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ゴロレム・ヒュースベルトという男 一頁目


 それは誰もが驚くことべきことであった。

 二つ以上の神器を取得しているという事実自体が非常に稀なことではあるのだが、それ以上に一つ気も経っていない短い期間の間にそれを成し得たという事が前代未聞の事実であった。


「康太が二つ目の神器を得ただと!?」


 それは人知れずこの戦いを目にすることができた、一つ目の神器取得に関わっていた男でさえ驚くべき事実であり、その真正面でそのような様子を見せる彼を目にしていた影が口を開く。


「いやまあ、康太は元々神器を手に入れる事ができる最低限の実力は備えていたさ。平均には足らなかったがね。それを思いの面で補ったんだが……そうか、強い思いを抱く先はもう一つあったのか」


 以外であったのか、想定外の事態なのか、尋ねる真正面の人物に対し彼はそう返すのだが、浮かべる表情は満更ではなく、


「…………いや、流石にそこまでの変化はないだろう。あの二人がいる限り、結末は変わらない」


 しかし次の問いに対しては厳しい表情を浮かべ、現実をしっかりと見据えた上でそう告げた。




(銃、か)


 自身が手にした神器の情報が古賀康太の脳内を駆け巡る。

 その内容はいくらかあれど、正直なところ彼はホッとした。

 ほんの一週間程前に神器『天弓兵装』を手に入れた際には、その膨大な情報量を前に内心で顔をしかめていたからだ。


「迷う必要はねぇな」


 その時と比べれば自身が得た二つ目の神器が与えてくる情報の量は比較的少なく、康太は今、さして迷うことなく選択肢から一つの答えを掴む事ができた。

 

「ぶちかます!」


 選択肢とは康太がいま手にしている銃の細かな性能についてだ。

 というのも彼が新たに手に入れた二丁拳銃の神器の能力は『性能調節』というもので、言ってしまえば使い手である康太はこの銃の威力や連射性能などを好きな時に自分の思うがままに変える事ができた。


「最大威力だ!」


 性能の調節方法は神器習得と同時に手に入れたポイントを好きなように割り振る形で、威力や速度以外にも飛んで行く起動なども弄る事ができた。

 そして今この状況で康太が願ったのは追い詰められている現状を覆す事ができるほどの協力名一撃で、連射性能や他の項目には一切ポイントを割り振らず、限界まで威力を高める選択を行い引き金を絞り、


「!?」


 その次の瞬間、彼は自身の目論見があまりに甘かった事を痛感する事になる。




「あれは!?」


 最初にその事実に気がついたのは使い手である康太ではなく、主戦場たる場所から少々離れた位置にいるゴロレム・ヒュースベルトであった。


「まずい!?」


 それは康太が引き金を絞る寸前の事であった。

 彼が手にしている銃にまとわりついている赤い線が強烈な光を発し、周囲には無数の光る球体が現れる。


「な、何だこりゃ!?」


 思わぬ光景を前にして声をあげる康太であるが、それが何を指し示すのか彼は知っていた。

 何故ならば賢教にいた際、そう多い回数ではないが確かに目にして、己が脳に焼きつけていたのだ。

 数多の疑似的に再現した銀河がエネルギーを吐きだし、打ち出す攻撃にエネルギーを集中させる光景。


 すなわち賢教において最強として君臨していたシャロウズ・フォンデュが誇る最強の矛。『銀河撃ち』と恐れられる一撃と同じ光景だ。

 それが分かっているからこそ彼は自分へと辿り着く道を防ぎ、僅かでも時間を稼げればと思い残っていた彫像を動かし始め、


「間に合え!」


 数多の球体が放つ光全てが集い拳銃にまとわりついたところで普段の彼ならば決して見せない不格好な前転を行いながら康太が構える拳銃の射線から急いで移動。


 次の瞬間、それは撃ちだされ、そして全ての前提が覆される。




 撃ちだされた銃弾が進む。まっすぐと。ただ愚直に。

 言葉にすればたったそれだけの事なのであるが、成しえる成果、いや結果が凄まじい。

 何の変化もすることなく直進する銃弾は自身の前に立ち塞がる氷の彫像を貫き、その奥にある分厚い壁も貫通する。

 そのままゴロレム・ヒュースベルトへと向け銃弾は進んでいくのだが、その軌道から逃れるように動いていた彼の体には触れることなく、先へ進む。


 その言葉通りの意味でだ。


「ぐ、ぅぅぅぅ!?」


 どれほどの障害を貫いたのか、それは誰もわからない。

 まっすぐに進む銃弾はゴロレム・ヒュースベルトの側を通りすぎてもなお、その愚直な直進を微塵も緩めず進んでいき行く手を阻むあらゆるものを貫く。

 もちろんその最中には様々な人や異星の民がいるのだが、敵味方の関係なく銃弾は貫いていき、更に更に向こうへと進んでいき、


「こ、これが!」

「たった一発の銃弾が起こした事態だというのか…………」


 銃弾がエヴァ・フォーネスが敷いた結界さえ突き破り夜空の彼方へと消えていく。

 すると氷の彫像の猛攻から逃れるために空に逃げていたシリウスとクドルフ、そして蒼野が目にしたのは、銃弾が進んだ道にいたあらゆる生命体を蹂躙し、数多の光を戦場から退場させる光景。

 凄まじい一撃の余波として一歩遅れてやってきた衝撃波も合わさった結果、康太が撃ちだした人差し指の第一関節程度の大きさしかない銃弾は、シュバルツ・シャークスが全力を発揮することで巻き起こすような凄まじい被害を戦場に刻み込んだ。


「ぐ、がぁぁぁぁっ!」


 全く想像していなかった威力により生じた銃弾の周りに形成された衝撃波。

 それを浴びただけで残っていた余力の大半を持って行かれたゴロレム・ヒュースベルトであるが、それ以上のダメージを負った人物がいた。

 新たに現れた神器の使い手である康太である。


「う、腕がぁっ!」

「康太さん!」

 

 指先を少し動かすだけで生まれた理知外の威力。それは銃を支えていた康太の右腕にもかつてない負荷としてのしかかり、見た目こそ原形をある程度留めていたものの、右腕の骨は粉々に砕け、いくつかの場所では皮膚を突き破り骨の破片が飛び出ており、アビスが急いで回復術を彼にかける。


「康太!」

「大丈夫かね!」


 襲い掛かっていた氷の彫像の大半が一瞬で砕けゴロレム・ヒュースベルトの姿が消えた事実を前に、蒼野がシリウスとクドルフを連れ康太とアビスの側へと降りていき、怪我の様子を目にして息を呑む。


「ま、待ってろ。すぐに時間を戻して!」

「いやそれじゃあ意味がねぇ! 能力だからな、神器で無効化しちまう。それよりもだ」

「?」


 荒い息を吐く康太の姿を前にして蒼野は自分のことのように冷静さを失い能力を発動しようとするのだが、康太がその行為に意味はないと残った左腕で待ったをかける。

 と同時に康太は力強い声をあげながら、おぼつかない足取りながらも立ち上がり、


「ゴロレムさんに勝つための力が手に入った。ここで絶対に勝ちきるぞ!」


 満身創痍ながらもそう言いきった。



ここまでご閲覧いただきありがとうございます

作者の宮田幸司です


遅くなってしまい申し訳ありません。本日分の投稿になります。


康太が手に入れた神器の説明回。見ていただければわかると思いますが、天弓兵装にある多様性を狭くして、代わりに威力やら連射性能を上げた神器です。まあ銃弾の弾道操作などもできる事から、それだけにはとどまりませんが。


そしてこれにて今回の戦に必要なカードは全て揃いました。

少々長くなったゴロレム殿との戦いですが、次回からは終盤戦。最後まで見ていただければ幸いです


それではまた次回、ぜひご覧ください!


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