古賀康太とアビス・フォンデュ 二頁目
「一気に行く。二人は援護を頼む!」
「ああ」
「任せとけって!」
腰を落とし手にしている神器の魔本を輝かせるゴロレム・ヒュースベルト。
それは明確な脅威であるのだがアビス・フォンデュを救うために参戦した三者に迷いは露ほどもない。
康太が声をあげると蒼野と聖野が声をあげ、彼らは完全に同じタイミングで駆け出した。
「連携は完璧か。ならば最初から全力で行かせてもらう!」
普段のゴロレム・ヒュースベルトであれば彼らを相手にする場合、小手調べから始めるところであるが、今は修行の場ではなくラスタリアで行われている一世一代の大勝負である。
とくれば手加減など全くする気はなく、彼は自身が考えうる最善手を打っていく。
「来い。そびえ立つ氷壁!」
「壁!?」
「蒼野!」
「ああ――――原点回帰!」
そのような思考で繰り出された一手は、自身を挟み込む三人の行く手を阻むように現れた巨大で分厚い氷の壁だ。
無論そんなものが消滅系の力を備えている蒼野や聖野を止められるわけもなく、康太が一瞬困惑する中で聖野が声をあげると、毒々しい真っ赤な光が蒼野の手にする賢から溢れ出し、ただ一度の振り上げでかき消してしまう。
「さあ勝負だ二人とも!」
「っ!」
「近接戦!」
が、彼はそれでいいと言いきれた。
この状況で最も面倒だったのは彼ら三人が行う予定であった挟みうちを完遂されることであり、康太を足止めできた時点で氷の壁は十分な役割を果たしていたのだ。
「くそっ。強ぇ!」
「専門職には一歩二歩劣るがね。君達が相手ならば十分に勝機はある!」
その状態で前に出たゴロレムは近接戦を仕掛けるが、その勢いは那須親子を相手にしたときの比ではない。
本を手にしながらも撃ちだした拳は聖野の体にガードの上からでも重い衝撃を与え、蒼野が撃ちだした刃なき剣の振り払いは手の甲で弾き飛ばす。
そこから更に肩を突き出す形で突進を行うと、胴体ががら空きになっている彼に重い衝撃を与えた。
「く、そぉ!」
神器により能力が通じなくなり純粋な近接戦闘能力が問われる戦いで、彼は専門職の聖野と蒼野を完全に押しきっていた。
が、そんな事など二人は承知の上だ。
相手は賢教最強戦力の一人であるという事実にしてもそうだが、彼は先のエルレイン攻略戦では同格の雲景を遠距離だけでなく近距離でも抑えきったのだ。
自分たちでは勝ち越せない事は予期していた。
「おらぁ!」
「な、に!?」
ではなぜ勝算の薄い近接戦に乗っかったのか。
その理由も至極単純で、彼らにはこの状況を覆す事ができる一手が存在していたからだ。
「待たせた!」
「ああ。待ってた!」
それが先の戦いで神器を得た古賀康太である。
「見慣れない物を持っていると思っていたがまさか神器だとはな!」
「そういうことです!」
「むぅ!?」
彼がそれほどの代物を新しく手に入れていると知らなかったゴロレムはそれ以前の康太のデータを参照に対策を組んでおり、膠着状態を作れるはずの氷の壁と無数の彫像が、ほんの十数秒で砕かれた事実に素直に驚き苛立ちを募らせると、康太は彼の胴体に拳を撃ちこみ、ゴロレムは身を守るために蒼野と聖野に注いでいた攻撃の手を緩め守りを固める。
「申し訳ないとは思うッすけどさっき言った通りです」
「!」
「一気に決めさせてもらいます!」
それにより康太の一撃は防がれるのだが、予定通りの状況に持ちこんだことで彼は声をあげ、三人全員が、ゴロレム・ヒュースベルトが康太の実力を見誤り十分な対策を練られていなかったこのタイミングが早くも最重要な勝負所であると認識。
「おぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁ!!」
「こ、れは!」
雷属性と土属性を混ぜた箱を開くことで発動する簡素な肉体強化を身に纏った康太が、普段の彼ならば決してしない拳によるラッシュを行い攻め続け、その状況を覆すために召喚された氷の彫像を蒼野と聖野が片付けていく。
「はぁ!」
「っ!」
その最中、無数のラッシュを止め行われた回し蹴りが腕を交差させて作られたゴロレムの守りをかちあげ、
「ふん!」
「っ」
空いた胴体へと向け撃ちだす拳に康太は全身全霊を込める。
するとそれはゴロレム・ヒュースベルトの胴体を完全に捉え、彼は体をくの字に曲げながら吹き飛んで行くのだが康太のが顔に浮かべる表情は苦い。
「クソッ。腹に氷の板が仕込まれてた!」
「援護するから一気に駆け寄れ!」
肉を抉るような感覚ではなく冷たく平たい何かを殴った事ですぐに目星を付けた康太がそう言いながら追撃を与えるために駆け寄ろうとするが、それを通す程ゴロレム・ヒュースベルトという男は優しくない。
数多の氷の彫像で行く手を阻み彼ら三人の足を止めると、巨大な氷柱を地面から幾重にも生やし、彼らの視界外へと逃れる。
「強くなったんだな。本当に」
そうして一息付ける状況になると彼の顔には自然と笑みが浮かぶ。
間違いなく窮地に陥っているのだが、三年以上前に会ったギルド『ウォーグレン』に入った頃とは比べ物にならず、別人のように成長した彼らに対する感情がそのようなもの表情を浮かべさせていた。
「けどまあまだ負けるわけにはいかないな…………そろそろこの戦いも佳境か」
ただ彼にも果たすべき目的というものが存在し、そのために死力を尽くすと決めていたのだ。
ゆえに戦場全域を見れるように視界共有していた氷の燕から得た情報を頼りにそう告げ、自身が手にする神器の真価、すなわちほとんどの者に知らしていなかったその能力を発動させる。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です。
少々遅くなってしまい申し訳ありません。本日分を更新です。
VSゴロレム・ヒュースベルト続行。
しかしゴロレム殿も言っていましたが、最初期から比べると子供たちは本当に強くなった気がします。
そんな彼らに対峙するゴロレム殿。
次回はこれまで隠してきた彼の真の力が発揮されます。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




