原口善VSヘルス・アラモード 二頁目
「あれ? 入れない?」
「すいません。こちら現在閉鎖中でして!」
「そうなの? 仕事終わりに一杯引っかけて行こうと思ったんだけどな。残念」
「また十年前みたいなことになるのかしら?」
「ママー観覧車乗れないの?」
煌びやかな光を放つ繁華街の外で、黄色いヘルメットに空色を基調にした作業着を着た工事現場の作業員の姿をした人々の声に人々が足を止める。
彼らが足を止めた場所は善とヘルス・アラモードが戦っている現場から数キロ離れた場所なのだが、戦場から鳴り響く音を前にして幾人かの人の口からは不安の念を帯びた声が上がっていた。
「こいつぁっ!?」
そのような人々の事情など全く知らぬ様子で、飲食店に専門店、それに小さなテーマパークさえある賑やかな繁華街のど真ん中では、ヘルス・アラモードの出した真っ白な雷に善が肉体を貫かれていた。
(指先から伸び続けるレーザーじゃねぇ! ショットガンみたいに弾丸になって飛び散りやがる!)
幸いにも内臓を傷つけるような位置には当たらなかったため深手は負っていないのだが、交差させた腕ごと鍛え抜いた胴体まで貫いた雷に、彼は目を細めた。
痛みからではなく、自身の体を容易に貫ける術技をヘルス・アラモードが複数持っているという事実にだ。
「そうら追撃追撃ぃ!!」
「ちっ」
ここまで拳と技をぶつけてきた印象として、ヘルス・アラモードという青年は自身が勝てない相手ではないと彼は判断した。
彼は間違いなく強者ではあるのだが、それでもここ数ヶ月の間に戦ったガーディア・ガルフやシュバルツには遥かに劣り、何度も鎬を削ってきたレオンはもちろんのこと、先日下したシェンジェンよりも多少ながら劣っているという印象であった。
ただここに全く知らない術技が混ざってくるとなると話は変わる。威力や効果をしっかりと把握した上で、対策を練る必要性が出てくるからだ。
「高火力は一点突破型のレーザーだけだと思ったんだがな」
追撃として繰り出された蹴りを腕で受け、背後にあるコンビニに飛び退き善が忌々しげに呟く。
特殊な効果を持った攻撃ももちろん厄介なのだが、易々と自分の体を貫ける技がいくつも持っているというのはそれ以上に面倒なことである。
(こいつは…………ただ周囲に撒いただけか」
舌打ちをする善に一歩遅れて、真っ白な雷が地面を伝いコンビニとその周辺に広がっていく。
その影響で周囲の電子機器類が全て狂い、善の視界が闇で埋まる。
「悪いが」
そんな彼の視界を、自身へ向け撃ちだされる真っ白なレーザーが埋める。
ただ彼はそちらにさほど意識を向けることなく体を傾け躱すと、すぐに背後に振り返り、雷を纏っていない状態で近づいてきたヘルス・アラモードの顔面を構えから撃ち込むまでを一切視認させない速度の拳で撃ち抜いた。
「ぶっ!?」
「丸見えだ。もうちっと俺について情報を知っておくべきだったな」
視界を奪ったとしても善の瞳は相手が纏う練気を見分けられる。
なのでヘルス・アラモードの策は意味を成さず、ガラスを突き破り吹き飛ぶヘルス・アラモードに対し善は直進。その歩みを止めるように真っ白なレーザーが再び自身へと向かっていくが、焦りにより先程までの冷静さを失った攻撃ならばさしたる苦労もせず善は躱せる。
「あぁ!?」
ただここで再び想定外の事が降りかかる。躱したはずの一撃が善の右足を捉えたのだ。
「よ、よかった。当たった!」
ほぼ同じタイミングで放った追撃の手刀を脇腹に受け、いくつかの街灯を背に受けながらも無事に着地したヘルス・アラモードはしかし、自身の策がうまく言った事に多少ながらも胸を撫で下ろし、対する善は吹き飛びこそしなかったものの、強い衝撃を受け感覚を失った右足を意識しながら、自身に何が起きたのか知るために周囲を探る。
「…………さっき攻撃が飛んで来た方角にあるあれが原因か」
力強い瞳が映しだしたのは、空中に浮いている拳大の真っ白な球体。記憶が確かならば雷を纏わなかったヘルス・アラモードがブラフとして白雷を撃ち込んだ方角に、それはあった。
(あれ自体が攻撃を撃ち込む感じじゃねぇな。ぶつかった弾丸を反射させるってところか?」
途中から口に出しながら周囲を確認すると、自身がいるコンビニを取り囲むように拳大の球体はいくつも浮いており、それを見た善の頭をよぎったのは、今この場所は自分を仕留めるために用意された『狩場』と化しているという事実だ。
「うぉ!」
善の肉体へと向け、それまでと同じように一発の白いレーザーが撃ち込まれる。
ただそれは一度二度と避けても消えることなく、善が真下へと撃ち落とした所でやっと消滅した。
「計算は終わった。長居しすぎだよ、あんた」
その姿を見ているのかどうかまでは善にはわからない。
ただそんな声が聞こえたかと思えば最初に善の体を貫いた複数の弾丸が撃ちだされ、別々の方角から彼へ襲い掛かってきた。
「クソ!」
様々な方角から撃ちだされるそれを躱すのは困難極まる。ただそれはその場に留まっていた場合の話であり、善はすぐに建物から飛びだすべく駆け出し、その行く手を阻むように今度は最初とは逆にヘルス・アラモードが先回りして、
「もういっちょ!」
声をあげると同時に、指先から白い雷のレーザーが伸びてきた。
「流石にもう当たらねぇよ!」
ただ単純にまっすぐ進む攻撃は既に見慣れており、如何に近い距離であろうと善は躱せる自身があった。
「だろうな。あんた相手に、ただの白雷はもう当たらないよな…………ただの白雷ならな!」
それはヘルス・アラモードとて理解していることであり、善が躱すために体を動かした方向とは逆に指を動かす。
すると指先からなお放たれ続けている白いレーザーは鞭のようにしなり、予想外の動きに『後の先』を用いても間に合わぬ善の体に直撃。
反撃を許さぬと撃ちだした蹴りは善を再び狩場に閉じ込め、先に撃ち込まれた弾丸のうち一発が善の視界に映った。
「っと、時間切れか」
ただそれは善の体に直撃する寸前に霧散し、ヘルス・アラモードは残念そうに頭に手を置き、対する善はショットガンの要領で撃ち込まれる白雷は、レーザーとして撃ち込まれるほど長くは残らないと理解した。
「左足も貰うぞ」
そう言いながら撃ちだされるショットガンの弾丸のように放たれる白雷。既に右足の痺れはなくなり存分に動かす事に何ら問題はない事を知られていない事を利点と考えながら、善はもう一度宿敵とみなしていた青年について考える。
先程自分が相手に対し有利だと考えたのは身体スペックや経験則を元にしたためである。
ただこと才能に関して言えば彼は非人道な実験のモデルケースにされるほどのものを備えており、これに知らない術技が混ざった場合、自分が優位であると胸を張って言う事はできなかった。
様々な攻撃に対する対応が間に合わず敗北する可能性さえ見えるほどだ。
「…………仕方がねぇな」
本音を言えば、この後に控える大一番のために取っておきたいところではあった。下手に情報を出して荒唐無稽な攻略法を出されても困るからだ。
しかしヘルス・アラモードはそんなことを言っていられるほど甘い相手ではなく、ゆえに善は切り札を切る覚悟をする。
「後の事を考えりゃ五回までに抑えたところだが……さてどうなる事かね」
それは大多数には晒していない彼が持つ希少能力を発動することであった。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です
先日は申し訳ありません!
旅行で山奥に行っていたのですがwifiがうまくつながらず投稿できなかったのです。スマホと連携してせめてツイッターで報告をとも思ったのですが、そちらもうまくいかず…………
ということで一日遅れの投稿です
VSヘルス・アラモード戦その2。
なおも戦いは続きます。ここ最近の中では結構じっくり戦いを描写しており、個人的には満足。最後までこのペースを保ちたいです。
そして次回はついに長らく秘されていた善さんの能力開示回!
これまでの様々な能力の中でも最高峰の力を、その目でぜひご確認ください!
こちらの話は余裕があれば明日すぐに投降できればと思うのですが、あまり期待しすぎず待っていただければとも思います
それではまた次回、ぜひご覧ください!




