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聖女アイリーン・プリンセス 一頁目


 肉体を貫くような痛みを与えてくる光属性の球体を、エヴァ・フォーネスは受けて宙を舞う。

 本来ならば一笑とともにかき消せるはずのエネルギーの塊を残しているのは、この球体が彼女が望むべき場所に案内してくれるという予感があったからである。


「お前から私をわざわざ招待するとはな。どうした? 今になって立場の上下を理解したか? ならば次はもう少し穏やかな手段を取るべきだな。敬意もくそもあったもんじゃない」

「貴方と下らない雑談をするつもりはないわ」


 斯くして彼女達は相見える。

 神教最強の『個』、不死鳥の座アイビス・フォーカス

 吸血鬼の姫君にして粒子を極めし不死者エヴァ・フォーネス。


 雲一つ見当たらない空に浮かぶのは二人の『超越者』。

 両者の纏う気は最高潮を迎えており、すぐにでも攻撃が撃ちだせるように粒子を練り、


「「!」」


 息を合わせたようなタイミングで腕を掲げて狙いを定め、属性粒子を指先に収束。

 エヴァ・フォーネスの撃ちだした雷の線と、アイビス・フォーカスが撃ちだした水の線の先端がぶつかり、水と雷が虚空を舞う。


 ここまでの彼女達の姿に普段との違いは見られない。


「ふはっ」

「っ」


 ただし、ここからは違ってくるる。

 どちらかが飽きるまでこの勝負は永遠に続く。それが彼女らの戦いのはずであった。

 無尽蔵に粒子を使え、無限に補充する事ができる特性を備えた二人ならば、それは至極当然の事のはずであった。


 しかし今、エヴァ・フォーネスが歓喜の声を上げながら打ち出す雷の威力を増すと、アイビス・フォーカスが苦悶の表情を浮かべる。

 そして指先から撃ちだしている鋼鉄さえ斬り裂く勢いの水の刃の角度を変え、衝突するエヴァ・フォーネスの攻撃の軌道を自分から逸らし事なきを得る。


「下らん」


 エヴァ・フォーネスはそれにすぐさま対応する。

 撃ちあげられた攻撃の軌道を胸中で念じるだけで自在に操り、アイビス・フォーカスへと再び狙いを定める。

 それはアイビス・フォーカスの右肩を僅かに切り裂くのだが、そのタイミングでエヴァ・フォーネスの鳩尾を目に見えぬ空気の塊が襲い、彼女は口から涎を垂らしながら僅かに降下。


「ふんっ」


 しかしすぐに持ち前の再生能力で傷を癒し、痛みも消し去る。

 これは彼女にとって何らおかしなことではない。至って正常な事だ。


「…………」


 異常があるとすればアイビス・フォーカスの側。

 普段ならエヴァ・フォーネスと同じくすぐさま治るはずの傷は塞がらず、流れる赤が着ている紺色の半纏にその色を刻んでいく。


 その姿を見てエヴァ・フォーネスは嘲笑う。

 わかっていた結果ではあるが、それでもそうせざる得ないほどの歓喜があった。


「なぁアイビス・フォーカス。お前」

「…………」

「まだシュバルツの奴が刺した神器の効果が切れてないだろ?」




「ここが列車の屋内……ちょっと意外ね」


 一方のアイリーン・プリンセス。

 彼女は妨害などされることなく、思惑通りに軍用列車に飛び込んだ。

 ただ予定外の事がないかと言われればそうでもない。


「もうちょっと戦場らしく改造してると思ったんだけど」


 彼女が思っている以上に内部の変化が乏しかったのだ。

 今いる空間は広さこそ幾分か弄られていたものの基本の構造は何も変わっていなかった。

 社内には普段電車内で見るように一人掛けのシートが整然と並んでおり、壁の様子なども軍用の列車とは思えぬほどありきたりで平凡なものだ。

 更に言えば戦場となる空間が広くなったといってもそこまで派手なものではなく、細長く縦に伸びただけである。

 言ってしまえば、一車両分のはずの長さが、四、五車両分の長さに変わった程度の変化である。


「…………込められてる術式は入りやすく、出にくくする類のもの。まんまとおびき寄せられてしまったかしら?」


 もう一つ変化があるとすれば硬度の問題だ。

 これはアイリーン・プリンセスがこの列車内に飛び込んだ際に感じた違和感なのだが、彼女が触れたこの列車の走行は見た目に反し異様に柔い。

 シュバルツ・シャークスどころかエヴァ・フォーネスでも余裕で壊せるほどの硬度。というよりもゼリーのような柔らかさで、筋力面においては不安を抱える彼女の拳でも、障子に穴を開けるくらい簡単に天井部分を壊す事ができた。

 ただそれに反し中の硬度は外部とは比べ物にならないほど固く、彼女は自分が籠の中の鳥となった事を自覚した。


「アイリーン・プリンセス!」

「お出ましね」


 そこまで思考が届いたところで声が聞こえる。

 それは成人男性と比べればいくらか幼いもので、ここに控える面々が誰かをすぐさま露呈させる。


「蒼野君にシリウス君。それにゼオス君も居るのね。見たところ若手がここに来た相手を足止めするというところかしら? それならたぶん私が狙いね」


 大正解


 という言葉を彼らの内の数人が内心で呟き、しかしおくびにも出さず武器を構える。

 アイリーン・プリンセスはそれを見ても余裕の表情を崩すことなく、万物万象を迎撃するとでも言いたげな空気を放ちながら彼らの先手を待ち、


「どけお前ら!」

「え?」

「康太!?」


 そこで背後で控えるはずであった康太が現れた事に蒼野達は驚き、狙撃手として姿を現す事は滅多にないであろうと考えていたアイリーン・プリンセスも声をあげる。


 がしかし、驚きはこれだけでは終わらない。


「ぶち抜かれろ!!」

「ちょ、ちょっと待て康太! お前それ使ったらかなりまずいんじゃ!」

「嘘!?」


 康太が手にしている神器の銃に、内部で産み出した疑似銀河のエネルギーが一気に集約される。

 それは先の戦いで見せた彼の切り札。

 一度撃てば良くて片腕、悪くて全身の骨が粉々になるという巨大な反動を備えた最大最強の一撃。


 康太はそれを躊躇なく使う準備を行い、


「っ!」


 一瞬顔を歪める者ものの引き金を絞った。





ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


遅くなってしまい申し訳ありません。今日昨日と旅行中だったため、ちょっと書く余裕がなかったのです。

数時間とはいえ遅れてしまいました。


さて今回の話はエヴァを襲撃した人物の正体。そして彼女が抱えた致命的な弱点について

そしてアイリーン・プリンセス側の戦いの始まりです


タイトルはそんな彼女の異名と名前。

やや同時に進めるところはありますが、まずは足止めの達人たる彼女と雌雄を決する事になります


そんな中で不意打ち気味に撃ちだされた康太渾身の一撃


その行方はまた今度


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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