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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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作戦会議は神の膝の上にて


「まあとりあえず、ご苦労さん。そっちは大分大変だったみたいだな」


蒼野が目を覚まし少しの間を置いた後、善が話を始める。

蒼野に康太、優に聖野の四人が置いてあった椅子に腰かけ、アイビスは自分で置いてあったものと同じ革張りの椅子を作りだしそこに座った。


「さて、決まったこととこれからの事の両方があるが……まあ決まったことから話すか」


 背後にある壁に背を預けた善がポケットから花火を取り出し咥えようとするが、禁煙の張り紙を確認しアイビスも嫌な顔をしているのを目にして懐にしまう。

 

「まず体調を崩してたヒュンレイの方だが、この件について訪ねたのが実はそこにいるあね……アイビス・フォーカスでな。お前らの方に言ってたせいでちとめんどい事になったが、まあ薬はしっかり用意してあったんで何とかなった。ただまあ、一度見てもらいとは思うんだが、どうだ?」

「いいわよー。受けた仕事はしっかりするわ」

「そうか、そりゃ助かる。んで、もう一つの件についてだが」


 二つ返事で言葉を返すアイビスに慣れた様子で礼を言い、もう一つの話題に触れる。


「蒼野を襲う暗殺者ゼオス・ハザードについてだが、この護衛を複数人で行う」

「複数人? 善さんとお姉さま、それにアタシ達残りの面々……くらいに分けるってこと?」

「いや違う。面々については俺とアイビス・フォーカスは確定してるがお前らは護衛役には基本的にはならない」

「どういう事ッスか」


 善の言葉を不審に思い首を傾げ尋ねる康太。


「俺やアイビス・フォーカスが」

「んもう! そんな固い言い方じゃなくて、昔みたいにお姉ちゃんって呼んでよ!」


 するとそれに真面目な様子で答えようとする善に対し彼女は茶々を入れ、場の空気に合わないおちゃらけた様子を前にして善の額に青筋が浮かんだ。


「んな風には一度たりとも呼んだことがねぇよ! 姉貴だろ姉貴!」

「そうそう、この子ったらホントはあたしの事を姉貴って呼んでくれるのよ。可愛いわよねー」

「っ…………まあいい。話を戻すが、護衛役が蒼野を守っている間、手が空いた奴はゼオス・ハザードのアジトやら行動範囲を調べてもらう」

「ちぃ!」


 自分が釣られた事を自覚し舌打ちをする善。

 そんな様子を見て彼女はコロコロと笑い、その光景を見ていた善の部下たちは思わず唖然としてしまった。


「えーとですね、オレ達は蒼野を放っておけってことですか?」

「そうじゃなくてアタシ達が守りについても危ないってことよクソ猿」

「……反論の余地もねぇな」


 本来ならば渾身の力で叩かれた机が、音を立てて崩れ落ちるほどの激情に支配されているはずの康太であったが、その前に見た茶番を前に毒気を抜かれ、然程苛立った様子もなく善の指示に了承。

 その光景を珍しいものを見たというような光景で蒼野が見ていると、偶然視界に入ったアイビス・フォーカスが自分に向けてウインクをしていた。


「まあ蒼野を見張る態勢はこれで確定として、大前提を話す。

 今回の件はゼオス・ハザードを捕まえない限り終わらないミッションだ。だがあの野郎は空間移動能力をもってやがるから面倒だ。奴の逃げ場を奪っていくためにも、普段生活するために利用する拠点となる場所を奴に悟られず見つけて、先手を打つ。これが今回の最優先課題だ」

「要は、護衛するだけが蒼野を守る手段じゃない。康太や優、それに俺にも、役割はあるってことですね」


 聖野の発言に頷く善。

 それを聞いた康太は、そこである違和感に気がついた。


「待て聖野、『俺にも』だと?」


 そのまま聖野に気になった点を聞き返す康太。


「今回の件は、最初の襲撃の際に捕まえられればこんな面倒ごとにならなかったんだ。その責任の一端は俺にもあるし、このまま負けて終わりなんて悔しい。だから俺も協力する」

「そうか……助かる」


 その返事として告げられた聖野の言葉に康太は素直に礼を言い、自分に対しては決して見せないであろうその態度を見て、優は不満げに鼻を鳴らした。


「それで、守られている間、俺はどう動くことになるんですか。あんまり監禁とかはしないでほしいんですけど」


 その後話の中に入っていなかった自分の動きに対し尋ねる蒼野。


「基本的にあんま動きに制限しねぇよ。ただ、まあ目の届かない距離に離れられたり、人気のない場所にいると困るくらいか」

「わかりました」

「そうか。うし、なら他に質問はあるか?」


 そうして一度善が全員に確認を取ると、誰一人として反論せず、なおかつ批判もなかった。


「さてまあ、今回のミッションについてまとめるぞ。まず第一に康太に優、それに暇があれば聖野がゼオス・ハザードの拠点を見つける。もちろん、数は多けりゃ多いほどいい」

「その一方で俺と姉貴は蒼野の護衛。姉貴に仕事があれば俺が護衛を。姉貴に余裕があれば、俺も康太達同様ゼオス・ハザード探しだ」


 その言葉に、アイビスを含めた全員が頷くが、善は表情を崩さず思案する。


「なにか不安でも?」

「ああ。ゼオス・ハザードの空間移動、そのカラクリを知っておければ、色々対策のしようがあるんだがな」


 腕を組み当面における最大の悩みを頬杖を書きながらぼんやりと告げる善。


「ここに来る前にあんたに話したけど、あの子が持ってるのは恐らく希少能力の類ね。あれだけ展開が早い通常能力は知らないし、それにあたしの粉が通用しなかった」

「粉……ッスか?」

「そうよ。でもまあそれは次の機会に」

「…………」


 アイビスと康太が話す中、先日ゼオス・ハザードと戦った善が多少気にしていたのは、あの時の戦いで聖野の声が聞こえてきた方角だ。

 一々炎の中に入って能力を使っていたのは、能力の正体を知られないようにするのはもちろんの事、その能力を相手に利用されないための意図もあったのだろう。

 その結果彼らは未だ答えに辿り着けず、手探りで見つけるしかない事を理解すると、面倒なことになったと考え、康太は今度は聞こえる程の舌打ちをした。


「……そいつは考えうる限りで最悪の展開だな」

「その能力なら例えば離れたところからの銃撃、爆弾による対広範囲攻撃、更にはウイルスによる毒殺も可能ってことになるわね。面倒な予想ねぇ」


 優の発言を聞き、康太と善が顔を歪める。


 善やアイビスならばそれらに対しても容易く対応できるが蒼野は別だ。

 例え時間を戻せるとはいえ、それで全てが解決するわけではない。

 むしろ耐えきれず命を落とす可能性だって十分にある。


「あ、それならたぶん大丈夫ですよ」

「何?」


 その時、思案している二人に対し狙われている蒼野自身が返答し、康太が疑問を抱いたような声を上げた。


「たぶんあいつは、そう言う結末を望んでない。変な言い方ですけど正々堂々と、不意打ちではなくて正面から殺しに来ると思います」

「何を根拠に…………」

「そうだぞ蒼野。最初の襲撃だって俺達が束になってギリギリ助けられた……あ」


 蒼野の発言に頭を抱える康太だが、その時、隣にいた聖野がふと違和感を覚えた。


「てあれ?」

「どうしたー聖野くーん」

「はい。そもそもの話なんですが何でゼオス・ハザードは蒼野の前に現れたのかなって」

「暗殺者なんだから、そりゃ誰かに依頼されたとかだろ。あ」

 

 聖野の問いに腕を組みながら座っている康太がそう答えると、彼も何を伝えたいのかよく理解できた。


「そうかあの野郎、よくわからねぇ手段を用いてるのか!」

 

 聖夜の話の中に隠れていた違和感を理解した康太が、力強く机を叩くと机は大きく軋み、その様子を目にしてアイビスが顔を歪ませた。


「どういう事だ?」

「暗殺者なら真正面から現れて殺し合いなんてせず、不意打ちで殺すほうが可能性としては高いじゃないッスか。それなのに正々堂々と蒼野を殺しにかかるなんて、おかしいッス」

「つまりテメェは、ゼオス・ハザードにはそうしないといけない理由があったって言いたいのか?」


 善の問いに首を縦に振って答える康太。


「もしその考察が正しいとして、ゼオス・ハザードは何でそんな手段を取ったのかしら。暗殺なんて失敗するたびに警戒されるのが常のはず。それを考えたら正面から殺すなんて、よっぽどの理由があると思うんだけど」

「私怨、だと思う」


 顎に手をやり考え込む優に、蒼野は答える。


「あの工場で遭遇した時、ゼオス・ハザードが言ってたんだ。俺に罪はないけど、私怨から死ねって」

「私怨……一緒に過ごしてた俺が知る限り、恨まれるような事はしてそうにないけどな」


 そこまで長い時間を共にしていない善や優はともかくとして、康太は自信を持ってそう言いきれた。

 少なくとも、彼の知る限りでは古賀蒼野は誰かに恨まれたりするような性格ではなかったはずだ。


「でもそこで嘘をつく必要もないだろ。だからきっと本当の事だ。身に覚えはないけど」

「私怨なんてもんは自分勝手な事が大半だ。細かい理由まで考えてたらキリがねぇ。問題は、襲ってくる動機が私怨ってことだ。こりゃちと厄介なことになった」

「厄介なこと?」


 そこで口を挟む善であるのだが、それを聞いた蒼野が不審気に思い、善に尋ねかえす。


「ああ。襲ってきた理由がどこぞの誰かの依頼とかだったならまあ面倒はめんどうだが、いちどぼこせば事足りるもんだったんだよ。だが私怨や復讐は違う。目的を達成するまで追ってくるような面倒な奴らが大半だ」

「つまり……俺を殺すまでか。気が重くなるな」


 口に出しただけで蒼野の顔が青くなり気が重くなるが、今回ばかりはそれも仕方がないと一同は考える。

 なにせこれからゼオス・ハザードを捕まえるまで、生きるか死ぬかの日々を送り続ける事になるのだ。

 考えるだけで陰鬱とした気分になるのは当然と言える。


「話しあいはこの辺で終わりだ。今日はどうする? 姉貴が付いてくれるのか?」

「いいわよ。今日は予定は入ってないし、あたしが守るわ」

「あ、アタシも一緒にいていいですか!」

「もちろんよ。ガールズトークも楽しそう!」

「俺男なんですけど……」

「俺は周りを探り始めて見るか。人が少なくなった世界樹の辺りで出てきたってことはカメラかなんか仕掛けてるだろ」

「まあ能力で覗き見の可能性も高そうだけどな。とりあえず俺は情報収集してみる」


 会議が終わり、各々が好きなように動き始める中、善はそんな彼らを一瞥し、無言で部屋の外へ出て行く。


「さて、どうするべきか」


 彼が考える事は蒼野を守る護衛役についてだ。当初の予定では蒼野を強力な防御を張れる彼の元同僚に頼みこんでみる予定であったが、ゼオス・ハザードが襲ってくる理由が私怨だとわかれば、ただ守りを固めるだけでは不十分なように思えた。


 私怨が理由の犯罪はただ仕事を行うという場合と比べ、モチベーションが全く違う。

 ただ守るだけでは現状の作戦では蒼野が殺される可能性が高いと善は踏んだのだ。


「だがまあ、私怨も悪いことばかりではないわな」


 しかし悪いことばかりではない。正面から殺し来る事がわかっているのならば、相手の行動も読みやすくはなる。そこから考えられる三人目の護衛役は……


「我ながらめちゃくちゃ考えるな」


 悩む必要など全くない。今回の戦いにおいて最善にして最高の相手に、彼は会いに行った。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


9時までの投稿には間に合うと思ったのに……

とはいえ量は最低限書けたとも思うので、その点については安堵しました。


今回の話は現状の確認とこれからの話における繋がり作りです。


次回は更なる新キャラクターの登場でございます。

お楽しみに!


あと、明日は久々の連続投稿を行おうと思います。

最近スケジュール通りに勧められなかったお詫びです。


第一話目は、お昼までに投稿するので、気が向いたら確認してくだされば幸いです。


それではまた明日

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