王の復活 果ての考察 迫る幕引き
「フ」
数えるのも馬鹿らしい程の数の攻撃が目の前の敵に叩きこむために撃ちだされ、しかし同じように馬鹿らしくなるほど展開された守りに阻まれる。
展開された数多の守りの奥では突如現れた見覚えのある黄金の鎧が分解されていき、それを取りだした男の体に装着され、
「フハハ」
頭部を完全に隠し、男の物とは違う瞳が現れ開いた瞬間、聞き覚えのある野太い声が発せられ、
「HUHAHAHAHAHAHA!!」
己が生誕を歓喜し、世界に挑もうとする男の声が、大空洞に木霊する。
「よくやった。よくぞやってくれたデューク・フォーカス!! まさかまさか!!!!」
「ちっ」
「こうして再び、貴様と相見える事ができようとはなぁ!」
そしてその声が掻き消えるよりも早く声の主は獰猛な獣の如く動き出し、自身を守るために展開されていた無数の防御を自らの拳で破壊。
目前に控える人類最強へと向け勢いよく駆けていき、大地を砕く勢いの足踏みを行うと「万象を破壊し尽くさん」とでも言いたげな勢いで拳を振り下ろし、その一撃をガーディア・ガルフは躱す。
「どうした『果て越え』。以前も語ったが千年前とはずいぶんと様子が違うではないか!」
「……」
「その覇気のなさはなんだぁ!」
抑えきれぬ興奮をそのまま口にするは蘇りし黄金の王ミレニアム。
一撃躱された程度では止まらぬとでも言いたげな彼は一歩だけ後退した彼へと距離を詰め、獣のような咆哮を挙げながら攻撃を繰り返す。
それを躱す傍らでカウンターの要領でガーディア・ガルフは攻撃を叩きこんでいくのだが、その弱弱しさに苛立ちを感じたミレニアムは吠え、攻撃の勢いを増していく。
「下らないな。君のその暑苦しいテンションに付き合う理由が私にはない」
「む!」
それを変わらぬ様子で躱し、更に大きく後退するガーディア・ガルフ。彼は再びミレニアムが詰め寄るよりも早く左右に動きだしたかと思えば、小さく跳躍したと同時に姿を消した。
「どこに行ったぁ!!」
如何に弱体化しようが彼が人類史上最強たることに変わりはなく、その最大の要因であるといっても過言ではないスピードは、例え怪我や最悪のコンディションで十分の一以下にまで衰えたとしても容易く視認できるものではない。
それが光通さぬ大空洞の中であるとなれば一握りの武人でさえ当てはまり、ミレニアムはその姿を見失う。
「終わりだ」
となれば後はガーディア・ガルフの独壇場だ。
神器の中でもシュバルツ・シャークスの持つ大剣に続く硬度を備えている黄金の鎧。
これを破壊する程の熱量を発するのは今のガーディア・ガルフでは幾分かの溜めがいる。
しかし相手が姿を見失いしっかりと準備ができるとなればそれも容易く、完全に死角に潜り込んだ上で時間をかけ準備を行い、強烈な炎を一瞬で宿すと一気に近づき蹴りを撃ち込む。
「そこか」
「なに!?」
彼にとって想定外であったのは、それに対するミレニアムの動き。
決して反応できるはずがない速度で迫り、例え反応されようとも避けきれぬよう、左から右へ、薙ぎ払うように彼は攻撃を行ったのだ。
しかしミレニアムはそのタイミングに完璧に合わせて背後を振り返り、攻撃が撃ち込まれる寸前にわかっていたかのように屈んだ。
そして躱したあとは努めて冷静に、それこそ機械のように一切の迷いがない様子でガーディア・ガルフへと向けアッパーを撃ち込み、ガーディア・ガルフは戸惑いからそれを躱しきれず掌を使い受け流すのだが、その余波だけで手首から先が吹き飛んだ。
「…………」
反撃はされないはずであった。いやもっといえば躱される事はないはずであった。
そうガーディア・ガルフは考える。
「HAAAAAA!」
しかしそのように考えるだけの猶予は与えぬとミレニアムは駆けだし、息もつかせぬ猛攻を繰り出していくのだが、相手がガーディア・ガルフであり回避に専念したとなれば当たる道理はなく、そうして躱す傍らで彼は目の前で起こった事態に関する『答え』を探り、
「…………背後を見ていられるだけのなにか…………意識か。ミレニアム、君の中にいるデューク・フォーカスは未だ意識を保っているのか」
能力の反応もなければ単一属性を用いた粒子術でもない。もちろん発動が容易にばれてしまう練気でもない。
であれば残された可能性は限られており、その中で最も可能性が高く、かつ厄介な選択肢を指摘。
その答えを示すような無言の時間が、本当に一瞬だがよぎった。
『もーちょっと時間を稼げると思ったんだがな』
『甘えだな。敵がガーディア・ガルフである以上、常に最悪のさらに下を想定しろ。奴はそれをさらに上回る最悪を繰り出してくる』
『それ、想定する意味あるのか?』
『少ない動揺で済ませられる、という見過ごせぬ利点がある』
『そりゃ素晴らしいこって!!』
神器『ピスカンタ』
この鎧を装着した場合、使用者の意識を奪いミレニアムの意識が表層化し、装着する寸前に使用者が抱いていた願いを『戦い』という枠組に嵌めこんだ上で叶える。
いわば呪われた防具として各勢力では伝わっていた。
けれどもこれは、正しい用途を知らなかった場合に起こる事態である。
ミレニアムの意識の事を知ってさえいれば願いの内容を戦闘に限ればいいだけの話であり、自身の意識を残す術もしっかりと存在する。
単純に願いの中に『意識を残す』事を含めばいいのだ。
これだけでミレニアムに完全に主導権を渡す事を防げるのである。
『背後から! 俺が動かす!』
『承った』
そしてこの場合には意識を奪われていた際には得る事ができなかった大きすぎるメリットができる。
二つ分の意識を同居させているため、思考は単純に考えれば二倍。
更に好き勝手に自身の魂を鎧内部で動かす事ができるため、見れる視界の範囲も大きく広がり、許可を取りさえすれば自分で動かす事が可能なのだ。
「…………ふむ」
『っ!』
『脆い体だな』
『うるせぇ。弱体化しても目で追えないあいつがおかしいんだよ!』
『その点に関しては同意してやろう』
とはいえ利点ばかりではない。
これは意識云々以上に肉体を収納しているかどうかが大きく関わってくる問題なのだが、ミレニアムという存在が使用者の魂を燃料に動いている以上、ひどく損傷し結びつきが弱くなる。または内部にある肉体が死に果てた場合、装備状態になっているこの神器は強制的に解除されてしまうのだ。
『鎧越しに伝わる衝撃、『鎧通し』とかいう技術だな』
となれば二年前ほどの不死性をミレニアムは備えておらず、攻撃を続けられデュークが瀕死、ないし死亡した場合、彼らの敗北は決定的なものになる。
「残された時間は少ないのでね。現世に蘇って早々申し訳ないが、君には退場してもらう」
「釣れない事を言うな『果て越え』。心行くまで楽しもうではないか!」
『それまで死んでくれるなよデューク・フォーカス!!』
『最大限の努力はしたし、これからもする。後はお前次第だミレニアム!!』
当然それを防ぐための策も施した。
ミレニアムの心技体に関しては鎧を装着した時点で所有者が決める事ができるのだが、神器の鎧という絶対の守りを更に強固にするために防御面に割り振り、反射神経や速度、それに『放出』の練気操作にもかなりの比重を置いた。
反面攻撃面に関しては神器を着こんだ拳でガーディア・ガルフには十分にダメージが与えられるため属性粒子を含めほとんど割り振っておらず、拳による迎撃、時間稼ぎによるガーディア・ガルフの自滅を狙うのをコンセプトにしている。
「燃えろ」
「効かんなぁ!」
「っ」
その事についてはガーディア・ガルフも十分理解しており、中でも自滅だけは避けねばならないと考え攻勢に出る。
その過程で神器を溶かせる熱量の炎による攻撃は躱されカウンターを撃ち込まれる事も理解。
「いいだろう。君の土俵にあがろうじゃないか」
「そう来なくてはなぁ!」
であれば彼が取る手段は単純明快。
今現在発揮できる最速で距離を詰め、己が技量をふんだんに活かした接近戦である。
「はぁ――――」
凄まじい速度と連打回数で、鎧の内部にダメージを蓄積し両者の繋がりを断たんと考える果て越え。
「HAAAAAA!!」
彼に対抗するために雄叫びをあげるミレニアムは、デュークが己が力を割り振ったことでかつてない領域に至った反射神経を存分に生かし、攻撃を捌き、反撃を繰り出し、それをいなし撃ち込んできた攻撃を更なる一撃で返す。
「「っっっっ」」
地上の光が届かぬ大空洞で、極限の領域に至った二者が荒々しく動き続ける。
勝利の二文字を掴み取る、その瞬間まで
ただ一つ言えること。それは
「っ!」
『み、ミレニアム!』
『限界、だな』
かつてない勢いの吐血を行い、体を大きく震わせたかと思えば後退するガーディア・ガルフ。
それを見てミレニアムとデュークは、自身の体調を顧みてガーディア・ガルフは、理解する。
決着の瞬間は、もうすぐ側まで迫っているのだと。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です
VSガーディア・ガルフ、クライマックス。
長かった戦争編の終わりが本当の本当に近づいてきました。
戦場に降臨したミレニアム。彼の援護を行うデューク。
そして満身創痍ながらもなおも立ち塞がるガーディア。
彼らの向かえる『終わり』を見守っていただければ幸いです
それではまた次回、ぜひご覧ください!




