少年少女、観光するinラスタリア 一頁目
「いねぇじゃねぇか。一体どこ行ってんだよあの人は」
蒼野達から離れてから三十分が経過した頃、病院の出口からイライラした様子を一切隠さない様子の善が姿を現した。
彼は先日の夜の内にとある人物とこの病院で診察の約束をしておいたのだが、約束の人物は時間になっても現れず、しかもそんな予定は入っていないと受付の人物にまで言われてしまった。
そのためこの場所に来た大きな目的の一つであるヒュンレイの体調回復は見込めず、病院のベットを貸してもらい自分はその人物を探すために外へと出て行った。
「一体どこにいるんだか……ん?」
そう言いながら歩き出そうとする善だが、彼はそこで思いもよらない人物を目にした。
「だめだ! 当たってるのに倒れない」
「おしいねあんちゃん。またやってくれよ!」
善が思いもよらない人物を見つけた頃、蒼野達一向は神の住む居城へと続く道にある城下町にいた。
彼らがこの場所を選んだ理由は、人通りが多く、暗殺などをするには不適切な場所と判断したためである。
「アタシもダメね」
そんな事情を抱えた一行だが、彼らが今現在いるのは城下町のメインストリートから少し離れたところにある射的場だ。
その場所に彼らが立ち寄ったのは蒼野が欲しいものを見つけたからで、周囲には十分な人がいるのを確認し、この場所に来て初めての遊興に浸っていた。
「全弾命中はしてるんだ。なのに倒れない」
「ボンドで地面とくっつけてるんじゃないのあれ?」
彼らのいる場所は野営用のテントと幾つかのベニヤ板を合わせて作った簡易的な遊技場であったのだが、代金を払い行った射的の結果に蒼野は肩を落とし、優に至っては店主に対し口を尖らせる。
「そんな事ばれたら訴えられちゃいますぜ。これは正真正銘、フェアな勝負です!」
「くそ~」
「はぁ……貸してみろ。どれが欲しいんだ?」
悔しがる様子の蒼野をチラリと眺め、康太が呆れた様子で蒼野の肩を叩き狙いを聞く。
「あれだ、あの『ピースウッド冒険譚』ってやつ。今まで見た事がない巻数なんだ!」
「へいへい。仰せのままに……っと」
するとその意図を察した蒼野は持っていた銃を彼に渡し、康太が店主に指定された位置に陣取りながらも、銃の構造に目を向ける。
弾倉に込められているのは込められた粒子を風属性に変換する特製の物。
ここに好きな粒子を込め撃ちだすという仕組みだ。
さらにそこに出力調整までされているため、例え間違えて人に撃ったとしても傷を負わせることはない威力に調整されるようになっていた。
「そこらの縁日の射的と比べてしっかりしてるな。流石世界の中心」
「そうでしょうそうでしょう。ささ、旦那もぜひぜひ!」
「俺もか。ありがと!」
「康太、聖野、リベンジ頼むぞ!」
手慣れた様子で康太が銃を弄っていると、店主が康太の隣にいた聖野にも銃を渡す。
「さて」
そうして義兄弟の声援を聞いたところで、康太が照準を狙いの本に合わせる。
中心を狙っても倒れないことは先程蒼野が試したが失敗した。ならばもっと揺らして崩しやすい場所をと考え、照準を本の上側右角に定め、そこを狙い引き金を絞る。
「うし、当たった」
一度ではなく五度、寸分の狂いもなく同じ場所へと到達する弾丸。
ただ一度の衝撃では僅かにしか揺れなかった本だが、二度三度と全ての銃弾を受け大きくその身を揺らす。
「て、マジかよ……」
だがそれでも、本は倒れきらず前後に揺れるだけで留まる姿を見て、康太が眉を吊り上げた。
「……蒼野、この本の値段とかそう言うのわかるか?」
「ピースワット物語っていうのはどれもこれも生産量が少なくてな。違法ダウンロードとか全般に対してもしっかり対策されてるから、どれもこれも希少価値が高いんだ。これに関して言えば……百万くらいするんじゃないか?」
「そりゃ中々落ちないようにしてるわな! 客寄せパンダみたいなもんだろこれ! てかインチキのようなもんだろ!」
蒼野の説明を受け、康太が頭を抱えため息を吐く。
「インチキではございません。『銃使い』が、『本に興味を持たれており』、『大容量の風属性を込め球を撃った場合』落ちてもおかしくない難易度なだけです」
対する店主は悪びれもせずそう口にして、満面の笑みを浮かべた。
「そういうのをインチキって言うんだよ!」
「うぉ!?」
「わぶっ!?」
その言葉を聞き反論した康太の真横から、突風が吹く。
自身の体が吹き飛ばされるのではないかというほどの勢いに驚いた康太が、何事かと思い風の発生した方角に視線を向けると、聖野の持っている銃の弾倉に詰め込まれた弾が、注ぎこまれた粒子の量に耐えきれず破裂していた。
「悪い悪い。どうもこういう精密動作は慣れてなくて」
「こういう屋台とか出店用の銃って、素人が使っても危険性がないように一定以上の粒子が注がれた場合、注いだそばから抜けるようにしているはずよ。そんなものをぶっ壊すなんて、アンタ一気にどれだけの粒子を詰め込んだのよ」
「おい、それよりあれを見ろ!」
優が聖野に口を尖らせそう告げていると、異変を察知した康太が指をさす。
そこにあったのは彼らを吹き飛ばしてもおかしくないほどの暴風に晒された冒険譚であり、突風を受け前後に揺れていた。
「聖野、今のうちにあれを撃て」
「ちょ、お客さん! そんな事されちゃ困るよ」
「揺れが収まるまで待てってか。そんなルールはどこにもねぇ。それに、突風による事故で倒れて文句を言うならわかるが、ちゃんと当てて倒すなら文句はねーだろ」
店主が納得できたかどうかは康太にはわからない。しかし店主が迷いから一瞬言葉に詰まったところで、その隙に今度は暴発させることなく粒子をため込んだ聖野が狙撃。
メトロノームのように揺れていた本を後方へ押し倒した。
「やったぁ!!」
「さて、こいつは貰っていくぞ。て重!?」
両手を上げ飛び跳ねる蒼野の前を通り撃ち落とした商品を掴もうとした康太。
しかし彼は思いがけない重さを前に声をあげ、続いて持ちあげた優が顔をしかめた。
「これ、違反行為クラスの重さじゃない!」
「違反行為ではない。百万以上もする景品の価値に見合った当然の重量だ!
それに待ってくれ。それが倒れたのは風の影響、そう、事故だ! そんな偶然で倒れた事にしてその商品を渡すことはできない!」
そんな優の物言いに対し、声を荒げる店主。
それを聞いた康太は店主の物言いが癪に障った様子で、優を手の甲で横にどけて一歩前に出て店主と向きあった。
「言うじゃねぇか。ならその規律をしっかり守ってるかどうか、今ここで重量を図って確かめてやるよ」
「ふん、ガキのが集まりのお前らが、測量士の資格なんて持ってるわけないだろ。なら話にならないな!」
「ちっ!」
もの申す康太に対し店主は薄ら笑いを浮かべながらそう告げ、その答えに康太は舌打ち。
「あ、測量士の資格なら俺が持ってるぞ。貸してみ」
そんな中手を挙げた聖野の言葉に二人は同時に目を丸くするのだが、そんな事など一向に構わぬ様子で彼は前に出て本をひょいっと取り上げた。
「お前そんなもん持ってたのか」
「これこれ」
文句を口にしようとしていた店主に対し測量士の資格を見せたところで男の表情が凍りつき、それを見届けた聖野が懐に資格をしまう。
「んじゃ、測定して見ますか」
「……いや、いい。いいです」
「なら、この本はもらってもいいですね」
「ああ……いいよ。持っていきな」
抜け殻となったかのうような店主の様子に康太が充実感を得ながら、手に入れた商品を高々と構えながら射的場から出て行く四人。
外へと出ると入る前まではなかった人の波が形成されており、離れないよう肩を寄せ合いながら中へと入って行く。
「次はどこ行く!」
「聖野、良い場所知ってるか?」
「デパ地下の食料品売り場、カフェラズベル、ネトゲ、満喫、それに……」
「思ったよりもインドアなんだな聖野」
「…………なら世界樹の前とかどう。この都市と言わず世界のシンボルだぞ」
康太の言葉を聞き僅かに肩を揺らす聖野。
すると彼は少し考えた末に名案を思い浮かべたとでも言いたげな様子で手を叩き、ギルド『ウォーグレン』から来た三人に提案した。
「いいな。ここに来た時、俺も絶対に行きたいと思ってたんだ。そこまでの道案内を頼む」
「任せとけ。うまい事人ごみを抜けれる近道も知ってるから、それを使っていくぞ」
「頼む!」
聖野を先頭に人の波の中を何とかかき分けながら目的地へと進んでいく一行だが、少し進んだところでそれまで以上の密度の人ごみが襲い掛かる。
「ちょ、ちょっと、人ごみの少ないところを通るんじゃないの!?」
「そうなんだけどさ、そこに行くまでの少しの間がかなり人が密集してて。ここを抜けたら後は楽だから、少しだけ辛抱してちょ……」
「聖野、蒼野!」
勢いに負けた四人が、優と康太、蒼野と積に分断。さらに康太と優が分断され別々の方向へと流されていく。
「っ、アタシはこのまま世界樹の方へと向かうから! 三人ともそこに向かって!」
「分かった!」
「待てクソ犬! 俺世界樹の場所を知らね……!」
康太の言葉は流されていく三者には届かず、数十秒人波にもまれた末に、どこともわからぬ場所に流された。
「面倒な事になった」
そう悪態を吐きながら康太は辺りを見回す。
そこは白い石でできた家々が連なる住宅地の入口のようで、目印になるような建物があるかどうか、そもそもここはどのような場所なのかを知るために地図と今いる場所を見比べる。
「今俺がいる場所はここで……世界樹はここか」
現在地と目的地はすぐにわかった。しかし、
「むやみやたらに進んでもまた流されるだけか」
世界樹に向けて再び進んでも、目の前に広がる波に飲み込まれ思いもよらないところに流されるだけなのはすぐに理解できた。
「となると、案内役が欲しいな」
なので康太は真正面から目的地に諦める事は諦め、ラスタリアの地形に詳しい人物を探し始める。
「ん、俺の勘はあの人がちょうどいいと告げてるな」
命の危機ではないため然程効果は期待できないのだが、それでも自身の勘に従い、飲食店から出てきて立ち食いをしている一人の青年に向け、彼は向かって行く。
そこにいたのは長く伸ばした白髪を天に向かって伸ばして固めた、いわゆるほうき頭をした青年。
深緑のチノパンに夏が終わり秋が来たからとはいえ、季節にしては少々早い赤色のダウンコートを着た彼は、ボストンバックを背負いながら携帯電話を眺めていた。
この男なら行けるか?
そう考え、周りの僅かな人ごみを書き分けながら壁と全く同じ色をした石造りの道を歩き男に近づいていく康太。
「すんません、一つ頼みがあるんですが」
「ん?」
声がしっかりと聞こえる範囲にまで近づき手をあげながら康太が話しかけると、青年もまた康太に気がついた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます。
作者の宮田幸司です。
遅れてしまい申し訳ありません。
本日分の更新でございます。まさか予想していた量の1.5倍になるとは……
それはさておき今回の話はラスタリア観光中の彼らの様子です。
先日までの話が結構重苦しかったので、ここらで一息入れられればと思います。
それではまた次回




