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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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復讐の闘士 一頁目


「うわ、なんか世界樹の前が大騒ぎだな。大丈夫かな康太君」


 ベンチに腰かけて自販機で買ったジュースを口にしている青年が、世界樹の周りで起きた騒ぎを前に声を上げる。

 次いで空高く炎の柱が昇っていくのを目にして、彼は無意識に体を引いていた。


「まあでもこれなら、その善さんっていう人は俺を見つけやすいかもしれないな」


 先程まで周りにいた人々も全て世界樹の方へ移動したこともあり、元から人が少なかった彼の周りは閑散とした雰囲気となっており、その様子を見て苦笑交じりの複雑な表情をする。


「……なんか置いて行かれた感じがする。いや! 逆に考えよう。これは普段ならば並ばなければいけないような行列のできるお店に行くチャンスだと!」


 それからすぐ、自分が周りの流行に沿っていない異分子であるような感覚が身を襲うと、気を取り直してそう言いながら立ち上がり、普段ならば行列ができている出店の一つに並ぶが、


「店員もいねぇ……」


 すぐさま自身が見落としていた事実を前に肩を落とした。


「ん、あれは?」


 待つだけというのは暇すぎる


 そう考えた男が秋空に視線を向け思案に暮れる中、少し離れた位置から足音が聞こえその正体が一人の男性であると認識。

 持っていた写真とその男を見比べる。


「ふむふむ…………」


 ガッチガチに固められた刺々しい髪型に、全身の至る所に刻まれている古傷。学生が着るような学ランとボロボロのジーンズを身に纏った青年。

 

 康太君はもしかしたら、自分が思っているよりも危ない人付き合いをしているのではないだろうか?


 胸中でそう思い浮かべながらも目的の人物である事を確認し、彼は自分が待ち人であると伝えるために思い切り手を振った。


「あなたがこの写真の青年ですか! 俺は康太君からここで待ってあなたに伝言を伝えるように頼まれたものでして!」


 座っていた椅子から立ち上がり大きな声で話しかける青年。

 誰が見ても好感触な爽やかな笑顔を浮かべる彼の姿は、周りにだれもいないことも合わさりよく目立ち、康太と合流しに来た善も肉眼ではっきり捕え、


「え?」


 その瞬間、何の危機感も抱いていなかった彼の目の前から青年・原口善の姿が消失。


「死ね!」


 次に彼が目にしたのは、猛る闘志に身を包み、自分に対し渾身の力で殴りかかってくる青年の姿。

 大地を砕くほどの足踏みと、自身の身を包む程の巨大な拳に見えるほどの気迫を込めた拳は大気さえ揺るがし、攻撃を撃ちだす男が走った場所から衝撃波が生じる。


 それほどの余波を巻き起こす拳が青年の体へと向け、光に並ぶ程の速度で撃ち抜かれた。




「テメェ……」

「や、やめろよ。そんなもん食らったら、死んじまうよ」


 人通りという物がなくなった自然公園の前で、二人の男が対峙する。


 片方は自らの撃ちだした拳の感触のなさに苛立ちを隠しもしない様子で口を開き、

 もう一方の男は首を僅かに横にしただけで、触れた場所を肉塊に変化させる一撃の被害を、頬の皮膚が剥がれ落ちる程度にとどめていた。


「あ、あのー、もしよければ教えて欲しいんですが、どうして俺はいきなり殺されかけてるの?」

「愚問だな」


 理解ができないとでも言いたげな困った感情を乗せた苦笑いを前に、敵意むき出しの表情を見せる善。


「生死を問わずの捕獲対象」


 そうして善が活火山の爆発を感じさせる空気を体に宿し、暴走するのを必死に抑え込んでいるのがよく分かる声で彼に語りかけると、


「……」


 全てを察した彼は言葉に詰まる。


 思わぬ言葉をここで聞いたとでも言いたげな様子で、彼は顔を引きつらせ、


「なぁ、ヘルス・アラモード」


 彼に対し原口善は男の真の名を唱える。




『十怪』という存在達がいる。


 パペットマスターが分類されている、世界中でトップクラスに恐れられている十人の犯罪者。

 並の者はもちろんの事、腕に自信がある万夫不当の猛者でも相手にするべきではないと言われる存在。


 そんな彼らであるが、この世界にはそれ以上に恐れられている存在がいる。


その名は――――『三狂』


 この世界で息をする世界最大の敵。

 四大勢力全てが危険と判断し、『十怪』よりも更に危険と認識した存在。


 昨今最も活動的な、全身を黄金の鎧で固めあらゆる場所で破壊の限りを尽くす世界最強の犯罪者、ミレニアム。

 十年前程に突如現れ、全人口の約一割の死者を出した、幾つもの奇病の原因とされている生きた災厄デスピア・レオダ。

 そして神教第三の都市を皮切りに、一夜で五つの大都市を壊滅させた、神教が定めた暦が始まって以来瞬間的に最大の被害を叩きだした人間、ヘルス・アラモード。


その一角が、ここに顕現した。




 誰もが予想だにしなかった戦いのゴングが、誰に聞かれるまでもなく鳴り響いた。

 最初の一撃を紙一重で躱したヘルス・アラモードに対し追撃を加える善だが、その一撃は対象に命中することなく空を切り、攻撃の標的とされた当の本人は地面を跳ね近くにある建物の壁に着地する。


「俺の正体を知ってるってことは、その危険性もわかっているってことだよな。あんた、命を賭けて俺に立ち向かう覚悟が…………」


 迫る敵を睨みつけそう語るヘルス・アラモード。

 そんな彼が目にしたのは、自分へ向け足を振り上げる原口善の姿。


 人体の究極に近い体から放たれた、常人では目視できない勢いで振り下ろされた踵落としは、ぶつかった中心点はもちろんの事、地面に衝突した際に生じた衝撃だけでヘルス・アラモードの背後にある家屋どころか周囲一帯の地面と建物を砕いていく。


「ちょ! 最後まで話を聞けよ!」

「覚悟云々の話だろ。安心しな、例えこの命尽きようとも、テメェだけは仕留めてやる!」

「なにそれ怖い!」


 一切の淀みなく宣言する善に対し、ヘルス・アラモードの頬を一滴の汗が伝う。

 そのまま善は続けて猛攻を仕掛けるが、それでも彼の体を捉える事は一度もなく、


「ちぃ!」

「う、お!」


 もはや幾度放ったかわからない拳がヘルス・アラモードに避けられるが、その時ヘルスは自らの襟首に奇妙な違和感を覚える。


「捕まえたぞ!」

「いっ!?」


 自身の服が捕まれ、その手を振りほどこうとヘルス・アラモードが足掻こうとする中、善は彼が何かをするよりも前に彼を投擲。

 空気を斬り裂き、雲を超えたい危険すら突き破るかのような勢いで、男の体が天高くへと上昇。


「はあ!?」


 全身に響く衝撃を前に顔をしかめる彼であったのだが、そこで彼は信じられないものを見た。


 自身は地上にいた強面の男に投げ飛ばされた。これは間違っていないはずだ。

 これを基にこの場から離脱する事を考えるヘルスであったのだが、気が付けば善は彼の吹き飛んだ先に存在し、飛んでくるヘルスを待っているとでも言うような状況であった。


「うらぁ!」

「っ!」


 善が空中で放った回し蹴りを動揺している彼は綺麗に捌ききれず脇腹に衝突し、真下へと隕石もかくやといったような勢いで吹き飛び衝突するヘルス。


「浅いか!」


 それを確認した善が吐き捨てるようにそう口にすると、騒ぎを聞きつけた人々が野次馬となり目を丸くする中、善は地上へと急降下すると一気に距離を縮め、追撃で踵落としを撃ちだそう意志を固め、


「流石に…………これ以上は無理」


その時ヘルス・アラモードは初めて反撃するために、自らの体を真っ白な雷で包みこんだ。


「テメェ!」


 彼が纏う雷を目にして、拳を突き出していた善が一瞬だけ怯み、ヘルス・アラモードが善から距離を取る。


「全く、俺を狙うのはいいけど……いやウソですそれも良くないです。はい」

「…………」

「周りの迷惑くらい考えて戦えよお前!」

「ほざけクソ野郎が!」


 目の前の男が喋る度に、胸中を怒りが満たす事を実感する善。

 そんな彼の纏う空気が周囲を侵食し辺りが闘気で揺れ、二人のいる倉庫が軋む。


 がしかしその程度の被害で善が足を止めるかと言われれば無論ありえず、僅かに前かがみになり彼を追いつめるために前へ飛びだそうとすると、


「そこまでよ善」

「姉貴!」


 世界最強が十の色に輝く鱗粉を撒きながら二人の間に舞い降りた。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


今回お届けした戦いは、蒼野がゼオスと衝突していた際に起こっていた別サイドの戦いで、

最後の部分でアイビスが追い付いたという状況です。


今回の話でこの世界でも指折りの実力者が三人集まりました。

次回は彼らに一暴れしてもらおうと思っているので、お楽しみに!


あと、ちょっと文章が荒いかもしれないのですが、明日か明後日の投稿では直っていると思うので、

ご了承ください。


ではまた明日。

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