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不退転の覚悟を胸に


「おいおい、この状況で何を言い出すんだお前は?」


 『果て越え』ガーディア・ガルフが行った提案は連合軍側にとって全く想像していなかったものであったのだが、それは肩を並べて戦う仲間達にも当てはまり、この場にいるもの全ての意見を代弁するように、懐刀という異名を備える男が頭を掻きながらそう尋ねた。


「口にした通り彼らに対する大チャンス…………というのもあるが、そうだな、あえて言えば贖罪かな」

「贖罪?」

「そうだ。この戦いにおいて私はイグドラシル以外の犠牲者を出す予定はなかった。目標だけを仕留めればそれで終わりなはずだったのだ。しかし私は結果的に他の者を殺めてしまった」

「そうなのか?」


 ガーディア・ガルフが誰と戦ったのかについては共に内部に入ったシュバルツ・シャークスさえ知らない事だ。

 すると彼が目的を達成する事ができなかった事を珍しく思ったエヴァ・フォーネスが声をかけ、ガーディア・ガルフは頷き、


「ヴァン・B・ノスウェルという千年前に戦った竜人族の男を覚えているかね。私は彼の決死の覚悟を阻む事ができず、掬えるはずの命を零してしまった」

「…………まぁ覚えてはいるんだけどさ、聞いてる限りでは現場の状況を想像しきることはできんな。けどま、そこら辺の理由は建前だろ?」

「は? どういう事だ木偶の棒?」


 彼の口にした内容を聞きエヴァ・フォーネスとアイリーン・プリンセスは何も口を挟まなかったのだが、シュバルツ・シャークスだけは両脇に手を置き、やれやれと言った具合で首を左右に振りながら息を吐くと、二人の女性にとって意外な内容を告げる。


「どういう事かしら?」


 ゆえにエヴァ・フォーネスに続きその真意を尋ねるアイリーン・プリンセス。


「昔っからある癖だ。思いだしてみろ。これまでも何度かあったじゃないか。『未来ある若者の可能性を知りたい』とかなんとか」

「「あぁ~」」


 語られる内容を聞き、二人の女性の口からはため息ともとれる声が漏れる。

 今を生きるデューク達は知らぬ事実なのだが、確かにシュバルツ・シャークスの言う通りガーディア・ガルフは昔からそのような理由で戦いを行う事があった。

 他の者からすれば疑問を呈する理由であるのだが、『果て越え』である彼からすればこれは譲れぬ理由であり、他の面々が静止したところで、何らかの理由づけや言い訳をして、絶対に押し通そうとする傾向があった。


「シュバルツ。君の指摘にも一理ある事は認めよう。がしかし、口にした内容には嘘偽りは」

「わかったわかった。そう矢継ぎ早に話そうとするな。最初から止めようとは思ってないさ」


 「私だけじゃ満足いかんのかねぇ」などと思いながらもシュバルツ・シャークスは友の行動を止める事はなく、マシンガンの銃弾のように飛び出しかけた言葉を静止させ、


「その代わり、きっちりと勝て。まずいと思ったら引けよ」

「はぁ? お前誰に命令してるんだ?」


 普段ならば絶対に言う事がない、人類史上最強たる男の身を案じた言葉を告げ、それを隣で聞いていたエヴァ・フォーネスが口汚く罵るのだが、二メートルを超える巨漢は何も言い返す事なく炎の道を歩み出し、アイリーン・プリンセスも無言でそれに続き、


「あ、そうだ。一つだけ気になった事があったんだよ」

「どうしたのかね?」

「さっき恩知らずの尾羽優と戦ったんだがな。実はあいつ」

「何してるのエヴァ。帰るわよ」

「待て待て。今ガーディアと話してる最中……!」

「エヴァ、今は彼らについて行きなさい。話を聞くだけなら、帰ってからでも充分なはずだ」

「…………わかった」


 ガーディア・ガルフと楽しそうに話していたエヴァ・フォーネスは、横やりを入れられた事で不機嫌な様子を示すのだが、愛する人にそう言われると後ろ髪を引かれるように背後を気にしながら彼らについて行った。


「行儀よく待っていてくれたのはありがたい」


 そうして肩を並べる仲間達が去って行ったのを確認するとガーディア・ガルフは待ち続けていた者達の方に視線を向けながら炎の道をかき消し、


「そりゃ途中で手出して、エヴァ・フォーネスやらシュバルツ・シャークスの怒りは買いたくないからな!」


 それが戦いの始まりを告げるゴングだと認識し、勇ましげに声を上げながらデュークが他の者を率いながら駆け出した。




 死したヴァン・B・ノスウェルの遺した情報は信憑性があるものであった。

 そう彼に確信させたのはガーディア・ガルフが連合軍側の戦力を崩すときに見せた動きにあり、彼は練気で半数以上を削ったあと、炎属性を用いた攻撃で更に数を減らしに来たのだ。


 この動きこそ彼が弱体化している証拠であると残された情報は訴えかけていた。


 なぜなら本来の彼ならば炎など使わず元々の身体能力で制圧することが可能で、わざわざ炎属性を使うという事は、普段通りのパフォーマンスが期待できないということとの事だった。

 この記述に関しては前回彼が衝突した経験からも納得できる者であり、これに加え自身との戦闘中に常日頃ならば決して起こさない息切れをしたことも記されており『四六時中動き回っても息切れ一つ起こす事はない』という情報との差異もあり、勇み足を踏むに至ったのだ。


(この化け物が! 弱ってるってのは分かるが、それでも信じられねぇほど強いぞクソ!)


 その想定が正しかった事をデュークは認めていた。

 以前大敗を喫した時と比べれば、修行後であるとはいえ何とか視認できる速度にまで衰えていたからだ。


 その結果何とか同じ土俵に立ち上がる事ができるラインまで弱体化したからこそ、彼我の実力差を明確に理解できてしまっていた。


「尻尾を巻いて逃げ出さなかったか。嬉しいよ」

「ほざけ。臆病風に吹かれようとも、この状況で逃げるほど儂は能無しではない」


 声による命令と優れた剣技を兼ね備えた千年前の生き残りナラスト=マクダラス。彼がエルドラと息の合った連携を見せながら、他の者達の援護を利用し攻撃を繰り出していく。


 ある時は早く鋭い鋼の太刀を。

 ある時は広い範囲を覆う竜の掌や尾を。

 目前の存在の命を砕くため全力で振り抜くそれは、鍛え上げた末に素晴らしい練度と速度を兼ね備えたものであった。

 

「尾羽優か。ゲゼルの奴が得ていた神器を持っているのは君かい?」

「どうしてそ!?」

「なに。ちょうど心当たりがあったのでね」


 しかしそれは敵対している『果て越え』の服さえ掠めることなく、それこそ巻き起こる衝撃の余波まで完全に見切った上で躱され、間髪入れず攻撃を仕掛ける優に話しかけたかと思えば、その返事を最後まで聞くことなく話したいことを一方的に話して、数度拳を交えたと思えば、優の着ている服の袖を引っ張り横転させ、自分はといえば他の者の場所まで軽やかな足取りで向かっていき、


「君は確かマクダラス家の若頭」

「……雲の上に立つ存在の癖に、ずいぶんと下界に関して詳しいな。それにお喋りだ」


 今度は冬空にふさわしい黒のトレンチコートを着こんだ人相の悪い男の側にまで近寄り、溶かした鋼を加工して作りだした青龍刀を使い、細長く伸びた刀と火花散らせるぶつかり合いを始め、ちょうど十度目の衝突で拮抗状態を破り、蹴り飛ばした。


 そこまでの『果て越え』の一連の動きを少々離れた位置で見ていたデュークが感じたのは混じりけのない純粋な『美しさ』であった。

 

 それはスポーツなどで競い合う選手たちが見せるものに極めて近く、一つ一つの動きに迷いがなく、加えて無駄もない。言うなれば、全ての動きが最適化されているのだ。


「俺も姉さんも知識量には自信があるんだけどな。動体視力の違いか? それとも時間の差か? 何にせよ傷つくな」


 それを成しえるには膨大な知識量が必要である事くらいデュークとて分かっており、月の光に照らされた面持ちには嫉妬や不快感を含んだ表情が浮かんでいた。


「ま、文句言っても仕方がねぇな。後退の道を好き好んで断ったのは俺なんだ。ならまあ責任を果たさなくちゃな!」


 これが何らかの協議を鑑賞しているだけならばじっとしていられるのだが、今彼がいるのは戦場だ。

 そのような表情をすぐに引っ込めると、覚悟を決めた顔を見せ、僅かに屈み、


「集え! 我が全て!!」


 気合いの籠った雄叫びが戦場に木霊すると彼の周りの地面には己を象徴する十色の丸印が展開され、闇夜を斬り裂くような光を放ったかと思えば虚空に浮かび、


(目標地点まで到達するにはどれくらい必要だ? 間に合うか?)


 誰にも見せていない秘策を脳裏に浮かべながら、巻物にストックしてある全てを使いきる覚悟で、最前線へと向け駆けて行きはじめた。



 



 


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


正真正面の最終決戦開始!

最後の戦いは人類史上最強たる『果て越え』ガーディア・ガルフとの決戦です!


怒涛の展開が続く此度の戦い。最後までご閲覧していただければ幸いです!


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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