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去来するもの


 撃ちだされる絶え間ない攻撃。もはや戦いと口にするのも憚られる一方的な展開。

 それを行うのはこの世界で唯一、果ての先に至ったと言われる一生命の極致に至った者。


「一歩も動かずにこれほどの猛攻をっ」

「シリウス、引け」


 その場から一歩も動くことなく繰り出される炎と鋼の二属性を織り交ぜた攻撃。

 シリウス・B・ノスウェルはその中でも致命傷に至る攻撃だけはなんとか防ぎながらそう漏らし、隣に立ったクドルフ・レスターがそう指示を出しながら飛来した鋼の鞭をなんとか剣で弾いた。


「この状況で抱いていい感想なのはわかってんだがよぉ…………マジですげぇなおい」


 そんな彼らとは少々場所では康太が手にした二丁の神器と展開した鋼の盾、それに危機察知の直感を利用しシリウス同様致命傷にいたる攻撃だけはしっかり防いでいたのだが、この状況にはふさわしくないと理解しながら口から突いて出たのは、嘘偽りのない賞賛の念である。


 ガーディア・ガルフは弱っている。

 ほんの数分前まで優れた直感を利用しても躱すどころかはっきり見ることさえできずにいた攻撃の数々。今それらは急激に速度を落とし、デュークが全員に付与した視覚強化の効果もあり、本当にギリギリではあるのだが視認することが可能になっていた。


 そこから更に目を細め、脳を酷使しすぎて鼻血さえ出る勢いで意識を集中させ、攻撃の軌道まで認識出来るようになると、更に彼の凄まじさが浮き彫りになってくる。


「綺麗だ……」


 自分たちに注がれる攻撃の軌道と種類は、実のところものすごく単純だ。

 一直線に、ただひたすら前に突き進む炎の攻撃。

 時に相手の意識を分散させ炎が通るだけの道を作り、時に自身が主役となって相手に突き刺さる、というように二種類の使い方をしている鋼の塊。

 ガーディア・ガルフはこれらの二種類の形を自由自在に操り適切に使いこなすことで、一歩たりとも動くことなく一方的に攻め続けているのだ。


 言葉にすれば本当にシンプルな答え。

 誰でも考える事はできる、しかし常人ならば決してやってみようなどとは思わない至難の業。

 それを彼は世界最高峰が幾人か存在するこの場で実行し、様々な策を退け一方的に攻めている。

 そのあまりの凄まじさと美しさにそのような言葉がこぼれ出たのだ。


「アンタなに呆けてるのよ。あの二人に続くわよ!」

「っ」


 見た事もない世界の光景に思わず見とれ、半ば夢心地であった康太を現実に連れ戻した者。

 それは彼にとって仲間であり宿敵でもあり、誰よりも忌々しく思っている尾羽優で、彼女が駆け出した先では、過去最大の完成度を誇る連撃を打ち出す『果て越え』に挑むエルドラとデュークの姿があった。


「全力の『果て越え』なら、お前さんの敷いた肉体強化やら防御術技くらい楽々乗り越えてくる! お前さんが時間を稼いでいる隙にシロバの野郎が言ってた情報は本当みたいだな!」

「この土壇場で疑うなっての! んなことより一撃当てる事に意識を注いでくれ!」


 彼ら二人はガーディア・ガルフが撃ちだす攻撃を浴びながらも前に進み、デュークは握っている鉄槌の柄に込める力を増していき、


「一撃だ! 一撃当てる事だけを考えてくれ! 今の弱りきったこいつなら、恐らくそれで沈められる!!」

「応とも! 任せときな!」


 的が大きいため最も多くの攻撃を受けているエルドラは、しかしそれを感じさせぬほど力強い声をあげ、ただの人間とは比較しようがないほど大きな一歩を踏み、


「怒羅!」


 短く、しかし気合いの入りようが十分に感じられる声をあげながら、自身の手が届く距離射程まで近づいたと理解し拳を撃ち込み、


「…………無駄だ」


 ガーディア・ガルフはそれを躱す。これまでと変わらない。紙一重で、顔色一つ変えずに。


「怒羅怒羅!!」


 と同時に鋭い鋼の鞭が全身に撃ち込まれ、デュークの守り付与されたエルドラの鍛え抜いた肉体を幾分か傷つけ、疲労と痛みによりエルドラの全身から力が抜けていく。

 がしかし彼はなおも拳を撃ち込み続ける。


「怒羅怒羅怒羅怒羅!!!!」


 執拗に、執念深く、指先にすら満たないほど小さな男を潰さんと、一撃撃ち込むごとに声と速度をあげていく。

 千年前自分を敗北に追い込んだ宿敵に、ここで勝利するのだという意地を貫き続ける。


「怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅怒羅!!!!!!!!」

「いい加減しつこいぞエルドラっ」


 そんな彼の態度が癇に障ったのか、それとも別の理由からかは誰にもわからない。

 しかし普段と比べ強めの語尾で言いきったかと思えば凄まじい威力と数、それに速度の鋼属性の攻撃が撃ち込まれ、エルドラの両腕と先程再生したばかりの両足を瞬時に斬り落とした。


「怒羅ぁ!!!!」


 しかしなおもエルドラは一歩も引かない。

 背中から生えている巨大な羽で羽ばたき体を前に傾けると、最後の足掻きとでも言うようにそのままのしかかり、


「危ないじゃないか」


 それを認識すると『果て越え』は鞭ではなくデュークが使うものと同じような鎚の形で何度もエルドラの肉体を叩き、自分へとのしかかるはずの体を押し返し、巨体は仰向けの状態で地面に沈んだ。


「畜生が!」


 まだ意識はある。しかし四肢がなく羽の力だけでは体を持ちあげられない。得意の地属性も炎属性も、この状態では十分な機能を発揮しない。

 とくれば彼の出番は終わりであるが、


「やってくれたな! 流石は竜人族の長だ!!」


 彼が与えた影響はあまりにも大きい。何せ一瞬とはいえ攻撃の対象を自分一人に絞ったのだ。

 自分たちへの攻撃が和らぐどころか止まったこの一瞬こそが最大の好機であると悟り、残る九人全員が動き出す。


「おぉぉぉぉ!!」


 最初に動き出したのは理屈ではなく直感で場が好転した事を理解した康太である。

 彼はあらゆる動きを短縮する技能『クイック』で素早く銃を構え、照準を合わせ引き金を絞る。

 その際に撃ちだされた銃弾は威力こそこれまでと比べれば遥かに劣っていたのだが、ぐんぐんと距離を詰める過程で先端部分が空気抵抗に敗北し吹き飛び、その中から米粒よりも小さな弾丸が吐きだされる。


「この状況で突き進むとは豪胆な……」

「馬鹿ね。足が吹き飛ぶくらいで人類史上最強を殴れるなら超お得じゃない!」


 ガーディア・ガルフは躱せば終わりのそれをご丁寧に全て燃やし尽すのだが、それを真正面から受けながら優が攻撃を仕掛け、その背後からシリウスとクドルフが攻撃。

 彼らは霞んでいた意識を何とか現世に繋ぎ止め、残っていた力全てを振り絞り、エルドラ同様攻撃だけに意識を向ける。


「もはや動けないエルドラを含め、これで残り7人だ」


 しかしそれだけの覚悟をしても、ガーディア・ガルフには届かない。

 炎と鋼の守りでは捌ききれないと判断すると彼は両手を使いだし、防戦に陥った状況を容易く覆し彼らの顎を捉え意識を奪った。


「いや、残るは6人……5人か」


 己が肉体を解禁した彼は、続けて向かって来る黒服サングラスの老いを感じさせる老人と、全身を鋼鉄化させた竜人族の男を瞬く間に退け、


「これで残るは四人」


 更に倭都の生き残りを退けた。


「ガーディア・ガルフ!!」


 しかしなおも足掻くものは残っており、それは康太でもシロバでもデュークでもない。

 恐らくこれまで目だった戦果を挙げた事もない、それこそ偶然でここまで生き延びたであろう、季節外れの白いキトンに身を包んだ康太や優と同年代の青年が飛び出し剣を振り抜き、


「!」


 それを見た瞬間、彼は目を見開き硬直。

 そのまま攻撃が通るかと思えば普段通りに躱すのだが、何とも言い難い視線をその青年に向け、


「…………」


 他の者のようにその青年の意識を奪う事なく足払いで転ばせ、尻もちをついた彼をじっと見つめ、


「君の」

「!?!?!?」


 喋りかけられるとは思ってもおらず困惑する彼に対し、


「君の師は…………ゲゼル・グレアか?」


 つい今しがた見た、絶対に忘れる事などできない男が見せた者と同じ太刀筋の正体を尋ねた。


「そ、そうだ。私は三年ほど前に死んだゲゼル殿に師事を」

「そうか。そうなんだな」


 すると青年は嘘偽りのない事実を告げ始めるのだが、最後まで聞き終えるよりも早く天を仰ぎ、


「そこだ!」


 見せた事がない、数秒にもわたる大きな隙。

 それが罠の類ではないかと訝しむデュークとシロバだが、康太だけは一早くそうではないと判断し、再び腕を失う覚悟で全身全霊の一撃を叩きこむ。


「無駄な事を!」


 その一撃を彼は避けない。

 数分前に行った再現とばかりに、真横から蹴り上げ――――そこで異変に気がつく。


「どうやら…………マジで弱ってるみたいだな」

「っっっっ」

「普段のテメェならたぶん、避けないにしても完璧に対応してたよ」


 康太が撃ちだした銃弾は先程と同じように見え、実際には幾分か速度が落ち、その代わりに強力な回転が施されていた。

 それを先程と同じように蹴り上げた結果、ガーディア・ガルフは機動力の要である足を大きく損傷し、


「デュークゥゥゥゥ!!」

「シーバ・F・ファイーバート。君ー!」


 玉砕覚悟で自分に抱きついてきた彼に対し、聞き取れない速度の言葉を発し、


「十裁冠!」


 その意図を汲んだデュークが、手にしている鉄槌を振りかぶりながら巨大化。

 空に浮かぶ月さえ隠す程のものに変貌させ、ガーディア・ガルフの頭上に浮かびあがった巨大な土色の血の紋章を叩き抜いた。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


少々遅くなってしまい申し訳ない。本日分の更新です


申し訳ありません。本来なら今回の話でもう少し先まで進む予定だったのですが、

思ったより文量が増えてしまったので断念しました。無念です。


それはさておきガーディア・ガルフが提案したこの戦いも次回で終了

残った面々による最後の衝突となります(本来ならここまで終わらせる予定でした)

この戦いの終わりに待ち受けているもの。

それはある人物を除き、誰も予想していないものであった

てな感じで話は進んでいきます。お楽しみに!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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