エヴァ・フォーネスVSアイビス・フォーカス 三頁目
それに気がついたのは偶然だ。
何らかの前兆があったわけでもなければ、エヴァ・フォーネス自身がそう察せる様子を示したわけでもない。
ただ家族である二人が死んで少ししたとき、アイビス・フォーカスはふと思ったのだ。
あの子憎たらしいエヴァ・フォーネスも、自分と同じ気持ちではないかと。
同じように定命を持たぬ存在で、粒子の扱いに長け、ある時理解者や愛する人を得た。
そして同じように失い、復讐する相手も亡くなった。
ここまで自分と被った運命を辿った彼女ならば、自分が抱いているのと同じような、吐き出す先のない様々な負の感情を胸の中に蓄積しているのではないかと、そんな考えが彼女の頭によぎったのだ。
その疑念は短い時間の中で急速に膨れ上がり、それを確かめたいと強く願った。
それゆえ彼女はシュバルツ・シャークスとの最終決戦の場にいない事を選び、エヴァ・フォーネスの足止めを買って出た。
普段ならばこの行為は暴挙と指差される類のものであるが、この時の彼女には最大の強みである不死性は存在しないため反論はなく、「不便な体になってしまった」などと我が身を嘆いていた彼女も、この時だけはおかしな話だがシュバルツ・シャークスに感謝した。
「ぐ、あ、はぁ!?」
「当たり前だけど生きてるわよね。致命傷なんてあるはずもないし、気絶にも遠いわよね?」
当日になり彼女は作戦通りに動き、転送門に引きずられ戦場に移動した。
その際すぐにはエヴァ・フォーネスの姿が瞳に映らなかったため落胆の意を示したが、光属性を用いた横やりで彼女から一対一を望み、その上で彼女が自分の思うままの事を口にしたとき、表面には出さなかったがこれ以上ないくらい歓喜した。
「おまっ!」
「中途半端なところで気絶しないでね。でないとあたしも気が晴れないもの」
同じ思いを抱いた存在が相手ならば、一切の躊躇なく、自分の胸の内にある悪心をぶつけられると思ったからだ。
「――――!」
「ふん!」
エヴァ・フォーネスが体を完全に再生しきるよりも遥かに左手人差し指だけで喉を抉り、人形のような肌と美しさを兼ね備えた顔を右の拳で殴りつける。
一度目二度目は鼻先を。三度目は生えている歯ごと砕くように下顎を。
何の躊躇もなく、全力全開で殴りつける。
「そんな、程度で! 今のあたしが止まると思ってるの!?」
「ぎぃ、あぁぁぁぁぁぁ!?」
そのタイミングで反撃の一撃がエネルギーの塊として右脇腹を抉り口から血の塊が垂れ流されるが、一切怯まず四発目を右の瞳に叩きこんだアイビス・フォーカスは、その状態のまま人差し指を伸ばし真っ赤なルビーのような眼球を潰し、エヴァ・フォーネスが砕けた顎を無理矢理動かし悲鳴を上げる。
しかしそれを聞いても先程のエヴァ・フォーネス同様醜悪で邪悪な笑みを浮かべるアイビス・フォーカスが手を止めるわけもなく、更に一歩前に進むと再生しかけた腹部に自らの右足を突っ込もうと持ちあげ、
「!」
「調子にのんなぁぁぁぁ!!」
しかしそのタイミングで右足が太ももの辺りから吹き飛び、僅かに目を丸くしたアイビス・フォーカスの頭部を、今度はエヴァ・フォーネスが掴む。
「下らん抵抗をしおってからに!」
これに抵抗するためにアイビス・フォーカスが動かした右腕には、聞く者の心臓を握るかのような不快音を発するチェーンソーが握られていたのだが、その腕を左腕の裏拳で潰したエヴァ・フォーネスはそのまま砕けた右腕を左手で掴み、躊躇なく引き抜き投げ捨てる。
「~~~~~~!!」
とすれば今度は声にならない叫びをアイビス・フォーカスがあげる番で、痛みから反射的に体を大きく痙攣させた隙に、左の肩と首元を吸血鬼特有の万力のような力で掴むと、そのまま縦に真っ二つになるよう引き裂いた。
「無様! 無様だな!!」
長きにわたり世界最強の座を守り抜いた女の無残な姿に、完全に回復したエヴァ・フォーネスは腹を抱えて笑う。
そうしていると彼女の全身からは無数の鋼の棘が瞬時に突き出し、
「あら? 笑わないの?」
それまで上げていた嘲笑がピタリと止んだのをはっきりと捉え、瞬く間に体の癒着を済ませたアイビス・フォーカスが可愛げに首を傾け、
「こ、のぉ!」
「ごめんなさいね。あたしね、すっごく手癖が悪いの!!」
エヴァ・フォーネスが反撃しようと腕を巨大な魔獣のものに変貌させて掴み上げようとすると、いつの間にか握っていた簡素な鉄パイプで対峙する少女の頭部を渾身の力で殴り飛ばし、
「じゃ、次は串刺しの刑ね」
脳に響く衝撃から、呆けた様子で口から血の泡を吐くエヴァ・フォーネス。
するとアイビス・フォーカスは彼女が蓄えている美しい金の長髪をしっかりと掴むと勢いよく引き、持っていた鉄パイプの先端部を鋭利なものに変貌させ、口腔から突き刺し尻の穴までまっすぐ通してやろうと振り下ろし、、
「調子にのんなクソババア!!」
しかしそれは、己が口に入る目前に自身の脳の損傷を再生させたエヴァ・フォーネスが鋭利な歯で噛み砕き、返す刀で目前の美女の豊満な乳房を腕の一払いで斬り取り、痛みで顔を歪めるアイビス・フォーカスの胴体をヘソを起点に真っ黒な斬撃で真っ二つに両断。
下半身を掌から出した紅蓮の炎で塵一つ残さないよう燃やし、両腕も睨みつけるだけで同様の炎を起こし焼却。
「そこまでよ」
「!」
残った胴体と首を延々となぶり尽くしてやろうと考えたエヴァ・フォーネスは、しかし即座に再生した両手で阻まれ投げ飛ばされる。
「ちぃ! 面倒な奴だな貴様は。ならば攻め方を変えよう」
神教第一位という座についているとはいえ彼女の真骨頂は言うまでもなく粒子をふんだんに使った中・遠距離戦だ。
となれば不慣れな人体の投擲などで思うような結果を得る事ができるわけもなく、エヴァ・フォーネスは投げ飛ばされた直後に周囲の風属性粒子を操り空中で身を翻すと、右手の親指を噛む。
すると鋭い犬歯に噛まれたことで皮膚は破れ、滴り落ちた血が真下にある木に付着。
それだけの事で付着した木の周辺の空間が縦に避け、その奥から彼女が従えている醜悪な見た目の眷属が次々に現れる。
「数の暴力って奴だ。これで無力化した後にお前を使って憂さ晴らしをするとしよう」
レオンや幻灯のような戦いに誇りを求める輩ならば、このような手段に出る事に怒りを抱くだろう。
口達者なシロバや優なら、「仲間に頼らなければ戦えない小童」と煽るかもしれない。
ただそれらを聞いたところでエヴァ・フォーネスは激昂する事はあれど、手段は変えない。
彼女にも誇りや意地は存在するが、それらを遥かに上回るほどに目的至上主義なのだ。
となれば他の者達が引いたり卑怯と罵るような手段に出る事に対しても躊躇などあるはずもなく、
「本当にあなたと私はそっくりね」
その信条ゆえにアイビス・フォーカスは窮地に陥ったはずであるのだが、その落ち着きようは変わらない。僅かに目を細めため息を吐くと、首を左右に何度か振り、
「ねぇエヴァ・フォーネス。あたしや貴方みたいな不死者が、襲撃者に遭遇した際にうまく世間の目から逃れる最上の手段が何かわかる?」
「あ?」
「そいつらの相手をしない事。つまり他の奴らに任せちゃうことよ」
「!」
エヴァ・フォーネスと同じように右手親指の爪を噛み、血を垂らす。
それは地上に落ちることなくその場に留まると、アイビス・フォーカスの目の前の空間に真っ白な罅を刻み、
「本当に、貴方とあたしは似てるわね」
その空間の罅をかち割り出てきたのは、巨大な燃える腕。続いて鉄の肩当てを嵌めた肩に、浅黒い肉体。
それに合わせて割れた空間の隙間からは無数の真っ白な鳥が現れ、気がつけばアイビス・フォーカスを守るように数百の精霊が現れていた。
「じゃあ第二ラウンド。行っちゃいましょっか」
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です
エヴァ・フォーネス戦でやりたかったこと、やり始めております。
まぁ強力な自己再生能力持ちが二人揃ったら、こういうこと始めますよねという会
次回くらいまではこんな感じのノリで続けて行く事になると思います
ちなみにタイトルは『セメント』です
それではまた次回、ぜひご覧ください!




