 しかしそれらの抵抗を鬼神と呼ばれた男は容易に砕く。


「あ…………」

「っ!」


 彼らのいる屋上が大きく揺れる。

 人類史上最大最強の膂力に晒されたそこは、しかし驚いたことにヒビ一つ刻む事なく健在であり、けれど床越しに伝わる衝撃だけで、今しがた振り下ろされた拳が、どれほど凶悪な威力を秘めているかを知らしめ、


 その下には腹部にあたる部分をごっそり失い、血と臓物を巻き散らしながら意識を失う二人の猛者の姿があった。


「ふむ。リターンマッチ成功だな」


 それほどの一撃をさしたる準備もなく無造作に撃ち込んだ当の本人はといえば、頬にどす黒い赤を付着させながらも、感慨など全く湧いていない様子でそう告げた。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


少々迷いましたがVSシュバルツ・シャークスの開幕です。


今回の話でガーディア殿とシュバ公は別格であると説明されましたが、二人の強さには別の意味合いを持たせています。


ガーディア殿は出るたびに『加減しろ馬鹿ッ!」と思わせるような強さを目指し、

シュバ公は出るたびに『あれ? お前思ったよりも強くね?』と思わせるように立ちまわせているつもりです。


次回はそんなシュバ公の更なる真価発揮回。これまでも色々とやってきた彼ですが、見せた事がない姿を披露できるのではないかと思います。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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