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夜なき孤島の乱 一頁目



 ルイ・A・ベルモンドの執事が閲覧禁止にした動画の中には、色黒の恰幅の良い同僚、すなわちオリバー・E・エトレアがこれまでに手を染めた悪事に関し、事細かに説明されていた。


 恐喝、横領、薬物取引、不正売買、武器密輸・製造。

 さらには拷問、殺人を行っていたことまで記され、実際の様子まで動画形式で説明されたわけだが、ルイが最も眩暈を覚えたのが、それら数百にわたる罪状が、たった一年ほどの間に行われていた事実であった。


「『十怪』のエクスディン=コルやバク王国の王との深いパイプ。それに様々な抗争や戦争を裏で手を引いていただと? 少なくない監視の目が同僚や別勢力の重鎮から送られる中で、まさかここまでの事を仕出かしていたとはな。驚嘆に値するよ」


 ワックスでガチガチに固めたオールバックの髪の毛を掻き毟り、貴族衆の長である彼はため息を吐くが、無論そこに込められている感情に好意や賞賛などは存在しない。

 強い落胆に拒絶や失意を筆頭に、貴族衆内で禁止行為とされている殺人さえおかしくないほど憤怒の念が、彼の全身を満たしていた。


「い、いかがいたしましょうか?」

「…………君の判断は正しかったと断言できるよ。このような記事、世間に晒せるわけがない」


 背後で自分に尋ねかける青年といっていい年齢の執事に対し、彼は感謝の念を込めた言葉を送る。

 同時に頭の中で思い浮かんだのは、これらの動画を晒したインディーズ・リオの意図。すなわち一日とはいえ沈黙を貫いた彼らの次なる一手に関する考察だ。


「エルドラ、それに賢教の教皇殿。後は神教のアイビス・フォーカスに通信を繋ぎたい。至急連絡の準備をしてくれ。今日の予定は他の者に引き継ぐ」

「か、かしこまりました!」


 腕時計に付いている小さなボタンを何度か押し、それに呼応し黄緑色の画面が浮かびあがる。

 そこに出てきた予定を見ながら電話をかけ、シロバにダイダス、それに自身の片腕たるC・クロムウェル家の当主ファルツにその日の仕事の依頼を行い、更にノスウェル家にガンク家、アリクシア家という周辺の家系に情報を通達する連絡係になっている三家に、後々重大な連絡を通達する事を事前に報告。


 三十分後には各勢力の代表が画面越しに顔を合わせる事になるのだが、そこで彼はまた頭を痛める事になる。

 ギルドの代表にして先の戦争によって多くの信頼を勝ち得た竜人族の長エルドラ、彼が深夜の内に襲撃に遭い、行方不明になっているという情報である。


『先手を打たれたってわけね』

『も、申し訳ありません。まさか奴らが、こんなコソコソした真似をしてくるなんて!』


 結果代わりに現れたのは魚人族の長キングスリングと鬼人族の長である壊鬼であり、青い肌を更に青くしておろおろする魚人族の長の様子にアイビス・フォーカスはため息を返した。


『キングスリング殿の言いたいことも十分わかる。まさか実力面において優位に立っている彼らが、このような真似をしてくるとは思うまい』


 そのような彼女の反応に非難を示しつつも、直接文句を言うのではなく慰めの言葉をそっと告げたのは、教皇アヴァ・ゴーントのお付きとしてやってきたシャロウズで、彼の労わるような言葉を聞き、弱気かつ無暗に長ったらしい物言いになる魚人族の長も、僅かにではあるが気を取り直した様子であった。

 

『で、どうするのこれ。アタシとしてはこれほどの犯罪者、放置しておいてもいい気がするけど』

『アイビス・フォーカス!』

『…………分かってるわよ。そういうわけにはいかないわよね』


 それで話が振出しに戻った事を理解し、画面の向こう側で頬杖を突いていたアイビスが本音を隠さず伝え、それを神教の参謀長であるノアが非難。すると彼女は逆らう様子は示さず、肩を竦めて自身の言葉を撤回した。


「彼らがどれほどの情報を持っているのかはわからない。いやそもそもの話、ここまで特大の爆弾を抱えている人物は極めて稀だと思うがね。しかし放っておけば恐らく、我々の信用は地に堕ち、彼らを持ちあげる勢力が現れるはずだ」


 腕を組んだ神教参謀が難しい顔で告げた通り、現在の世界は神教発足以降最も不安定な状態だ。

 神の座がこれまで動画であげられた様々な犯罪を取り締まる事ができず、責任を取ろうにも本人は死亡してしまった状態となったからだ。

 そして大黒柱を失った現状を機に、数こそ少ないものの我こそは新たな王にふさわしいと宣う者達まで現れた。

 四大勢力のどれにも属さず、名も知られていない存在など、常日頃ならば誰も関心を抱かない。

 しかし現状存在している『権力者』達に対し不信感を持つ多くの人達は、新しい主を求め、様々な方面に意識を向けるようになった。

 ここで更なる混乱の火種を阻止できないとなれば、混沌と混乱はもはや隠しきれるものではなくなり、四大勢力による支配は崩壊。

 その隙を狙い、様々な罪を世間に知らしめた自分たちこそが王にふさわしいとインディーズ・リオが飛び出れば、、もはやそれを止める余力はない。

 これがインディーズ・リオの次なる矢であると、この場にいる多くのものは感じたのだ。

 そしてこの企みは、決して無視できるものではない。放っておけば成就する可能性が高い。

 そう彼らに思わせる程、オリバー・E・エトレアの様々な悪事の露呈は、第一打としてはこの上なく強力な毒を塗りたくった矢であった。


「幸いな事に彼らは再び襲撃の日取りを伝えてきた。恐らく我々を退ける事で、その強さを知らしめるためだろう」

『ひ、日取りはいつ頃になるのでしょうか? 私としては多少なりとも準備する時間が欲しいと思いまして…………』

「キングスリング殿。貴殿のご期待に沿えず申し訳ないのだが、彼らの襲撃は明日だ」

『そりゃずいぶんと性急だね』


 なおも戸惑いを隠せぬ、いやもはやそれこそが平常運転な魚人族の長が神経質な声色で先を促し、唯一この中で動画を最後まで閲覧したルイがため息を吐く。

 そんな彼に対しすぐさま反応を返したのはこれまで沈黙を守ってきた鬼人族の長であり、


『彼らにも余裕がないってことだよ』

『余裕がない、とはどういう事ですかなファイザバード殿?』

『言い変えるのならばこちらの全戦力とぶつかるだけの強さを持ち合わせていないという事です』

『どういうことかしら?』


 壊鬼の直感に確かな理屈を肉付けしたのは、彼女と同じく会議中はずっと沈黙を貫いていたシロバであり、


『エルドラ殿に対する不意打ちにやけに早い時間制限。これらは彼らの余裕がなくなっている事を示している。つまりだ、彼らは大きな戦力を一つ失ったからこういう策に出たわけだよ』


 他の者が口を挟む間も与えぬよう、雨のように降り注ぐ弾丸の如き勢いで言葉をまくしたてたかと思えば口を閉じ、


『お、大きな戦力を失った?』


 不安感に苛まれ、何か事態を好転させる情報が欲しいという意図が見え見えな声でキングスリングが尋ねかけると、待ってましたとばかりに不敵に笑い、


『そう。彼らもまた、僕らと同じく大黒柱を失った。『果て越え』ガーディア・ガルフは、我が師にして盟友、デューク・フォーカスに敗北したんだ』


 先の会議では隠し通した鬼札を、堂々と言い放った。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です。


本日分更新。恐らく今回の話はそこまで長くないはず。まぁ前回までの長かった戦争編の反動ですかね。

さてさてシロバは隠していた手札を提示。

これにより物語は大きく動きます。

善さんサイドはちょっと待っててくださいね。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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