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原口善VSヘルス・アラモード 一頁目


 迷いなど一分もなく、力の籠め方から撃ち込むまでの動作にも淀みはなかった。

 ヘルス・アラモードの動きを完全に読みきった善は、彼の逃走経路の先で待ち構え、拳を握り、小さく一歩だけ踏み込み、発射から着弾までを最短最速で行えるよう体を動かす。


「!」


 がしかし、ここで善にとって思いもよらない事態が起こる。

 拳を僅か数センチ前に出した所で、真っ白な雷を己が肉体に纏ったヘルス・アラモードの視線が彼の拳を捉え、顔面に到達するよりも早くその射線から外れるように首を右に大きく動かしたのだ。


「お返し、だ!」


 彼の動きはそれだけでは終わらない。

 体を傾けた勢いをそのまま拳を撃ち込むのに利用し、カウンターの要領で善の頭部へと向け撃ち込んだのだ。


「おめぇ!」

「うぇっ! あれに反応するのかよあんた!」


 しかし『後の先』に関して言えば、ガーディア・ガルフという上位互換がいるとはいえ原口善の十八番である。

 撃ち込まれた拳を見た直後にヘルス・アラモード同様に体を傾け、空いていた腕を伸ばしてまっすぐに伸びてくるヘルス・アラモードの腕を掴もうと画策。

 それを見るとヘルス・アラモードはそれに対応するように体を動かし、その結果を見て善が更なる一手を繰り出す。

 そんなやり取りが宙を浮いた無数の食器類が甲高い音を発しながら砕け、善が持ちあげた机がヘルス・アラモードの後ろにあった別の机にぶつかるまでの間、呼吸する暇さえないほど続く。

 驚くべきことにその間両者は距離を取って体勢を立て直すという事は一切せず、拳と足が届く超至近距離で、練気や属性粒子による広範囲攻撃や自動防御も一切使わず、原始的な肉弾戦を延々と続けていた。


「キリがないな!」


 先にその状況に変化を与えたのはヘルス・アラモードだ。

 彼は足元に落ちている透明なガラスの破片をつま先で器用に持ちあげると、目の前にいる自分に意識の大半を傾けている善へと向け蹴り上げる。


「っ!」


 それは見えにくかったこともあり善の頬を本当に僅かではあるが斬り裂き、険しい表情をしていた彼の眉を僅かにだがつり上げた。


「そうら!」


 ほんの一瞬、誤差といっても過言ないほどではあるが自分に注がれていた意識が散ったのを確認し、ヘルス・アラモードがこれまでよりも更に距離を詰めるように一歩踏み込み拳を撃ち込む。するとこれまで一手先を読みきっていた善の『後の先』を抜け善は両腕を交差させることで受けに周り、その姿を見たヘルス・アラモードが雷属性の特徴である超反射を活かし、善が何かをするよりも早く、追撃の回し蹴りを振り抜き、善を吹き飛ばした。


「ヘルス・アラモード」

「うぉっ!?」

「空の旅は好きか?}


 がしかしそこで、今度はヘルス・アラモードにとって想定していなかった事が起こる。

 吹き飛んだ善に合わして、自身の体も一緒に吹き飛んだのだ。

 困惑した彼はしかし、それが善が自分の服の裾を掴んだ結果だとすぐに理解したのだが、その一手が先の展開を決めた。


「おらぁ!」


 この時彼は『何故吹き飛んだ』など考えるべきではなかったのだ。

 重要なのは『この状況をどう立て直すか』についてであり、その一手を怠った結果、吹き飛んだものの壁にぶつかるより遥かに速く体勢を立て直した善は、己が筋力で重力に逆らいヘルス・アラモードの体を乱暴に振り回し、自身がぶつかるはずであった肌色の壁に彼を叩きつけた。


「人が一人もいない…………避難させたのか! なんだなんだ。話し合いをするって言ってたくせに、やっぱりこういう事になるって予想してたんだな!」

「『三狂』なんつー面倒な立場に選ばれる奴はなぁ、例え冤罪が混じってるにせよ面倒な性格してるに決まってんだ。それくらいはする」

「ひっどい言われようだな!」


 ヘルス・アラモードの体を叩きつけられた壁が発泡スチロールのように容易く砕かれ、両者は片側二車線の一台も車が通っていない道路に飛び出ると、繁華街の光に包まれながら着地。

 善は額から一筋の血を、ヘルス・アラモードは口元からごくごく僅かな血を流したのを付近の店から発せられる照明に照らされながら、対峙する相手に対し言葉を投げかける。


「意外とやるじゃねぇか」

「逃げるだけかと思ったか? 悪いが、戦えないなんて言った覚えはない」

「そりゃそうだな」

「けど残念だよ。近接戦で制圧できれば、あんたも諦めてくれると思ったんだけどな」

「調子に乗んな!」


 気楽な様子でそう口にするヘルス・アラモードに善が声を荒げる。ただそのように吠える姿に反し心胆は冷静そのものであり、となれば次の展開も十分に読む事が可能で、


「やっぱこれを使うしかないわな」


 善の予想が正しいものであると示す様に、ヘルス・アラモードは右手の人差し指と親指を伸ばす、いわゆるピストルの形を作った状態で善を指差し、


「白雷!」


 己が真価の名を口ずさむ。


「っ」


 その瞬間撃ちだされたのは白き雷の弾丸。というよりは細長く伸びるレーザーで、指先から目標へと向けまっすぐに突き進むそれは、音を置き去りにして、空気の反抗さえ易々と突き破り、回避行動に移っていた善の頬を掠めた。


「ちっ」


 ヘルス・アラモードが使う雷はただの雷に非ず。『属性混濁』により別の属性の特性を備えた者である。ただ彼の場合は更に特異であり、得意とする雷属性に交じっているのは、一属性だけでなく二属性だ。

 すなわち、全属性最高の速度を授ける『光属性』、全属性最高の硬度を授ける『鋼属性』。

 この二つの属性が混ざった雷は、元々備えていた全属性最強の威力を更に発揮することが可能となり、様々な罪を犯す事が可能であったと人々の脳に叩きつけ、彼が『三狂』の一員に選ばれた最大の理由であったほどだ。

 善自身とて完全な回避は成しえなかったそれほどの凶器に近づくのは危険極まりないことなのだが、彼は一切の恐れを抱いていない憤然とした表情で大地を蹴り、愚直に、最短距離を駆けていく。


「向かって来るのか? 距離が近けりゃ近い程、接触までの時間が短くなって避けにくいぞ?」

「近づかなけりゃおめぇをぶん殴れねぇだろうが!」


 際立った才を持った人類が、肉体のみを極限まで鍛えた結果がここにあり、ヘルス・アラモードという才が白き雷を打ち出すよりも早く、善は距離を詰める。


「おっとぉ!」

「こうまで合わせてくるか。口だけじゃねぇみたいだな!」


 それでも拳を撃ち込むだけの余裕は与えられない。

 発射口となる指先はピッタリと善の頭部を指し示し、いつでも発射できると告げるように白い球体は既に指先で形づくられ、射線から逃れるように善はヘルス・アラモードの周りを動き出す。


「っ」


 が、どれだけ動こうと照準は外れない。

 左右だけでなく空を跳ね真下に潜り込もうとしても、その都度ヘルス・アラモードは最適な距離を測るように距離を置きながら照準を合わせていく。それはビルや道路沿いに生える茂みや木々を挟んでなお外れることなく、段差に足を引っかけ姿勢を崩した善を前にして、好機であると告げるように球体は膨れ上がる。


「返礼だ。受け取れ」


 それを見て善は笑う。

 自身が投げた餌に引っかかった真っ赤な瞳の青年を嘲笑い、様々な方向に駆ける際に握っておいた物体を掌から出すと、親指で弾く。


「しまっ!?」


 夜闇と繁華街を照らす光さえかき消す光量を発する白い雷が映したのは、どこにでも転がっているような小さな石ころで、しかし不意に自身の紅い瞳へと向け正確に投げつけられたそれを回避するため、ヘルス・アラモードは余分な一動作行い、


「おらぁ!!」

「ぐっ」

「クソがっ!」


 その一瞬を逃さず、今度は最初の接触時とは逆に、善の拳が対象の頬を捉え吹き飛ばす。しかし当の本人はその感触が完璧な直撃ではなく、ある程度衝撃を流されたものであると悟ると表情を引き締め、追撃を加えるため、道路のど真ん中で体勢を整えたヘルス・アラモードへと向け再度疾走。


「そいつはもう意味がねぇよ!」


 再び自身へと向けられる人差し指に対しても一切怯まず、足元の舗装されたアスファルトの地面を足の先端で勢いよく持ちあげるとすぐさま蹴り飛ばし、今度は視界全てを覆う。


「白雷!」

「おらぁ!」


 その際に生じた破片の幾つかを射出用の弾丸として掌に秘め、真横から迫る善。

 すぐさま反応したヘルス・アラモードはしかし、再び襲い掛かる瓦礫の破片を前にして回避に徹するほかなく、そこに時間をかけている間に善は己が拳に込める力を強め、


「散華!」


 それが撃ち込まれるよりも早く、指先に形成された白い球体が膨張。風船が破裂寸前まで膨れ上がるような危機感が善の胸をよぎったかと思えば破裂し、


「がっ!?」

「情報は力…………だったか? 今ほどそれを実感した事はなかったよ」


 善の体を一ヶ所ならず五カ所六カ所と貫く雷の塊を眺め、彼は息を吐きながらそう告げた。



 






ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


原口善VS]ヘルス・アラモード開始。

タイトルもド直球かつシンプルの極みです


この時点で既に気づいていらっしゃるとは逃げ腰チキンの癖にヘルス・アラモードは強いです

なので戦いながら善は内心で結構舌打ちしてます


「何でいざ戦いだしたら面倒なんだよお前は」とか「助けてやろうってのに抵抗すんな」とか時折思ったりしています

対するヘルス・アラモードはといえば自分主体で戦うのが初めてなので割とときめいています。クソすぎる……


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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