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ガーディア・ガルフとイグドラシル・フォーカス


「いつか私に手が届く存在が現れる。なるほどそれは素晴らしいことなのだろう。しかしヴァン。『いつか』では遅いんだ。大切なのは『今』現れることなんだ」


 灰となり完全に消えた強敵を見送り、ガーディア・ガルフは先へと進む。

 失った右腕は金色の炎を傷口に当てると瞬く間に生えていき、当初と変わらぬ万全の姿を保つと、最上階へと伸びていくる段を登っていく。


「この戦いで現れなければ、君達は守るべき存在を守れない。それでは意味がない。例えこれから先に現れようと、意味がないんだ」


 汚れ一つない真っ白な石の階段を重い足取りで昇りながら、彼は誰に伝えるわけでもなくそう告げ、螺旋を描いている階段の最後の一段を登り、そこからまっすぐに伸びていく白で染まった廊下を我が物顔で歩き続け、


「久しいなイグドラシル」


 最奥にある扉を開くと、待ち構えていた人物に対し視線を注ぐ。

 長い時を生きながらえてきた事実を訴えかけるような木製の家具を部屋のそこかしこに置き、机を挟んだ最奥でロッキングチェアに座り静かに待つ女性。

 緑色の長髪を蓄え、真っ白なキトンに身を包み、神妙な表情で訪問客を見つめるのは、はこの世界を統治している神の座イグドラシル。


「ええ。お久しぶりですねガーディア・ガルフ」


 彼女は感情を感じさせない声色に対し同質の声色で返事を行い、それを聞くとガーディア・ガルフは部屋全体を見渡す。


「誰がやったのかまでは分からないが、うまくやったようだな」


 その結果彼の目が捉えたのは崩壊している部屋の隅周辺で、そこには意識を失っているアーク・ロマネの姿があり、それを目にして、彼は口では平然とした様子を取り繕いながらも、少々ではすまない驚きを得ていた。

 彼の本来の予定では彼女こそ、最後の関門になるはずであったからだ。

 

 神の座を守護する『最後の盾』アーク・ロマネ。彼女に関してはシュバルツ・シャークスの調査により十二分に理解していた。

 彼女が持つ神器『法の盾』の能力『防御結界』。

 この神器が持つこれ以上ないくらいシンプルな能力名が備えた効果。それは対象を選択し、神器の硬度を備えた守りを全方位を囲むように展開するというものであった。

 この能力を砕くため彼は大量の炎属性粒子をストックしていたため、それを使わずに済んだことは、基本的に運が悪いと自覚している彼にとっては、予想外のことあったのだ。


「一つだけ確認をさせていただきたいのですが」

「?」

「貴方が私を殺める理由はなんですか?」


 となれば後は目の前にいる目標を仕留めるだけだ


 そう思った彼に対し神の座イグドラシルは問いを投げかけ、それを聞き男は目を細め、


「決まっている。君が決してやってはいけない事をしてしまったからだ」


 迷いも、淀みもなく、はっきりとそう言いきり、


「――――――」


 告げられる彼女の罪状。

 それを聞くと彼女は用意していたあらゆる選択肢が意味のないものとなったことを悟り、


「訪れる結末が避けられないものであるのならば」

「…………」

「ガーディア・ガルフ。最後に少しだけ『お話』をしましょう」

「なに?」

「この星の未来を託すに至り、貴方が知っておかなければならないこと。私がなぜ、このような統治を行っていたか、お伝えさせていただきたいのです」

「…………いいだろう。聞こう」


 辞世の句を告げるように、静かに、厳かな空気を纏い、伝えるべき事を語り始めた。




「思ったよりも時間が掛かってるな。何かあったのか?」

「て、めぇ!」


 らしくもない不安を孕んだ声が巨体から漏れ、『神の居城』の頂上を見据える男に苛立ちを募らせた声が届き、巨大な腕が振り抜かれる。


「ああすまんすまん。別にお前やマクダラスを無碍にしてるわけではないんだ。本当だ」

「っ!」


 常人ならば回避一択、歴戦の猛者でさえその道を辿るだろう攻撃を、しかしシュバルツ・シャークスは真正面から弾き返す。

 手にしている巨大な人斬り包丁のような神器を振り上げ、自身を掴むはずであった腕をかちあげ、対峙しているエルドラの顔が痛みが原因で歪む。


「むん!」

「っと、危ないな」


 彼は続けざまに襲いかかる黒服の男たちの攻撃を神器を握っていなかった左手の甲で全て弾き、それらの攻撃の間隔を縫うように撃ちだされるナラスト=マクダラスの鋭い一撃だけは神器で防ぎ、体を捻りながら一度振り回すと、それだけであまねく敵対者を退かせた。


「く、クソ! やっぱあのババアだけは止めとかなくちゃなんねーな!」


 押しきれない。

 惑星ウルアーデにおいて比肩する者などそうそういないと自覚している二人はほぼ同時にそのような答えに至り、そんな彼らの側に空を舞っていた竜人族の青年の肉体が落下。

 黄緑色の光を纏いながら消え去る様子を見て、エルドラがそう吐き捨てる。


「アッハッハッハッハ! そうだ! これが! これこそが私の力だ! 力を発揮する場さえ整えられれば、竜人族とて塵芥と同じよ!」


 彼がババアと罵り戦場一帯を支配しているのは、『神の居城』も含め戦場全体に対し無差別に近い攻撃を繰り出しているエヴァ・フォーネスで、神器使い相手でも問題なく押しつぶせるよう、十の属性を束ね、圧縮し、数を揃えた、単純なエネルギー弾を空から無限に打ち出している。


「耐えたか。ならば褒美を受け取れ!!」


 それらは多くの戦士を無情に押しつぶし戦場から退場させ、それに耐え、なおも襲い掛かって来る相手にはいくらか意識を注ぎ、瞬間的ではあるが大量の攻撃をぶつけ意識を奪う。

 こんな単純なことだけで彼女はこの戦争の主導権を握り、立ち向かう戦士達を絶望させ続けていた。


「詰みね」

「蒼野!」

「っ!」


 エヴァ・フォーネスを止めない限り、虐殺が如き一方的な状況は改善されない。

 となれば彼女の場所にすぐにでも行かなければならないのだが、その行く手を阻むようにアイリーン・プリンセスが立ちふさがり、今も生き残っていた蒼野が意識を失い、戦場から去って行った。


「流石はアイリーンだ。心強いなぁ」

「クソ!」

「シュバルツ・シャークス!!」


 この星を支える四大勢力で構成された連合軍側にとって、凄まじい速度で状況は悪化していく。

 アイリーン・プリンセス一人でも突破できないというのに、そんな彼女の側にエルドラの尾を掴み引きずってきたシュバルツ・シャークスが現れ、投げ飛ばされた巨体をデュークが巻物に溜めていた粒子術で何とか止めながら苦々しい声を発した。


「あら。内部で暴れてたにしては余裕があるみたいじゃない?」

「いや言うほど余裕はないよ。ただまあ、私と彼らの相性は良くてね。こうやって対処する位の事はできた」

「来たからにはエヴァが暴れるだけのお手伝いをしてくれるのでしょう?」

「もちろん。後で不満の嵐を聞くのはごめんだからな」


 たった三人。たった三人だけで戦場を支配している。


 その強さについては先日手合わせしたゆえにある程度とはいえ理解していた気になっていたデュークであったが、目の前に広がる光景を前にすれば、自分を含め多くの者の見積もりは甘かったのだと認めざる得なかった。


 幾分かの強者を退け、最後に戦場を一変させたギャン・ガイアの与えた影響は大きかった。

 ゴロレム・ヒュースベルトが使役する彫像は数と隠された能力ゆえに無視できないものであった。

 シェンジェン・ノースパスは残していれば確実に厄介な事になったため対処する必要があり、

 メタルメテオは質と量から無視できず、打倒のためにヘルス・アラモードを押さえる必要があった。


 しかしである。必要がなかったのだ。

 立ち向かう連合軍からすれば各々対処しなければならない障害であったのだが、この状況を見れば、そもそも千年前から蘇った彼らは、現代を謳歌する者達の手助けなど元より必要なかったのだと悟らざる得ない。


(ならなんであいつらを同志…………いや共犯にした?)


 するとそのような疑問が生じるのだが、そこに意識を割くほどの余裕はない。


「ん?」

「なにあれ? 嫌な気配ね」

「は、はぁ!?」


 目前に控える巨大な二つの障害を退ける事に意識を集中させなければならないから、ではない。

 『神の居城』の最上階へと向け、地面を突き破り一直線に伸びていく災厄。


 すなわち『黒い海』が、突如戦場に現れたからである。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


長い長いラスタリア大戦争編もついに終わりを迎えます。

語るガーディア・ガルフとイグドラシル・フォーカス。

地上を圧倒する千年前の戦士達。突如現れる黒い海。


いくつもの要素が折り重なり幕引きは行われます。


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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