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セメント


 老いることなく死すこともない。すなわち不老不死とは、多くの者が思い浮かべる夢として代表的な者だろう。

 夢想を謳う戦士や長寿族と呼ばれる人間が蔓延るここ『ウルアーデ』においてもそれは変わりなく、とすればそれを体現させた者を見つけたとなれば、血眼で追い求め、そのような形に至った経緯や肉体を調べるのは当然であると言える。


 無論それはエヴァ・フォーネスにも当てはまり、今でこそ神教第一位の座に収まっているアイビス・フォーカスといえど、例外にはなりえず、千年前に神の座イグドラシルに拾われるまでの彼女も同じような経験をしているのは容易に想像することが可能で、


「久々の出陣よ。征きなさい」


 エヴァ・フォーネスと同じ形式、つまり自身の手を穢すことなく外敵を退ける方法を手に入れていないわけがないのだ。


「行けぇ!」


 対峙する少女の形をした吸血姫にとって、それは想定外の事実であった。けれど繰り出す指示に変化があるわけもなく、敵対者と比較して荒々しい声で指示を出し指差すその姿に、魔の物達は従い動き出す。


 そうして始まるのは両者が繰りだした戦力同士の衝突だ。

 エヴァ・フォーネスに従う醜悪なるも勇敢かつ忠実な兵と、アイビス・フォーカスに呼ばれた、久々の戦闘に悦を覚える妖精たちが衝突する。


「oooooooooooo!!」

「――――――!!」


 森を突き破り肉体を晒した巨大な岩石の兵達は相対する武具を纏った巨人とぶつかり、森と草原を駆ける三つ首の魔犬は角と翼を生やした青い天馬と衝突する。

 月明かりが照らす夜空には血をすすり肉を咀嚼する魔の虫が群れを成して動き回り、同じ大きさの光輝く妖精の軍団が、それを撃退するように魔方陣を展開する。


「あと三つ。こうなる事を予期して、もっと作っておくべきだったわ」


 それらの戦いは多少の優勢劣勢こそあれどどこも決め手には欠けており、それを見届けながらアイビス・フォーカスは手にしていた虹色の宝石を噛み砕き内部に溜めていた粒子を補充。


 真っ赤なツリ目で自分を睨みつける敵対者を一瞥すると、それだけで小さな肉体が強烈な炎で包まれ、それを見届けたところで全身に雷に鋼、それに土に光属性の粒子を巡らせ肉体を強化。

 康太が神器『天弓兵装』を用いる事でやっとできる領域のレベルの領域を瞬く間に行うと、一呼吸のうちに距離を詰め、


「馬鹿が! 私の夫はあのガーディア・ガルフだぞ! こんなもんが効くかぁ!!」


 貧弱な炎など相手ではないと言いきる吸血鬼が姿を現し、アイビス・フォーカスの腕を振り払う。


「悪いけど、そんな乱雑な一撃は喰らわないわ」


 その一撃は先程までのアイビス・フォーカスならば単純な身体能力の差が原因で受け止め切れなかっただろう。

 けれど肉体強化を施した今の彼女ならばそれを防いだり弾くのは容易で、それどころか振り抜かれた腕をしっかりと掴み、現状を明確に示す。


「…………何を威張り散らかしてやがるクソババア」

「え?」


 がしかし、そんな彼女の体は宙に浮き大きく回転したかと思えば地面に叩きつけられ、


「あぐっ!?」

「お前さんは原口善の師匠だか何だか言って胸を張ってたがな、それなら私はあの木偶の棒のスパークリング相手だぞ? その程度で」


 幼くも美しい顔には不思議と似合う憤怒の表情を浮かべ、躊躇なく首の骨を踏み砕く。


「調子に乗るんじゃあない!」


 レオン・マクドウェルや原口善、それにクロバ・H・ガンクのような歴戦の猛者にして最前線で戦う戦士ならば話は違うが、アイビス・フォーカスは後方から一方的に相手を殲滅する類の者である。

 先に述べたものならば半身を失おうと首の骨を折られようと、埒外の精神力で意識を失わず、それこそ痛みさえ彼方に放り投げ動き敵対者に襲い掛かる事ができるが、彼女はその類ではない。

 鼻から血を垂れ流し瞳を明後日の方角に彼女は向けてしまい、一瞬、けれどあまりにも明確な隙を晒した彼女の腹を、両腕両足を、エヴァ・フォーネスは次々と踏み抜き肉塊へと変貌させ、


「クソガキが。調子に乗るな」

「がっ!?」


 そこで目を覚ましたアイビス・フォーカスが普段は絶対に出さないようなドスの利いた声を発すると地面を再生させた右腕で叩き、それに呼応し地面から生えた鋭く巨大な氷柱が、エヴァ・フォーネスの胴体を易々と貫通させ持ちあげ、


「あんたのその小奇麗なツラが」

「っ!?」

「あたしは気に入らないのよ」


 その隙に全身を再生させた彼女は飛びあがり人形のような美しい顔に自身の右膝を撃ち込むと、反撃として伸ばされた腕を雷属性の反射神経と鋼属性の硬度を利用した手刀で斬り落とし、氷柱を抜き取り腹の穴が再生するよりも早く、お返しとばかりに凍った地面に叩きつける。


「燃えなさい」

「!」


 その後右掌から出した炎で彼女の全身と氷を溶かすと、そのまま少女の首を絞めた状態で川底に抑えつけ、余っている左腕で術式を組み、それを躊躇なくぶつける。

 するとエヴァ・フォーネスを中心に置き五色の鎖が円を描きその身を内部に閉じ込め始めるが、


「まぁ封印が妥当だわな。だが解せんな」

「…………っ」

「お前本当に、この程度の封印術で私を封印できると思ったのか?」


 それは収縮し球体になるかと思えば瞬く間に膨張し、その奥から全身の傷を治し服の汚れを落とす余裕まで見せつける敵対者の姿が現れた。


「この程度ってあんたねぇ」


 無詠唱で行った封印術ではあるが、それはアイビス・フォーカスが使った故の結果である。

 通常の術者ならば発動までに数分の集中を要するそれは、封印術の中でも高位なもので、それを平然と砕かれたとなれば、さしもの神教最強も呆れた声を上げざる得ない。


「ま、文句を言ってても仕方がないわよね」


 とはいえ強烈な憎悪を抱く彼女がこの程度で諦めるわけがない。むしろまだ動けることに感謝さえ抱く。

 なぜなら彼女は今、全体を考え封印術による無力化を図り、けれど失敗した。

 となればさしたる隙を作れぬ以上最高難度の封印術を展開する暇などあるわけもなく、物理的に抑えるのが最良の手段となる。

 ならば取るべき手段は自然と狭まる。


「ま、感謝しとくわ。これならあんたをいたぶり続けても文句は言われない!」

「ほざけクソババア!!」


 無限の粒子を備えていない現状得意の中・遠距離戦を存分に行う事はできず、しかも相手が自分と同じ不死である上に自分と同じく中・遠距離戦を得意としているならば、この状況でその領域に足を運ぶのは危険すぎる。

 

「ふん!」

「んがぁ!」


 その上で派手な技の数々と比べれば肉体強化は粒子の放出が少なく、となればそれを選ぶのは適切な選択である。相手も自分と同じくその領域に対しては少々ながら不得手であるならばなおさら良い。


「人の顔を何度も何度も砕きおって!!」

「あらごめんなさい! あんたの高慢ちきな面が、醜く歪むのは何度見てもスカッとするの!」

「性悪が!」

「人の事言えるのあんた! 死ね! 死になさいよ!!」

「ふざけるなバーカ! お前が死ね!」


 であれば、肉抉り骨砕くことで自身の内に宿った感情を存分に吐き出せる肉弾戦を仕掛けることに躊躇はなく、聞くに堪えずできもしない罵詈雑言を吐き出しながら、二人の女が慣れない肉弾戦を仕掛け続ける。


「っ!」

「ハハッ。ついてくるのが限界か? ババアは家で茶でもすすってろ!」

「さっきからババアババアって! そりゃあたしと比較したら誰だってそうだろうけど!」


 とはいえ彼女らが超一流の粒子の使い手である事には変わりはない。

 肉体を様々な属性で強化した両者は、一呼吸の間に凍った河川を抜け崖を登り、使い魔たちが暴れる森林を駆けながら行われる肉弾戦はそれを苦手分野としている者の動きとは微塵も思えず、


「それなら!」

「ぐっおぁっ!」

「少しは労わりなさいよクソガキがぁ!」


 手足に様々な術式を織り交ぜ、時には歯や頭さえ用い敵の体を痛めつけ砕くことに専念した彼女らは、狂気に呑み込まれていると言っても過言ではなかった。


「く、クソババアァァァァ!」

「そうそう。そうやって目上の人には頭を低くするものよ。あんたみたいな悪ガキは、そのままずーと這いつくばっていなさいな。その方があたしは嬉しいから!」


 頭部の右半分に両足を失い、体を持ちあげようと両手を地面に付けたところで両腕を圧縮した鋼鉄の刃で斬り落とされ這いつくばるエヴァ・フォーネス。

 それを上機嫌な声を上げ見上げるアイビス・フォーカスはといえば、左半身の腰から上を失っており、その上で左足と左の目も粉々に砕かれ、口からは粘性の血を吐き出していた。


「ぼほぉ!?」


 それが地面に滴り落ちるわけなのだが、地面の色を変えるという事は一切ない。

 既に彼女らの周辺は全身から吹き出したおびただしい量の血と臓物で赤黒く変色していたからだ。


「クソ! クソクソクソクソォ!!」

「同じことばかり呟くなんて。痴呆なんじゃないのぉ?」


 そんな場所で負の感情を支えに相手を侮辱し凌辱する事に専念する彼女らは、気が狂っているとしか形容できなかった。


「あ~それにしても痛いわねぇ…………」

「…………なんだそりゃ。降伏宣言か? ならその頭を粉々に砕かせろ。そうすりゃそのよくしゃべる口も消え去って気が晴れる」

「すぐに直すけどね」

「そりゃそうだ!」


 月が、二人を照らす。

 目を奪われる美しい容姿をした二人の美女は、けれど今この場においてのみ理性のない畜生さえ近寄りがたき空気を発し、自分たちがそんな風になっていることなど気にする様子もなく暴れ続ける。


 愛する人を奪われた事をきっかけとした復讐。

 それが終わりを迎えるのはまだ先のことである。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


書きたいことを短い間に結構かけてスッキリ。

前もちょっと語りましたが血と臓物を撒き散らせながら戦わせるのは他のキャラだと中々難しいので、こういうはすごく楽しいです。


さてそんな二人の戦いはここでいったん休止。

次回どちらサイドを書くかは、ちょっと今のところ語れないですね。正直どっちにしようか迷ってる感じです


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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