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デューク・フォーカスVSガーディア・ガルフ


「容赦はしねぇ。一気に決めさせてもらう!」


 百メートルほどの距離を一気に詰める傍らで、デュークは腰に携えている巻物から様々な粒子術を発動。


「可笑しなことを言うじゃないかデューク・フォーカス」

「っ!」

「容赦、などという言葉を使えるほど君に余裕はないはずだが?」


 三度叩きつけようと振り下ろす鉄槌を、しかし目前の『果て越え』は今度は受け止めない。

 他の者の攻撃に対応したときと同じように、紙一重で躱すと鉄槌の柄を掴み、勢いよく引き寄せ、近づいてきたデュークの顔面を汚れが目立つ革靴で蹴り飛ばした。


「ちっ」


 鼻先を強打し顔を歪めるデューク。

 その姿を視認し更なる追撃を仕掛けるため、距離を詰めようとするガーディア・ガルフ。

 しかしその時になり蹴りを撃ち込んだ足とは真逆の足を襲う鋭い痛みを自覚し、前に出るはずであった足を止め舌打ちを行い、


「!」


 その瞬間、大空洞一帯を覆うよう、投げ槍の形をした雷が、雨のような勢いで降り注いだ。


「もう味方はいねぇんだ。こっからは範囲攻撃も解禁だ!」


 言葉が示す通りデュークを起点として巨大な大渦が生じ、ガーディア・ガルフの体を呑み込む。

 その状態で無数の鉄の刃を流し、抵抗するガーディア・ガルフに突き刺そうと彼は考えるのだが、


「下らないな」


 無数にある選択肢全てを嘲笑うように、空へと向け勢いよく伸びていく炎の柱を展開。

 襲い掛かる水を蒸発させ、突き刺さるはずの鉄を溶かし、降り注ぐ雷の槍を弾き飛ばした。


「うらぁ!」


 しかしそのような結果になってもデュークは落胆一つ示さない。

 相手が相手ゆえにこのくらいの事は普通であると受け入れ、手にしていた鉄槌を再び振り抜く。


(目くらましか?)


 とはいえデュークが振り抜いた鉄槌は先程までと比べ少々違う。

 柄の部分から敵に痛みを与える金属部分まで、全てが真っ黒な霧に包まれ、衝突の瞬間を分かりにくくしていた。


「燃えろ」


 ただデュークの小細工にガーディア・ガルフが付き合う義理はなく、薄く伸ばした炎を剣を振り抜くような動作で動かす。

 結果それは迫っていた真っ黒な霧を斬り裂くのだが、手ごたえは一切なかった。


「なに?」

「らぁ!」

「っっっっ!!」


 その事実を不審に思う一方で、気にした様子を一切見せず振り抜くデューク。

 その瞬間ガーディア・ガルフの体を襲いかかったのは、自身の体にいつの間にか壁が接触していたような感覚。

 次いでそれが自身の体を強く押すような感覚を抱き、彼が不快感を覚えているとそのまま撃ちだされ、音を遥かに超えた勢いで岩肌へと向かっていく。


「攻撃だけ綺麗に避け、私に当たった絡繰は…………神器の特性をうまく活かしたのか」

(気づくのが早すぎんだよ!)


 ただそのまま衝突し肉がぐちゃぐちゃになるという事はなく、空中で体勢を整えると岩肌に両足で着地し、自身が辿り着いた答えを告げ、それを耳にしたデュークが表情を歪め内心でそう吐いた。


「君の姉君も使っている手だね。気づいてしまえば十分対応できる」


 神器はあらゆる能力や異能、それに常ならざる特殊な力を無効化する力を備えているのだが、この効果はオンオフを自由に選べるわけではない。常時発動している類の物である。

 なので所有者が負傷した場合を例にすれば、蒼野の時間回帰を筆頭に瞬時に傷を修復できる能力の恩恵に預かることはできず、さらに言えば仲間が使った肉体強化の能力なども自分だけ受けれないという事が多々あるのだ。


 デュークが利用したのはこの特性で、彼が今使ったのは指定したものを黒い霧に変化させる効果を備えたものだ。

 本来これは戦闘時に使う類の能力ではなく、物の移動を筆頭に人が隠れる際に使ったりする能力である。

 

 しかし相手が強制的に能力を無効化してしまう類の輩、すなわち神器使いとなれば、話は大きく違ってくる。

 触れた瞬間に能力が解除されるという事は、気体となっていた物体が液体、または固体に戻るということで、この特徴を利用することでデュークは能力解除と共にガーディア・ガルフの体に鉄槌が触れている状態を意図的に作り上げていたのだ。


「信っじらんねぇ!!」

 

 がしかし、種さえばれてしまえば人類で唯一『果て越え』という座に就いた男ならば十分に対応できる。

 自身の体に黒い霧は振れることで暗闇の中でもはっきりとした存在感を放つ鉄槌の姿が顕わになり、デュークが振り抜くよりも早く拳を撃ち込み、自身に及んでいたはずのダメージをゼロにするに留まらず、相手の体勢を崩すまでに至る。


「そこだ」


 撃ちだされた刃のような切れ味を備えた鋼の鞭が、デュークの体にまっすぐな線を作り、勢いよく血が飛びだす。


「ふ、ふざけんな!」


 このままではいけない。

 それが分かっているゆえにデュークは巻物から『点』ではなく『面』を覆うように強力な属性攻撃を続けざまに繰り出し、その一方で自身の傷を癒す術式も巻物から発動させる。

 しかし回復したと同時に散歩でもしているかのような気軽な様子でガーディア・ガルフが現れ、鉄槌の柄を握っていた両腕を吹き飛ばした。


「ふざけんな!!」


 すぐに両腕を繋ぎ直し攻撃に移ろうとするが、そうするよりも早くガーディア・ガルフはデュークの髪の毛をしっかり掴み、岩肌に向け投げつける。

 しかしデュークはガーディア・ガルフと同じように衝突するよりも早く体勢を立て直し両足で無事着地するのだが、視線を真正面へ向ければ自身へと向け蹴りを撃ち込んでいるガーディア・ガルフの姿があり、反応こそしたものの対処が間に合わなかったデュークは頬を蹴られ、真横に飛んで行くと今度こそゴツゴツとした岩肌に衝突し、強い衝撃に顔をしかめたと思えば濡れた地面に崩れ落ちた。


(マジでふざけんなよこの化け物が。お前、どう見ても限界じゃねぇか!)


 本来ならば凄まじい機動力で攻めて来るはずのガーディア・ガルフであるが、今現在の彼の動きは最小限かつ視認できるくらいには緩慢だ。

 その原因が康太が与えた片足へのダメージな事はすぐに理解できたのだが、その傷を放置しておく理由がなく、治せない時点でかなり疲弊している事が理解できる。


 いやそれだけではない。攻撃の勢いも以前と比べ遥かに劣っている。

 判断力、いや考えるための脳の働きも、頭を押さえ、口から血を吐き、体を左右に揺らしている状態では正常であるとは決して言えない状態だ。


 にもかかわらず、彼はデューク・フォーカスを一方的に押している。


 蒼野やゼオスなどとは桁違いの、

 康太やレオンのような二つ以上の神器を持っている存在さえ超える、

 それこそ一戦だけに限ればアイビス・フォーカスやシャロウズ・フォンデュさえ上回れる、現代最高峰の一角。


 そんな彼を一方的に押しきっている。

 自分の強さに関して絶対の自信がある彼からすれば、信じ切れないものである。


「っ」


 がしかし、ガーディア・ガルフを識る多くの者は口を揃えているだろう。


 『当たり前の結末』であると。


 なぜなら彼を識る者は誰もが理解しているのだ。

 ガーディア・ガルフがどのような状態であるとしても、絶対に一騎打ちを挑んではいけないと。


「終わりだな」


 斯くしてデューク・フォーカスは跪き、『皇帝』の異名を備える男は満身創痍な様子ながらもそれを見下ろす。


 そんな状態になり敗者である男の脳裏によぎったのはある選択肢。


 すなわち『継続』か『奥の手』かだ。


 正直なところ彼には望んでいた展開というものがあった。

 この戦いはそれを手繰り寄せるためのものであったわけだが、残念ながら現状それは成しえていない。


 『継続』の選択肢とはすなわち、この状況でもなおそれを得るためにこのまま戦い続けるというものである。


 対するもう一方の案は『奥の手』を『晒す』ことだ。

 『使う』のではなく『晒す』という点が肝で、この場合『使う』のと違い、勝敗は決するわけではない。むしろその道へと繋げるための一手となる。


 しかしデュークはこの手段を使う事を渋っていた。 

 単純に最後の一手、『奥の手を使う』裁の成功率が著しく下がる、という意味合いもある。

 しかしそれ以前の問題として『晒した』としても自分が思うように事が進むかと言われれば、迷うことなく「そうである」と言いきる事ができなかった。


 それがこの選択肢を選ばせることを躊躇させる理由である。


「………………………………………………………………仕方がねぇ、か」


 しかしである、どれほど『使った』場合の可能性が下がろうと零ではない。

 対してこのまま『継続』を選んだ場合、次の瞬間には自分は意識を奪われているという直感、いや予感がある。


 そうなれば、選ぶ道は決まっており、


「なぁガーディア・ガルフ。あんたは知ってるか?」

「……何をだい?」


 それをうまく働かせるまでの時間を稼ぎ始める。


「粉々に砕けた神器、それがその後どうなるかだ」

「…………」


 岩肌に背を預け、不敵な笑みを浮かべるデューク。

 その姿に関心を抱いたのか、それとも別の理由であるのかはわからない。

 しかしガーディア・ガルフは行うはずであった攻撃を取りやめ、彼の胸中を探るような沈黙を貫いた後で口を開く。


「シュバルツの奴がよく砕くのでね、知ってるよ。答えは再生する、だ」


 宇宙一固いとされる神器であるが、だからといって破壊されないというわけではない。

 シュバルツ・シャークスが最硬度の神器で叩けば粉々に砕け、太陽とは比べ物にならない熱を放つガーディア・ガルフが動けば、ドロドロに溶けて消える。


 しかしそのように砕けた神器はいくらかの時間をかけると元の形となり持ち主の元に帰還し、再び使う事ができるようになるのだ。


「ご名答。ならよ」


 するとデュークはガーディア・ガルフの答えを肯定しながら再生した右手を持ちあげ、


「あいつの所有者は誰になると思う?」


 そのような事を口にする。


「デューク・フォーカス。君はなにを………………」


 その意味が分からず、探るような様子で言葉を口にするガーディア・ガルフ。


「!」


 しかし彼はすぐに言葉の示す意味を理解し、するとこれから起こる展開を阻止するために攻撃を始めるのだが、それを阻むようにありったけの守りの術技をデュークは展開。

 ガーディア・ガルフが残された力で必死に攻撃を繰り出す中、


「さあ最後の勝負だ」


 デューク・フォーカスはそれを掲げる。




 ガーディア・ガルフの瞳に飛び込んできたのは見覚えのある物体。

 黄金の輝きを放ち、主の全身を守る神器の鎧。

 しかしてその正体は意志を宿した唯一無二の特異点。


 名はピスカンタ


 二年前に世界を混乱に陥れた革命王『ミレニアム』を生みだす楔である。


「来い!」


 それをデューク・フォーカスは再び纏う。






 

ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


この物語を飾る最後の戦い。

その渦中でデューク・フォーカスが隠していた奥の手がついに提示されました。


その正体は何とあのミレニアム!


最後の最後に彼という存在が波乱を呼びます



…………少々ぶり還りながら考えていたのですが、神器に関するこの設定は初めて開示した気がする作者。これについては前々から語っていなかったとすれば申し訳ないの一言です。


アビスちゃん辺りが最初の頃に語っていたのではなかろうか……


それではまた次回、ぜひご覧ください!!

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