ギルド『ウォーグレン』一行、神の住む居城にて
「それにしても、まさか世界最強の姿をあんな間近で拝めるとはな」
「今回に限ってはアタシも蒼野と同じように気を失いそうになったわ。危ない危ない」
「まあ、ちょっと過剰な気もするけど、それが普通の反応だよな。けど、フレンドリーな人だから肩の力を抜いて接すればいいと思うよ」
善がヘルス・アラモードと戦っている途中でアイビス・フォーカスが現場に到着した頃、神の居城の中にいる少年少女は雑談をしていた。
話題はもちろん、普通に生活していれば中々目にする機会のない世界最強の一角、アイビス・フォーカスについてだ。
「正直なところ護衛役の話を聞いた時には半信半疑だったんだ。いかに世界の中心ラスタリアといえど、神出鬼没の男を相手に善さん以外の人間が護衛役になって『絶対に守る』なんてさ。
普通に考えてかなり厳しいだろ。だが護衛役が世界最強となれば話は別だ。これ以上に心強い味方はいねぇ!」
普段決して見せないようなテンションとリアクションで心底嬉しそうに語る康太。
「でも、あんまり頼りにするのも良くないわよね」
「……なんだと、ならお前はそれ以上にふさわしい存在がいるっていうのか?」
そんな気持ちに水を差す優を前に怒りの感情を顕わにするのだが、優は猛る康太を鼻で笑うと、机に頬杖をかき疑問に思っていたことを口にする。
「いやアタシも護衛役がお姉さまなら文句なんてあるわけないわ。むしろ、四六時中護衛役をやってくれるなら憧れの人と話す時間が増えて超うれしい」
「さっきから聞いてて思うんだけどな、姉さんに大して変に美化したイメージ持ってるぞ優。その……あんま美化すると後々辛いぞ」
「ちょ、なによ。アイビス・フォーカスお姉さまといえば、秩序を守る最強の守護者にして誰に対してもわけ隔てなく接する人格者でしょ? なんでそんな不安げに語るのよ!」
憧れのスターを目にした一般人のような鼻息荒い様子で語る優に対し、注意するように告げる聖野。
それを前にして彼女は食いつき反論するのだが、その姿を前に聖野は苦々しい表情をした。
「ああ、うん。やっぱそう言う印象か。一部は合ってるっちゃ合ってるんだけど……素晴らしい人格者かと問われると……うん」
「その反応はどういう事かしら蒼野」
「え? って、うわ姉さん!?」
かなり言いずらそうな様子で優の言葉を訂正した聖野が振り返ってみると、木の扉が音もなく現れており、その中からアイビス・フォーカスと原口善が出てきていた。
「お姉ちゃん聞きたいなー。部下があたしの事をどんな風に言ってたのか知りたいなー」
思いもよらぬタイミングでの登場に苦笑いを浮かべ滝のような汗を流す聖野。
「い、いや何でもないですよ、ハハハハ」
「何でもない、やましいことがないというのなら話せるんじゃなくて?」
「お姉さまの事をちゃらんぽらんな人間だと言ってました!」
「言ってない言ってない、口にしてない」
「口にしてないってことは思ってたって事じゃない?」
「え、冤罪です!」
それから優も交えぎゃあぎゃあと騒ぎだす三者を一瞥すると、残っていた最後の椅子に腰かけ、善が心底不機嫌そうに頬杖を突いた。
「何かあったんすっか?」
「…………まあな。大した用事じゃねぇよ」
「…………」
服や顔に付いている砂埃や袖や裾が破れている服を見れば、戦闘があったことは明白だ。
加えて康太の勘は善の言葉に対し警戒をするよう告げていたのだが、本人が言いたくないのであればこれ以上追及するべきではないと考え、康太は何も口にせず黙り込んだ。
「なら、今後の計画について聞いていいですか?」
とはいえ、このまま何も口にせず黙っているのは康太が耐えられない。
なのでここに来た本来の目的をできるだけ自然に尋ねてみると、その話題の必要性は十分に認識しているため、善は反論の一つもすることなく立ち上がって大きく伸びをした。
「そうするか。ただまあ、まずは蒼野が目を覚ましてからだな。てか何であいつは気絶してるんだ?」
「あー、その……アイビス・フォーカスさんに会えたことがそれほど衝撃だったようで」
その後善が康太に言われた事に返す言葉が見つからず何とも言えない表情になると、
「そ、そうか」
ただそれだけ言って息を吐いた。
渦中の少年が目を覚ましたのは五分後、それからもう一度気絶し復活するまでにさらに五分を要した。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
短いながらもなんとか本日中に投稿完了。
遅くなってしまい申し訳ありません。
本日まで少々手が話せなかったため時間が不安定でしたが、明日からは普段通りの日程になるので、よろしくお願いします。
それではまた明日




