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ゴロレム・ヒュースベルトという男 三頁目

先にお伝えしておきますと申し訳ありません。

明後日出す新人賞の見直しを行い続けているため本日と二日後の話は少々短くなっております。

本来なら二回分を合わせて一話になると思っていただければ幸いです


「――――――」


 銃弾が胴体を貫いた瞬間、その部位を中心として全身から力が抜けていくような感覚に襲われた。 

 その感覚に抵抗することなく彼は意識を遠のかせるのだが、気がつけば底の分からない水の中に沈んでおり、視線を少し横に向ければ、数多の気泡が下から上へと昇っており、不思議な事にその一つ一つに彼の『人生』が浮かびあがっていた。


 振り返ってみれば自分はずいぶん長く走り続けていたと彼は考える。

 生まれてから数年経ち、人並みの自我を得た時から今まで、彼はずっと嫌いな事があった。

 それは『戦い』であった。

 無論彼その全てを否定するつもりはなかった。

 強くなるために日々切磋琢磨することは嫌いではなかったし、仲間内で喧嘩するくらいなら笑ってみてられた。


 がしかしである。命の奪い合いをするような戦いはどうしても受け入れられず、必然そうなってしまう神教との衝突はどうしても受け入れがたいものであった。

 だから彼は強くなった。貪欲に、自分の願いを押し通せられるように。

 その結果が賢教最強の戦力である『四星』の所属であり、穏健派という一勢力の重鎮という立場でもある。


『君の願い、いや言い分はよく分かった。上に立つ者の役目として、私もしっかり検討しよう』

『っ』


 しかしそれだけの力を得てもなお、彼の願いは大きすぎた。個人が叶えられる規模のものではなかった。

 血の気に満ちた者は神教に喧嘩を売り、いざ戦いが始まれば穏健派に所属している者も躊躇なく戦いに参加することも多々あった。

 そのような出来事により未来ある命が失われていく事をどれだけ訴えても、クライシス・デルエスクという壁は彼を阻み、道を断たれる度に彼は拳を強く握った。


『………………ここまでなのか?』


 細かく数を数えたわけではない。

 しかし少なくとも両手の指では足りなくなるくらいクライシス・デルエスクに自身の目的を阻まれたところで、彼は霧に包まれた夜の空を見上げながらそう呟き、


『ゴロレム・ヒュースベルトだな』

『誰だ!』


 そのタイミングで出会うのだ。藁などとは比べ物にならないほど心強い、彼にとっての救世主と。


『突然の訪問失礼した。私は』

『ば、馬鹿な!?』


 音一つ立てず、いつの間にか自らの手がギリギリ届かない位置に立っていた男を前に彼は強い警戒心を抱くのだが、男は全身を覆っていた包帯のうち顔の部分だけ外し現在と比べれば白の方が多い髪の毛と日輪の輝きを想起させる双眸を携えた素顔を顕わにする。

 それを目にするとゴロレム・ヒュースベルトは激しく動揺した。

 千年前に死んだと言われる、賢教敗北の原因である男が、自分の前に堂々と現れるなど考えてもいなかったのだ。

 しかもその時の彼は普段の冷静さが十全に発揮できない状態であり、その狼狽え方は重役に就いている者にしては少々みっともないものであった。


『私の正体を理解していただけて何よりだ。それで要件だが、単刀直入に言わせてもらうと、私は君を仲間に加えに来た』

『仲間だと?』

『そうだ。今私は仲間を集っている。その一員に私と同じ夢を抱く君を加えたい』


 ただそんな様子の彼を見てもガーディア・ガルフは眉一つ動かすことなく単調な返事を行い、話を聞いていけば彼は自分と同じく平和な世界を目指しているという事で、その思想に賛同してくれる可能性が高いという事で彼を選んだらしい。


『それで、君は何を望む?』

『そうだな……』


 正直なところ、彼はそんな彼の言葉を鵜呑みにすることができなかった。

 しかし極度の疲労感を覚えていた彼は常日頃ならば突っぱねる要求を否定しきれず、『同志となるならば一つだけ願いを叶える』という話を聞き思案。


『貴方がもし本当に平和な世界を望んでいるというのなら』

『…………』

「彼はきっと大きな障害となるだろう』

『ほう?』


 不可能であると高を括った上でクライシス・デルエスクの失脚を願ったのだ。

 そしてそれは成しえられた。


「!」


 そこまで過去を振り返ったところで彼は自身の意識が深い水底から引き上げられる感覚に襲われ、


「ゴロレムさん。オレ達の勝ちです。約束通り」

「…………ああ、そうだな。君の疑問に答えよう」


 勢いよく咳込みながら瞳を開ければ、そこには自分を見下ろす古賀康太とその仲間達の姿があった。




ここまでご閲覧いただきありがとうございます。

作者の宮田幸司です。


手短ですがゴロレム殿回想。

クライシス・デルエスクの元にわざわざ彼らがやってきたネタ晴らし、そして恐らく初めて語られるガーディア・ガルフの目的。

次回の話と合わせて一話のつもりなのですが、こう書くと短いながら結構重要な情報が出ていますね。

次回は勝者である康太達が得る報酬。そしてゴロレム殿、本音を語る、な話になります。

今回に続き少々短くなってしまうかと思いますが、よろしくお願いします


それではまた次回、ぜひご覧ください!

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