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千年の魔影 八頁目


 神教最強戦力『セブンスター』の第五位李凱。彼の立ち位置は他の者とは少々違う。


 第一位と第二位のフォーカス兄弟のように表舞台に出て民からの信頼を得ているわけではない。

 元第三位の善のように、多くの戦士や他勢力からの信頼を得ているわけでもない。

 完全な私設部隊にして世間一般には認知されていない第四位とも違い、第六位であったオーバーのような状況に応じ臨機応変に動くことを求められていた戦士でもなく、第七位にいたゲゼル・グレアのように後進育成に励むわけでもない。


「こ、れは!」


 彼の役割、すなわち仕事は暗殺だ。

 神の座直々に指令を出し、彼女が定めた不殺を是とする法では扱いきれない存在を始末する、汚れ仕事専門の役職に就いている。

 その仕事柄一般市民にはひどく知られていない存在であったが、意外な事に各勢力や様々な業界の上澄みとされる者の多くは、名や姿こそ知らなかったものの彼の存在『だけ』は認知しており、同僚であるセブンスターに至っては正体を晒し、善などは親しげに話す事も多々あった。

 なぜ存在だけでも認知されているかというと、これは彼を抑止力として利用するためであった。

 彼についての情報を流布したのは守られるべき立場にある神の座自身である。

 そしてその狙いはうまくいき、彼の存在ないし法によって保障されているはずの命の危機を恐れ、多くの権力者は犯罪行為に手を染めにくくなり、他勢力の有力者もおいそれと神教に手だしできないようになっていた。


(粒子を使った様子がないな。練気か!)


 そのような立場にいる男が使用する力は練気を基盤にしたもので、『同調』と呼ばれるものである。

 彼のみが扱う事ができる貴重なこの練気は、身に纏い固める事で、周囲の空気に溶け込む迷彩へと変化。気配さえも周囲の景色に完全に溶け込むため、無警戒の相手に対し、真正面から堂々と奇襲を行う事ができるという代物だ。

 とはいえ固体として存在しているため足音を消したりはできないため、その点のついては努力する必要はあるが。


「今が好機だ!」

「行くぞ!」


 ガーディア・ガルフの体が僅かにだが宙に浮き、炎の柱が掻き消える。

 それが攻撃の影響であると察した善とレオンが声をあげ、ヴァンと精霊も返答こそしないものの行動で意志を示し、駆け寄っていく。


「彼についての情報は存在だけならば知っていた」

「っ」

「浅かったか!?」


 が、勢いに乗ろうとした彼らをガーディア・ガルフの拳が弾く。

 正確に鼻を捉えたそれはレオンと善の二人に特に強烈な痛みを与え、ほんとうにごく僅かな間だが足が止まった二人に追撃の拳が幾重にも撃ち込まれる。


「ごふっ!?」


 はずであったのだが、最初の一撃を撃ち込むよりも早く、ガーディア・ガルフが吐血した。


(二撃目は当たっていないはずだぞ。どういう事だ?)

「はっ! ちゃんと効果を発揮したか!」

「効果だと?」

 

 同じ地位に所属した善、それにこの作戦を作る過程でイグドラシルから教えてもらったヴァンだけが知っている情報だが、李凱の会得した練気『同調』は身に纏い固定させた場合以外にも別の用途がある。

 それが腕や足に液体として纏った場合で、その状態で敵に当てると敵の体内に自身の練気を送れる。その練気は敵の体内で膨張。留まりきれなくなると、風船が割れるような音を発しながら溢れだすのだ。


「その命、ここでいただく!!」


 少々残念なのはその威力。

 一撃必殺というにはほど遠く、頭部に当てたとしても脳を破壊することなどはできず、大きく揺らし強烈な吐き気を与える、または気絶させるのがやっとなのである。

 とくれば強い練気を練れる善など相手ではそこまで強い効果はなく、ガーディア・ガルフという人類の現状最高到達点相手ならば、どの程度の効果があるのかは不明であった。


「ちっ!」


 そんな彼らの不安を吹き飛ばす様に、口から吐血したガーディア・ガルフの動きは鈍っていた。

 それこそ自分たちを上回る速度ではあるものの、目で捉えられないといった具合ではなくなっていたほどである。


「「勝てる!!」」

 

 もはや胸中にしまっておくことができなくなった思いが彼らの口から突いて出て、駆け出す体にかつてないほどの気力を漲らせる。


「…………甘く見られたものだ」


 ただ残念な事にガーディア・ガルフという傑物はそこまで甘いものではない。

 掌に炎を纏い、ダメージを受ける前よりも早い速度で打ち出す。

 それは飛びだしてきた四人の脇腹と右腕をしっかりと捉えるのだが、訪れた結末は悲惨なものだ。


「っ」

「貴、様ぁ!」

「鍛え方が足りないな二人とも」


 撃ちだされた拳が触れた場所はほんの一瞬の接触だというのに灰となり、万全には至っていなかった善とレオンは膝を突く。


「あと二人か」


 淡々と、事実を呟きながら残る二人を見据えるガーディア・ガルフ。そんな彼へと向け不可視の暗殺者は再度拳を撃ち込む。


「いるとわかっていれば、いくらでも対応できる」


 しかし今度は届かない。

 肉体に届くよりも早く自身の身に届く拳圧を頼りにして、ガーディア・ガルフはヴァンと霊の猛攻を丁寧に凌ぎながら僅かに体を動かす。

 そして拳圧の先を一瞬で見据え、一切の迷いなく回し蹴りを放ち目標の場所、すなわち隠れていた李凱の両の掌を燃やした。


ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


遅くなってしまい申し訳ありません。本日分の更新でございます

VSシュバルツ・シャークスまで持っていければ良かったのですが、作者が外宿中のためちょっと短めになってしまいました。

本来予定していたシュバルツ・シャークスサイドは次回になります。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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