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皇帝の懐刀


「こんのぉっ」


 エルドラとナラスト=マクダラスの参戦により神の居城裏口前の戦況は再び変化する。

 それまでシロバやクロバを圧倒していたエヴァ・フォーネスが一方的に追い込まれていたのだ。


「舐めんなクソババア! こちとら千年鍛えてんだ。生半可な攻撃が通ると思うな!」


 特に大きな影響を与えているのはエルドラで、数多の敵を退けた彼女自慢の様々な粒子術や能力をその身一つでねじ伏せていた。


「おらぁ!」


 竜人族は己が肉体を鍛え上げるのと同じように自身の身を纏う鱗を鍛える事が可能な種族だ。

 彼らが身に纏う鱗にはいくつかの種類があり、それらは各々が得意としている粒子の種類によって決まる。

 鋼属性に優れた者なら鋼鉄を凌ぐような硬度を伸ばす方角に特化され、木属性の適性を持つヴァンならば、鱗はゴムのような柔軟性を備えており、高い弾力性を誇るように育つ。

 地属性が得意なエルドラの場合は鱗と肉体が密接な関わりを持っており、身に纏う鱗は『鋼の盾』や『分厚いゴムの鎧』というよりは『筋肉の延長線』と考えた方がいい物体となっている。

 つまり鱗単体を鍛えるのと同様の効果が体を鍛える事で得る事が可能で、これに加えて他の者達の数倍の特訓をしたことにより成長した彼の鱗は、他の者では実現できない固さと柔軟性を備えた、強固な守りと化していた。


「旦那ぁ!」

「うむ」


 地属性の鱗の場合は完全に肉体の延長線上にある物体となっているため、彼が実力を発揮する邪魔を微塵もしていなかった。

 そんなエルドラに加え、千年前の戦争から今日まで生き残り、シュバルツ・シャークスさえ賞賛する実力を備えた老剣士が控えているとなれば、『超越者』の位の中でも上澄みの中の上澄みである彼女とて苦戦するのは必定である。


「ク、ソォォォォォォ!!!」


 何度目かもわからないほど発動させた能力が空を駆ける老剣士の剣の一振りで粉々に砕け、召喚した僕たちが竜の王の拳で吹き飛び意識を失う。

 その様子を空に浮かびながら見届けた彼女の口からは怨嗟の叫びが漏れ、それを聞きシロバやエルドラはほくそ笑む。

 確かな勝機が存在する事を感じ取ったのだ。

 

「「「!」」」


 神の居城の壁を破壊する音が戦場全体に響いたのはそんな時の事であり、強者達はそれが何を意味するのか理解しそちらに意識を向け、


「…………」


 彼らの疑問に答えるように勝者は姿を現した。




 その正体が誰であるか、それを説明するため時はほんの数分ほど遡る。




 善にレオンに李。今を生きる若者達がバトンを繋いだことで再び訪れた好機。それを前にして竜人族の老兵ヴァンは掌に雷を纏う。

 事ここに至り彼が使用するのは、能力『慈悲なき痺れ』。

 雷属性の粒子術『這いよる雷』による行動不能状態にするという効果を、耐性を貫通して発揮することが可能という便利な代物だ。

 これを使うには大量の雷属性粒子と他の属性粒子が必要になるため少々不便なのだが、僅かでも動きを止めれば、それすなわち勝利であると彼は確信を抱き腕を伸ばす。


「!」


 斯くして思惑通りに彼の腕は『果て越え』の体を捉え、耐性無視の効果がある以上、神器を持っていない彼には逃れる術はなく動きは止まる。


「は?」


 はずなのに、目の前にいたヴァンの耳に届いたのは聞き覚えのあるガラス細工が砕けた甲高い音で、


「これほどまで情報の重要性を感じた日はないな…………それに自分が幸運だと思った日もない」


 思わず唖然として硬直してしまう彼を前にガーディア・ガルフはそのような感想を述べ、老兵が正気に戻るよりも早く、数えきれないほどの炎の拳を叩き込み、トドメと言うように回し蹴りで頭部を叩き地面に沈めた。




 一直線に振り下ろされるアイビス・フォーカスよりも巨大な神器。

 その軌道を目にするよりも早く危機感を覚えた彼女は動き出し、その射程から逃れようと粒子を纏う。


「…………っ」

「か、躱した」


 光属性の速度強化に雷属性の反射神経強化。

 それらをフルに発揮する事に意識の大半を注いだ彼女の抵抗は功を奏し、直撃するはずだった未来は回避され、指先が僅かに斬り取られるという結果に収まった。


「…………よし」


 ただ残念な事に、シュバルツ・シャークスにとってはそれで十分であった。


「!?」

「なんだ。何が起こっている!?」


 彼が渾身の力で振り下ろした斬撃が接触した部位から、強烈な黄色い光が漏れる。

 その光景にアイビスは困惑するものの痛みなどは一切なく、逆にそれが強烈な不安感となって彼女の身を包み込むのだが、何が起きたのかはすぐに理解することになる。


「く、空間が」

「崩れる…………」


 強烈な光が収まったと思えば彼らを包み込む結界に亀裂が入り、耳に響く音を発しながら粉々に砕け散る。

 そうして白が大半を占める元の空間に戻ったところでシャロウズとアイビスは唖然とするのだが、シュバルツ・シャークスは何もせずその状況を見守っていた。


 もはや勝負は決したとでも言いたげな視線で。


「不死鳥の座。一体何が…………」

「使えないの」

「なに?」

「能力が使えないの。ううんそれだけじゃない、自己再生の異能も発揮されない!」

「なんだと」


 そんな中、悲鳴を上げる彼女の姿をシャロウズは信じられないとでも言うような視線で見つめ、


「あらゆる能力や異能を無効化する『破片』を相手に差し込む。それが私の持つ神器『ディアボロス』の能力だ」


 シュバルツ・シャークスは隠し続けていた能力について堂々と宣言。

 その内容はまさにアイビス・フォーカスに限らず能力や異能に重点を置く戦士を完全に封じ込め、抹殺するような代物であり、


「弾数が限られてるのが惜しいところなのだがね。とにかくだ」


 彼は二メートルを遥かに超える巨体を僅かに屈め、強烈な戦意を迸らせながら力の大半を発揮できなくなったアイビスへと向け疾走。


「シュバルツ・シャークス!」

「か弱い女性を守る、か。騎士の誉れだなそれは!」


 彼女を守ろうと立ち塞がるシャロウズを前にしてもさして驚くことはなく、神器を握る両の掌に力を込め、それを見たシャロウズもまた手にしている薙刀の柄を強く握り、一切の恐れもなく前進。

 射程圏内に入ったかと思えば、幾度となく刃同士をぶつかり合う。


「勇ましいな。だが」

「ぐっ、うぅっ」

「分身の私と同程度ではちっとな。いや充分強いとは思うんだけどな!」


 ただその差は歴然だ。

 全力にはほど遠い実力であった分身体と同程度の腕前では、本体が行使する嵐のような猛攻と拮抗することなどできるはずもなく、最初の衝突で大きく曲がったかと思えば次の一撃で神器でもない薙刀は真っ二つにされ、三撃目を躱したかと思えば胸倉を掴まれ、残っているマントや馬の神器による援護をするよりも早く地面に叩きつけられ、全身の力が抜けていき視界がぼやける。


「名残惜しいがお別れだ!」


 そのような状態の賢教最強から手を離し、戦いの終わりを予期し声高にそう告げながら残った神教最強へと向け前進するシュバルツ・シャークス。


「それはちょっと気が早すぎよ」


 絶対の自信を胸に秘め、己が神器を背負うような形のまま迫る彼は、しかし間合いまで詰めたところで自身の懐深くに一瞬で飛びこんだ彼女の姿に目を見開き、


「そりゃ剣術に関してはゲゼルさんだけど、肉体のうまい使い方や打撃戦の心得を教えたのは私よ!」


 闘気を滲ませた声を耳にしたかと思えば、腹部を抉るような拳を叩きこまれた。


「私はそんな彼を退けた男だよ」


 が、相手が悪い。

 原口善、レオン・マクドウェル、ブドー、それに鉄閃という四人の近接戦のエキスパート。

 シュバルツ・シャークスはそれらを一度に退けた程の腕であり、彼女が撃ち込んだ打撃全てに耐えると勝利を確信した笑みを浮かべ、


「ぬん!」

「っっっっ!!」


 両手を交差させた簡素な守りごと自身の拳骨で叩き、目前の敵対者を地面に沈めた。

ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


分岐点突破。物語は峠を超えます

多くの人達を巻き込んだ戦いはどこへ向かうのか


それではまた次回、ぜひご覧ください

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