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エヴァ・フォーネスVSアイビス・フォーカス 一頁目


「嘘偽りのない本心からいってやる。虐殺を止めろとシュバルツの野郎に言われた時点で、私がこの戦いに参加する意義は失われたんだ。それ以外の指示を出していいのはガーディアだけだしな!」

「あら! それなら! どうして! まだここにいるのかしら!」


 前後に分かれ二人の女戦士が雲一つない青空を舞う。

 前方側、すなわち追われる立場にいるのは、異能による不死性を失った絶世の美女アイビス・フォーカス。此度の装いは真っ赤な着物の上に紺色の半纏を羽織っているというもので、頭の根元から毛先へと向け赤から橙へと変化していく、腰まで伸ばしたポニーテールが風になびく様子は大勢の人々の視線を自然と惹きつける。

 それを追うのは幼い容姿をしたエヴァ・フォーネス。

 日の光を受け付けない真っ白な肌に月光を浴び輝きを増す金色の長髪を携えた、紅蓮の瞳を備えた猫のようなツリ目の少女は、生きた人間というよりは人形のような造形物を思わせる凄絶な美しさを備えていた。


「シュバルツの奴がある提案をしてきてな。それが気に入ったからこの場に残った!」

「提案?」

「そうだ!」


 雲一つない空を自由自在に飛びまわる両者の速度は光の域に達しており、アイビス・フォーカスを背後から追う立場にいるエヴァ・フォーネスが放つ様々な攻撃は全て、そんな敵対者を捉えられるだけの要素を備えていた。

 あるものは同じレベルの速度を。

 あるものは先回りすることによる待ち伏せを。

 あるものは障壁となり行く手を阻む役割を。

 どれもが何らかの役割を持ち、神教最強、けれどいまは墜ちた不死鳥となった彼女の邪魔をする。


「あいつは言ったよ「愛する人を殺された復讐をしたくはないのか」とな!」


 迫り来る攻撃全てに対しアイビス・フォーカスは的確な対応を行っていき、その様を見たエヴァ・フォーネスが怒りと歓喜がごちゃ混ぜになった、理性を溶かしきったような咆哮をあげる。

 瞬間、撃ちだしていた攻撃の勢いが増す。


「眉をひそめたよ。不快感を顕わにしたよ。だってそうだろ? 愛しくて愛しくて仕方がないあいつを殺したのは、クソッタレなお前の義弟デューク・フォーカスなんだ。けどあいつは死んだ! 

 だから復讐なんてできるわけないって言ってやったんだ。そしたらあいつ、なんて言ったのかわかるか?」


 アイビス・フォーカスが失っているのは不死性だけではない。異能による力。つまりこの惑星ウルアーデという星からの補助全般なのだ。

 その中には粒子の無限供給も含まれており、となれば今の大空を飛翔する彼女からは『永遠に粒子の放出を行える』という利点も消えている。


 無論彼女自身が元々持っている粒子の量も甚大なものだが、それでも普段通りに扱えるわけではない。限界が明確に存在するのだ。


「!」


 となれば今現在壁のように空一面に敷かれた炎と雷の弾幕を、常日頃のように全て撃ち落とすわけにはいかなかった。


「「お前の復讐は本人『一人』程度がいなくなっただけで気が済むのか。その一族を憎まないのか」だとさ!」


 人雷の攻撃の合間を必死にくぐり抜けるアイビス・フォーカス。

 撃ちだされる炎と雷の弾丸の音が耳を支配するが、それさえ貫く勢いがエヴァ・フォーネスの声にはあった。怨嗟と憎悪が、なんの補助もなしにそれを成し得た。


「笑っちまったよ! 温厚なあいつがそんな事を口にするなんて誰が思う!! 察してやることはできなかったが、あいつはあいつでよっぽど頭に来てたってことなんだろうなぁ!!」


 それでもエヴァ・フォーネスの声には快活さがあった。歓喜があった。その理由をアイビス・フォーカスは察する事ができた。


 そういう諸々の負の念全てを込めても、ここで憎んでいる相手を殺す悦には敵わないのだ。


「だからなぁ! 私は本当に嬉しかったぞアイビス・フォーカス! お前さんからわざわざ私の元を訪れてくれてなぁ! おかげで探す手間を省けて、存分にいたぶれる!!」


 そう語る彼女の両の掌に炎と雷の属性粒子が急速に溜まって行く。

 それは一呼吸する間に天地を貫くかのように巨大な円柱にまで成長し、真下を見下ろすエヴァ・フォーネスが手を離せば、目標へと狙いを定め――――落下する。

 無駄な足掻きをする弱者を罰する超越の存在の如く、厳かな表情を浮かべながらエヴァ・フォーネスはそれを成す。


「そうだったのね」

「あ?」


 がしかし、その攻撃は届かない。

 雷と炎、それらを超巨大に膨張した二つの柱が霧散する。

 それは赤と黄色の輝きを放つ鱗粉のようで、アイビス・フォーカスとその真下にある生い茂った森に降り注ぐ。


「これは私由来の力よ」


 そのただ中に居ながら、アイビス・フォーカスは袖口から拳よりも少々大きな正方体を取りだす。


「…………完全分解」

「あら。流石に知ってるのね」


 赤と黄色の二色で六つの面全てを埋めたそれを前にエヴァ・フォーネスの声色が変わる。害虫を見つめるような忌々しげな視線が顕わになる。


「じゃあ、こういうのはどうかしら?」


 そんな彼女へと向けアイビス・フォーカスは反撃する。

 周囲に散った炎と雷の粒子を瞬く間にまとめあげ圧縮し、固体として螺旋を作り、前に付き出す。


「なっ!」


 自身がつい先ほど放出した全ての粒子を固めて作られた殺意の塊。

 その凄まじさを彼女ほどの存在が推し量れぬわけもなく、慌てた様子で同僚の粒子を体内から放出。

 迫る殺意の先端部分が自身へと突き刺さる直前に相殺すると、これを成した忌々しい女の姿を見据えようと目を向け、


「ふっ!」

「!」


 振り抜かれた刃に反応しきれず、右腕を吹き飛ばした。


「善に近接戦闘を教えたのはゲゼルだけじゃない。わたしもよ」

「…………」

「で、一個質問があるんだけど、貴方、自分は不死だって言ったけど、今はそこまで強烈なのを備えてないでしょ? なにせ今は明け方。吸血鬼はおねんねの時間だものね」


 がしかし、アイビス・フォーカスの損傷は更にひどい。

 耐性があるため火傷やしびれこそなかったものの、物理的な形を持つまで圧縮された粒子は砕け散った破片となってもなお形を残しており、飛散した炎と雷の凶器は、彼女の脇腹や腹部。それに片目まで瞬く間に奪い去った。


「それに不死性がなくなったなくなったうるさいけど、そんなもの、予備があって当然じゃない」

 

 けれどアイビス・フォーカスの傷は癒えて行く。これまでの世界からの恩恵によるものではない。尾羽優が使う水属性による常時回復の力。それを数倍に研ぎ澄まされているものによって。


「なんにせよ胸を突く演説をありがと。じゃ、今度は私がおしゃべりさせていただこうかし…………」


 対するエヴァ・フォーネスの傷の治りと粒子の補充は遅い。これは夜空の恩恵を得る事ができないためであり、今の彼女は間違いなく不死で、無限の粒子を得てはいるものの、その恩恵を与えられるには時間がかかる状態だったのだ。


「く、フフフフ。ハハハハ…………あっはっはっはっは!」

「…………なにか?」

「いやな。おかしなことを宣うお前さんが可愛らしくてな!」


 しかし嗤う。吸血鬼の女王は嗤う。

 そこに込められているのは目前の存在に対する否定の念で、その意味を示す様に右手を掲げ指を鳴らす。すると


「今は夜だよ」

「は?」

「夜ならばここにあるではないか」


 世界が、変わる。

 太陽ではなく月が空に浮かび、一面の青広がる世界ではなく、黒と星々が埋める天幕が貼りつけられる。


 すなわちそれは、彼女の時間に他ならない。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


VSエヴァ・フォーネス始まり始まり

三章の対戦カードは結構決まってるところが多く、この戦いもその内の一つなのですが、色々ある戦いの中でも特にやりたかった決戦でした。

なにせこの二人ならではの戦いができる!


それが何かは次回あたりでうっすらとわかってくるかと思います

それではまた次回、ぜひご覧ください!

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