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果てに立つ者達の饗宴 四頁目


 広大で疑似的とはいえ形づくられた星々が照らす黒い宙。

 そのど真ん中で戦士達は鎬を削る。

 善たち四人がかりでも下しきれず、それどころか余力を見せたシュバルツ・シャークス。

 千年前の戦いに於いて『最後の壁』と称された彼に挑むのは現代最高位に二人で、彼らはそれほどの相手を前にして一歩も譲らぬ様子で戦いを繰り広げていた。


「雷よ炎よ。螺旋を描け!」


 いやそれどころか、『圧倒』とまでは言わずとも攻勢に至っているのだが、この状況を作りだした最大の要因は時間である。

 数十秒で終わってもおかしくない戦いを、数分、十数分と伸ばした結果であると言っていい。


「ふん!」

「それは覚えた!」

「ままならないなぁ!!」


 無論他の要因も関わってはいる。

 シンプルに二対一の状況で戦う事をここまで継続出来たこと。戦場が真似たものとはいえ宇宙空間であるため、対峙するシュバルツ・シャークスが地面にいた時のような踏み込みを行う事ができず、十全に力を発揮できないということ。

 他にもいくらかの要因があるが、やはり最も重要になってきたのは戦い続けてきた事による経験値の急速な獲得。つまり目前の存在の様々な攻撃に『慣れた』ことが大きい。


「繰り出す手札をめちゃくちゃな速度で対策される。君達!」

「ん?」

「なにかしらぁ!!」


 一発当たれば勝敗が決する数多の斬撃も、それを当てるために援護するよう動く巨大な練気の塊の攻撃も、彼らは十分以上戦い続ける事で十万回以上は目にした。

 それほどまで目にすることができれば、シュバルツ・シャークスが得意としているパターンはもちろんのこと、一つ一つの攻撃についてまで、既に提示された攻撃に関しては理解することができた。


「そのネチッこさからして仲間内から嫌われてるだろ!」

「…………は、はぁ!? んなわけないでしょ、ねぇシャロウズ殿!」

「根拠のない暴言は訴えるに値するぞシュバルツ・シャークス…………いや捕まえようと思っている相手に言う言葉じゃないなこれは!」


 がしかし、自分たちが有利な状況を保持しているにもかかわらず、戦えば戦うほど、何シュバルツ・シャークスとはやりにくくい相手であると彼らは実感している。

 それは今しがた口にしたような突拍子もない事をいきなり告げるような、何とも緊張感のない精神性に関してもそうなのだが、決定打が撃ち込めず一気に勝負を決める事ができない状況が延々と続くという事が何よりも厄介であった。


「んもう。近づけないわねぇ!」


 いや実際のところ、主武装である槍を失っているためシャロウズは論外であったが、アイビスの場合は差し違える腹積もりで行けば可能ではあった。後々自己再生ができる事を考えれば、むしろ最適解であるようにさえ思えた。

 だがしかし、この場ではそれを行うという選択はどうしてもできなかった。神の座・イグドラシルがそれはするべきではないと断じていたのだ。


「神器の能力を使った形跡は…………ないわよねぇ」


 そこまで彼女が言いきった理由は至極単純。千年前の戦いから今まで、シュバルツ・シャークスが持っている神器の能力が判明していなかったからである。

 言うなればそれは、その正体を知れるまで彼を追いつめた事がないという証左であり、神の座イグドラシルはそれを話すだけで少々不快な様子を示しており、その様子を見ればシャロウズはもちろんのこと、普段ならば楽観的な様子を示すアイビスも同意せざるを得なかった。


「あの先端が尖ってない肉切り包丁の、腹の部分にある頭部くらいの大きさの穴、やっぱあれが能力に関係しているわよねぇ?」

「あからさまだが恐らくな」

「なら単純な接触型かしら。遠距離まで届かせる斬撃の類なら、ある程度は問題なさそうよね」


 ただだからといって変に怯えすぎる必要はないとも彼らは認識していた。

 分からないならば解明し、その上で立ち回れば問題ないと判断したのだ。


「あたしが使う全包囲やら広範囲の攻撃にマント込みで対応する感じからして、うちのアークが用いるような防御結界系ではないわよね? 本人の性格からしてやっぱり攻撃に重点を置いた感じなのかしら?」

「これほどまで攻められて使ってこなかったことから、防御系でないであろうことについては同感だ。しかしだからといって攻撃系であると言いきるのは早計な気がするな。そう思いこんだ結果、敗北した、などとなっては困る」


 現状分かっていることや推測出来ることを攻撃の合間に度々意見交換しながら、自分たちが有利に立ち回れる距離を保ち続け、謎の解明に必要なパーツを揃えるために攻撃する。

 それを続けていく事で時を追うごとにシュバルツ・シャークスの動きが解明されていき、ある程度の攻撃パターンを知ってしまえば、隙間隙間を縫うような攻撃を撃ち込み、更に分からない部分が分かっていく。

 これを繰り返していけばどこかでシュバルツ・シャークスが完全に対応できない攻撃を撃ち込む事ができ、千年前最強の壁を崩す事ができる。


(までは共通認識であると思うんだがな)


 そこまでシャロウズは理解しており、隣に立つ神教最強の女もそう自覚していると彼は考えているのだが、耐えがたい申し訳なさに加え一抹の不安があるのも事実である。


 申し訳なさに関しては単純で、この戦術では自分の出番がほとんどない事だ。

 遠距離戦が主体となった時点で自分の出番はほとんどなく、アイビスに攻撃面を任せきり、自分は飛んできた斬撃を弾く程度した役割がない事実が、彼の胸に影を落とした。


 ただそれについては『勝つための判断』だと認識し、諦める事ができた。


「しかしいいのかねお二人さん。結構じっくりと私の相手をしているが、イグドラシルの奴の方に早く向かわなければならないんではないかな?」

「っ!」


 問題があるとすれば、やはり一抹の不安の部分。

 自分ではなく共に戦うアイビス・フォーカスの胸中の部分である。


「今の戦法の場合、私を倒すにはまだまだ時間がかかるはずだ。そうなればそう、速さに特化しているあいつの戦いに馳せ参じる事はできないぞ?」


 彼女とて現状の戦術が最適解であるとは理解しているはずだ。しかしそれに心の底から納得できるかと言われれば、その点は大いに疑わしい。

 力を示したゆえにヴァンに任せはしたものの、やはり自分もその場に馳せ参じたいと思うのは何らおかしなことではないと彼は感じていた。


「あら、らしくない事を言うのねシュバルツ・シャークス」

「なに?」

「あたしの知ってる貴方は、二対一だろうと嬉々として戦いを挑む性格のはずよ。だというのにそんな事を口にするなんて、実はもう結構追い詰められているっていう事かしら?」

「…………」

「ま、そんな事は関係ないけどね。あたしは絶対に勝てる今の状況を崩さない。わざわざ高い勝算を投げ捨てるような気はない。加えて言うなら、そんな事を口にするっていうなら、限界は結構近いように思えるわね。いかがかしら剣帝殿?」

「はは。これは参った。思ったよりもクールなんだな君は」


 がしかし、彼が胸に抱いた不安は吹き飛ぶ。

 挑発するような勝気で意地の悪い笑みを浮かべ、強い意志を感じさせる声で言いきる彼女の姿に曇りはなく、逆に挑発をしたシュバルツ・シャークスの方が少々困った様子の声を上げた。


「流星よ。駆けよ!」


 それから放たれる技の冴えはそれまで以上だ。

 宙の彼方から流れてくる無数の光る塊。その勢いは時が経つにつれ増していき、千年前は超えられなかった最強の壁を押していく。


「むん!」

「通さん!」


 彼女のそのような姿は友に戦う彼の使命感を燃やし、撃ちだされた斬撃を弾く盾を掴む腕にも力が籠る。


「むぅ、突いてはいけないところを突いてしまったか。こりゃ失敗した!」


 流星の群れを躱し、自身へと向け撃ちだされる巨大な鉄の杭を剣で弾き、広範囲に広がる炎と雷をマントで防ぎ、反撃を打ち出す。

 そのような動作を行いながらシュバルツ・シャークスは自身の失態に息を吐く。


「こりゃ正攻法では勝てないかもしれないな」


 同時に徐々になくなっていく余裕を前に冷静にそう判断し、


「アイツ以外を相手に色々小細工をするのは主義に反するんだが、こうなれば文句も言ってられないか。後でエヴァの奴に説教喰らうのも嫌だしな!」


 普段ならばさして使う事もない様々な手段に意思を巡らせ、それを示す様に掌から水を発すると、宇宙空間を模した世界に浮かばせる。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


VSシュバルツ・シャークスサイドでございます。

見ていただければわかる事ですが、完全に展開できればフォーカス殿はシュバ公相手には結構なメタを張れます。

エヴァがシュバ公相手に喧嘩を売る時も、大体こんな感じですね。


次回はそんな彼の対処法。

剣ばっか使ってて、たまに拳を使う程度ですけど、彼は水属性の使い手でもあります。加えて皇帝殿を下そうと思えば様々な手が必要なわけでして、そんな彼の戦術の披露回になります。


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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