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ウルアーデ見聞録 少年少女、新世界日常記  作者: 宮田幸司
1章 ギルド『ウォーグレン』活動記録
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神の住む地 


 夢を見ていた。


 自分と同じ顔に背格好をした男が、自分では生涯浮かべないであろう冷たい表情で迫ってくる夢。


 その男は真っ黒な剣を手にして、俺が何かを口にする暇もなく襲ってくる。


 俺はそれを必死で捌くのだが耐えきれず、手に持っていた剣は吹き飛ばされ身動きが取れなくなる。


 するとそいつは自らの持っている剣を俺の体に突き刺した。



何度も……何度も…………何度も何度も何度も何度も!



 そうして俺が逃げたり抵抗するだけの力を失ったのを確認すると、馬乗りになり首を絞める。


「っ!?」


 喉頭が締め付けられ脳に酸素が送られなくなっていく。

 視界がぼやけ数秒後には死ぬという時に見た男の顔は何故か………………




「ぶはぁっ!」

「おいおい、大丈夫か」


 意識が覚醒すると、そこはギルドにある自室のベッドの上だった。

 全身にこびり付いている汗に激しい鼓動を繰り返す心臓。そして荒い呼吸。


 一言で表すのなら、この上なく最悪の目覚めだ。


「ほら、水だ。ゆっくり飲め」

「助かる」


 恐らくそんな様子は俺を覗いている康太にも伝わったのだろう。

 心配そうに俺を見つめながら、水を飲み干すのを待っていてくれている。


「…………悪いな。おかげである程度は落ち着いた」


 そう伝えると康太は安堵した表情を見せ、俺の部屋に置いた安物のソファーに座り、膝に肘を置くと息を吐いた。


「ちょっと前に善さんから連絡があってな。お前が目を覚まして落ち着いたら下に降りてきてほしいだとさ」

「分かった。顔を洗ってくるから、ちょっとだけ待っててくれ」


 そう言って、俺は部屋にある洗面台に移動するが、鏡を覗きこむという当たり前の行為をするだけで、僅かに怖気づいてしまった。


 自分と同じ顔をした男が自分を殺そうとしたことという事実が今でも信じられない。

 奇術師に出会いあれだけの虐殺が目の前で繰り広げられたことも合わせて、あれは悪い夢だったのではと思ってしまう。


「本当に大丈夫かお前?」

「ああ、顔を洗ったらわりとすっきりした。下に行こう」


 顔を洗い横に置いてあるタオルで水気を払う。

 正直になところ、心に溜まった重い靄のようなものは一向に消え去らないが、心配はかけまいと嘘をつき、反論されるよりも早く立ち上がる。

 それからチラリと横に目を向けるが、渋い顔をしたままこちらをじっと見てくる康太を見て、騙せていないことにすぐに気が付いた。

 とはいえ、それでも康太は俺に対し追及しては来ないで黙ってついてくるだけのようで、そんな義兄弟に内心で感謝を伝えながら俺と康太は一階に降りていく。


「来たか」

「おはよう蒼野、それにクソ猿。調子はどう?」

「ぼちぼちだ犬畜生」

「俺もです。別に問題ありません」


 鏡で見た限りではそれほどひどい表情はしていなかったが実際には違うのだろう。

 善さんは俺を一瞥すると組んでいた腕を解き、人数分のコーヒーを淹れ、一息入れるだけにしては十分すぎるほど時間をくれた。


「さて、今後の予定について話していくぞ」


 それから数分後、善さんが全員がコーヒーを飲み干したのを確認しそう告げると、俺達全員が善さんに顔を向ける。


「ヒュンレイさんはいいんッスか?」

「……あいつは部屋で休息中だ。今回の会議には参加できねぇ」

「…………そうッスか」


 康太の事だ。恐らくヒュンレイさんのそれが許されるのなら、俺もそうして欲しかったとでもいうつもりだったのだろう。


「できる事なら、蒼野もそうして欲しいんッスけどね」


 そんな俺の予感は的中し、僅かに間を置いてそう告げた康太。


「ま、単純な理由でな。お前らに護衛させるのもいいが、俺の目の届く場所にいた方が生存率が上がるからな。まだちっとばかし辛いかもしれねぇが、こういう対応をさせてもらった」


 とはいえ、康太のその提案は的外れなものとなる。

 聞くと俺達を襲ってきた相手はどうやら空間を移動する何らかの策を持っているらしく、疲れている俺を呼んだのも、自分の目の届く範囲で監視しておきたいかららしい。


「それに、だ。まあ陰鬱とした気分だろうと思ってな。多少の気分転換にでもなればとも思った」

「気分転換?」


 が、理由はどうやらそれだけではないらしく、本人からすれば私情を挟んでいないつもりかもしれないが普段と比べ明らかに嫌そうな様子で語り、俺がその意味が気になり尋ねてみると、善さんは僅かに俯き、小さくだがため息を吐いた。


「ああ。次に行く場所。それはな」


 そうして善さんが口にした地名を聞き、俺は目を見開く。

 どうも俺はかなり単純な人間だったらしく、それを聞いただけで気分が一気に良くなり、期待に胸を膨らませていた。




 彼らが会議終えてから一日と少しした午後二時、白亜の壁の前にキャラバンを止める。

 それからすぐにキャラバンから降りた原口善はボロボロのジーンズにポケットを突っ込んだまま、少々不機嫌な顔で少し先にある受付にいる看守のところまで歩いて行くが、看守は善の顔を見ただけで驚愕の表情を浮かべ敬礼。


「お仕事ご苦労さん。確認証を……」

「め、滅相もない。あなた様ならばそんな物など用意しなくとも顔パスでも充分です。ささ、ご同行者含め中へどうぞ!」

「いや、変装の可能性とか考慮しないのかお前」

「ご心配にはおよびません! あなた様に化ける不届き物など、見つかり次第捕獲対象です。些末な疑問など持たずに、ささ!」

「おい、わけがわからねぇ事言ってんぞお前さん。まあ良いっていうなら入らせてもらうけどよ」


 看守に許可を貰い頭を乱暴に掻きながらキャラバンへと戻る善が、操縦席にいる優に指示を出し開かれた真っ白な扉を潜り中へと入って行く。


「着いたぞ」


 中へ入りすぐにある巨大な駐車場にキャラバンを止める善と、自分の身に迫る危険を忘れ勢いよく飛びだす古賀蒼野。康太はそれを追うために急いで飛びだし、続いて優が操縦席から離れ外に出て、最後にヒュンレイの肩を支えながら善が出てくる。


「ここが!」


 先日の会議前まで落ち込んでいた事をすっかり忘れ、天を見上げ叫ぶ蒼野。


「ここがラスタリアか!」


 そうして彼らは世界の中心と呼ばれる都市の内部へと入って行った。




 その場所は『楽園』と呼ばれている。

 神の座・イグドラシルが最初に作りだした自らの居座る都市であり、世界中から『中央』と呼ばれる場所。


 『神聖都市ラスタリア』。


 高さ五千メートル、厚さ十五メートルの『境界』を超える強度と機能を備えた『白亜の大壁』に囲まれ、建物はマス目に沿うように建設されている。

 都市自体は城下町を含む中心地帯にそれ以外で区分けされており、都市の中心には神の座が君臨する居城があり、正門から見て神の居城の真後ろには『白亜の大壁』よりもなお高い世界樹が生えている。


「んじゃ、俺はヒュンレイを連れて病院の方に行ってくる。そのあと今回の件について話しをしてくる。それまでは護衛役にまた聖野を呼んでおいたから、まあ観光でもしてくれよ」

「ぁぁぁぁ!」

「聞いてんのか!?」


 この場所に入るには、一部の者を除き一般的に様々な許可が必要とされる。

 それは有り体に言うと自身が安全でこの町に害を及ばさない存在ですよという証明なのだが、これを得るためにはいくつかの試験や検閲があり、蒼野はまだそれら全てを終えていないため入れないはずの存在であった。

 が、そんな場所に思いもよらないタイミングで入れたことで彼の思考回路は暴走し、ただ叫び声を上げるだけの機械と化していた。


「たぶん聞いてないっすね。まあ人通りの多いところに行けば中々襲ってこないでしょうし、何とかなると思うんッスけどね」

「……昨日の会議ではテンションが上がったこいつを止める事に時間を使って伝え損ねたから、この機会に幾つか重要な情報をお前ら二人に伝えておく」

「重要な?」

「情報?」


 奇声を上げ続ける蒼野を監視していた康太が善の言葉を前に蒼野から視線を外し、康太と優が口を揃えて反応する。


「昨日いきなり襲い掛かった相手についての情報だ。名はゼオス・ハザード。凄腕の殺し屋だ」

「殺し屋……」

「顔が割れたのもここ最近で、警戒度も高い。最も重要なのは、昨日もちっとばかし言ったが、こいつが恐らく空間移動ができる何らかの手段を持ってるってことだ」

「それは……厄介なことこの上ないっすね」

「詳細については分からねぇが、百メートル以上離れたところにいた聖野の声が鮮明に聞こえたり、吹き飛ばした方向と全く別の場所にいたり、不自然なところは多い。あんだけ俺にぶん殴られて高速移動するには、頑丈さが足りない様子だったしな」


 考察を聞き康太が顎に手をやり対処法を考えるが、能力の正体が明確になっていない今の時点ではこれと言った答えが出せない。


「ま、そう悩むな。お前の言うとおり人通りの多い場所なら比較的安全だ。それにここに来た目的はその対策とゼオス・ハザードを何とかするまでの強力な護衛役を付けるためだ」

「ツテとかがあるんっすか?」

「そんなところだ。そんじゃ言ってくる。事が済み次第連絡を入れるから携帯の電源だけは切るなよ」


 伝えるべき内容を伝えた善が、踵を返し、ヒュンレイを連れ町の方角へと向かって行き、


「お、いたいた」


 康太と優がそれを見送ったところで、見知った声が聞こえてきたので二人はそちらに顔を向ける。


「聖野」

「よ、一昨日ぶり!」


 そこにいたのは康太よりも二回りほど小さな少年。

 小麦色の健康的な肌に短パンに白いシャツを着た聖野だ。


「お、聖野じゃないか。どうしてここに?」

「え、護衛だって聞いてたんだけど、違った!?」


 世界で最も強固な壁に感動し頬ずりしていた蒼野が、いつの間にか増えていた面々に対しおかしな事を尋ねると、聖野が目を丸くして康太や優に話しかけた。


「違ってねぇ違ってねぇ。こいつが話を聞いてないだけだ」

「そ、そうか。よかったよかった」

「そんな事よりも! これでみんな揃ったのよね!」


 胸を撫で下ろし安心する聖野と蒼野の肩を持ち、優がはっきりとした声で口にする。


「え、俺以外にも護衛役が来るのか?」

「いや、来ねぇよ。そんな驚くなって」

「それなら中を見て回ろうぜ。今すぐにでも中に突撃したくてうずうずしてるんだ俺は!」

「そーそー。めったに来れないんだし、善さんも観光していいって言ってるんだし、さっさと行きましょ!」


 半ば無理矢理であるのだが蒼野と優が続けざまにそう口にすると、康太も好奇心から言い返せず、彼らは町の中へと向かって歩き出した。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


という事で今回移動する場所は神の住む土地『ラスタリア』!

この物語で度々登場する都市の一つです!


ゼオスとの戦いも重要な物語なのですが、この章は色々な登場人物が出てくるので、

そちらも楽しんでいただければ幸いです。


あ、それと恐らくですが、今夜中にもう一話、新しい第一話を更新します。

もうちょっと人が入ってきやすくなればと思い、この物語の特徴であるバトルを描いた作品です。

もし気になる方がいれば、そちらもぜひぜひ!


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