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レウ・A・ベルモンドの奮闘 三頁目


「おのれぇ。たかだか鉄の箱如きが私に逆らいやがって。度し難いぞ!」


 エヴァ・フォーネスが様々な箇所に現れている兵士や魔法陣の対処を行い、その片手間でレウが操る軍用列車の攻略を始めてから三分が経過した。

 彼女の当初の予定ではここまでが軍用列車に対処すると決めていたラインであり、これを上回られたゆえに彼女は血の涙を流した状態で怒りを募らせ、各所に現れる兵士や魔法陣に向ける攻撃の手が、感情に左右され荒々しく、それと比例するように高威力のものに変化する。


「あら? 収穫はなにもなし?」


 遠方から飛来した攻撃を、手の甲で弾きながら問いかけるアイリーン・プリンセス。


「ないわけではない。少なくともあの車両は自動操作の類ではないな。間違いなく誰かが運転しているものだ。まあそれが誰の手によるものなのかまでは分からんのだがな」

「それはまた。貴方の追跡をくぐり抜けるだけの腕の操縦者がいたのね」


 今のエヴァ・フォーネスはその姿相応の性格と子供っぽさを兼ね備えた存在だが、だからといって馬鹿なわけではなく、備えている知識が狭まったわけではない。

 あらゆる粒子術や能力を用いた操縦というものは『その時々に合わせ最良の動きをする』類であることくらいは覚えており、それを理解しているためその習性を利用し、逃げ場のない蟻地獄に追い込むような攻撃を繰り広げていたのだ。

 そんな彼女の行動に対して、軍用列車は時に想定を超えた凄まじい動きを見せ、時に最良とは言えない一手を打つこともあった。

 これは機械では実現できぬ領域の動きであり、であればこそエヴァ・フォーネスが顔を歪める原因となる。


「…………腹立たしいな」


 そのような手合いが相手となれば、いかにあらゆる術技を極めた彼女とて、意識のごく一部だけを使い対処するのは困難を極めるのだ。

 無論超広範囲を覆うような一撃を用いるのであれば話は変わってくるのだが、それではわざわざ手間暇かけてまでこのような戦場を用意した意味がなくなってしまう。

 ならば屈辱ではあるがアイリーンを頼るべきか?


「そういえばまだ準備運動をしていなかったな」


 シュバルツ・シャークスがそのような事を言いだしながら立ち上がったのは、彼女がそのような考えに至ったタイミングで、椅子から離れ円卓を横切りやってきた彼が、魔法陣に魔獣や敵兵の攻撃が飛び交う真下の戦場を見渡せる位置に移動すると、エヴァ・フォーネスが顔色を変えた。


「シュ!」

「この戦場が私のために用意してくれた特別性な事は分かっている。がまあしかしだ、お前が憂いているような事にはならん」


 慌てて言葉を発する友の声を遮り、シュバルツ・シャークスが背負った大剣を抜く。

 彼を彼たらしめんとするそれは、主の様子とは真逆に普段通りの姿を晒し、太陽の光に照らされながら、生き物のように這う青い練気が刃を包み、


「ようは、周りへの被害を最小に抑えられればいい」


 ガーディア・ガルフに似た、感情を読ませることのない平坦で熱の籠っていない声を発しながら、さほど慌てた様子もなく、剣先の照準を米粒以下の大きさの軍用列車に定め、


「このように!」


 力強い雄叫びと共に前へ突き出せば、纏われていた練気と凄まじい勢いの衝撃波が、子供たちに対し撃ちだされた。




「お、おぉぉぉぉぉ!!」


 迫り来る脅威を前にレウは声をあげる。

 康太が迅速に気がついたため回避は間に合う。続く第二第三の攻撃も躱せる自信はある。

 しかしそれまでの妨害とは文字通り桁の違う純粋な暴力の塊が迫っているという事実。その脅威をモニター越しでも彼ははっきりと察し、瞬く間に彼の精神を削って行った。


「お、おいおいおいおい!」

「奴は化物か…………いや、シュバルツ・シャークスはその類だったな!」


 攻撃が当たった箇所の地面が深く抉られ、地表を削るにとどまらず大地を繰りぬき、海水が大地を侵食するという結果に至る。そのため青い練気を纏った衝撃波が地面に届くたびに、天へと向け水柱が伸びて行き、後方車両に居る面々はその瞬間を目にするたびに、自分たちに攻撃が届いた場合を想像してしまい、生唾を飲んでしまう。


「く、クソ!」

「あん? どうしたルイ?」


 そんな中、最初に事態が悪い方向に進展した事に気がついたのは、運転手であるレウであった。


「行く手を防がれてる!」


 先に撃ちだされた青い練気を纏った刺突が消えず、彼らの進む道に物理的な壁として立ちはだかっているのだ。それを前にしてレウは急な方向転換を行おうと思い、少々速度を緩めるためにブレーキを踏むのだが、


「馬鹿! スピードを緩めるな!」

「っ!」

 

 隣に立つゲイルの叫びを聞き、自身の失態に気がついた。


「あぁ!」


 今彼が相手にしていたのは、『果て越え』の真下に座する最強の『超越者』である。

 秒間攻撃回数は一万を優に超える正真正銘の化け物で、こちらが一瞬でも速度を緩めればその隙を突き、自分たちを完封するだけの行為が可能なのだ。


「逃げ場が!?」


 それを示す様に彼らの乗る軍用列車の四方八方を同様の青い練気を纏った巨大な刺突が突き刺さり、壁として彼らの行く手を阻んだ。

 こうなればこの場から脱出するために『物質のすり抜け』に関する能力を使うのも致し方がないとレウが思い、危機的状況から逃れるため、躊躇なくスイッチを押しながら前進。


「に、逃げられない!?」


 しかし彼の予想に反し効果は発揮されず、それどころか纏っていた能力の類が全てガラスを砕くような音を立てながら霧散した。


「恐らくあの青い練気に何か仕込んでるんだろ。奴さんならその程度お茶の子さいさいだ!」


 ゲイルの語気が強く、喋る速度が加速していく。最後の辺りに至っては、長い付き合いであり、その手のクセについても把握しているレウでさえ完璧には聞き取れない速度だ。

 それが自分たちの前に迫った危機の規模であると理解するとレウの額から汗が溢れる。今更ながら、自分がどれほど危険な戦場に立っているのかという事を自覚する。


「ここまでだな」

「こ、康太」

「オレの神器で突破する。オレの居場所がばれるのは結構な痛手だが、全滅よりは百万倍マシだ。アイリーン・プリンセスについては…………エヴァ・フォーネスが周囲の掃討を行ってるなら来るだろ。奴らの弱点は人員不足なんだからな」


 康太の判断は間違ってはいない。

 抵抗の意志を示さなければ全滅という状況ならば、至極当然の一手である。

 けれどこの作戦を百パーセント達成したいレウは抵抗するように手を伸ばし、入口から出て行こうとする友人の方に触れようとし、


「いや康太。お前が出る必要はねぇ」

「なに?」

「え?」


 その手を掴んだ積が、代わり康太の肩を掴みながら語りだし、


「この窮地は俺の力で乗り超える」


 普段の彼ならば絶対にしないであろう堂々とした口ぶりでそう言いきった。




「あれは」

「なんだと!?」


 その数秒後、シュバルツ・シャークスやエヴァ・フォーネスが見守る中で軍用列車を囲っていた前方の壁が砕け、直前にシュバルツ・シャークスが撃ちだしたルイン=アラモードの砲撃と同等かそれ以上の威力の三日月型の衝撃波を貫き、


「ほう」


 残っていた鋼色の極太光線の余波が、轟音を立てながら空へと昇り、天上にて待ち構えるシュバルツ・シャークスの頬を浅くだが傷つけた。


「アイリーン」

「ええ。万全の構えで行くわ」


 それを見て聖女と称された『超越者』が動き出す。

 流星の如く。

 彼らに迫る。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


レウの頑張り物語その三。といっても今回は『やっぱりシュバルツ・シャークスは他二人よりも格上扱いなのね』という話です。

まぁこれまでの戦歴を振り返れば、彼はガーディア・ガルフ以上のものを叩き出してるわけで、そりゃ特別強い扱いにもなりますわという話です。


そして今回の話の最後には積が普段ならば決してしない提案を行い、その成果を発揮します。

この辺に関しては次回で。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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