ヘルス・アラモードを追跡せよ 一頁目
「大丈夫だよな? これだけで位置がばれるなんてことはないよな?」
ラスタリア内部の更に奥。避難勧告により人がいなくなった住宅街の一角。そこでは大げさなほど周囲の様子に意識を向けている影があった。
銀髪のホウキ頭をして、気弱そうな印象を抱かせる表情を浮かべているのは『三狂』最後の生き残りヘルス・アラモード。
寒さに負けぬよう真っ赤なダウンジャケットを着こんでいる彼はしかし、戦場となっているエリアから大きく離れているにもかかわらず体を小刻みに震えさせていた。
なぜそのような事になっているかと言えば、つい今しがた彼が行った行為が原因だ。
「移動した方がいいのか。いやでもここって隠れるにはうってつけのエリアだよな。変に動かない方がいいのか…………いやでもなぁ」
十属性の中でも最も希少な雷属性。
彼らは戦闘面において他の属性同様に様々な恩恵を受けているのだが、それ以上に日常生活の中で使える技能、すなわち電化製品全般に効果を及ぼす事ができる力を備えていた。
それが電子機器全般に対するアドバンテージ。すなわち様々な機器を自分たちの思うように操れる、いわゆるハッカーと呼ばれる人種に他属性よりも簡単になれる権利である。
「えーとカメラの映像はこれで固定」
無論誰もが自由自在に機械類を操れるというわけではない。
知恵なき者ならば外部から電気を流し故障させる程度の事しかできず、逆に熟練者ともなれば様々なロックが施された重要情報を閲覧することもできるし、指先一つでプログラムの書き換えや機器自体には本来付与されていない機能を追加することなどができる。
ではヘルス・アラモードはどうかと言えば、この世界でも指折りのハッカーであり、『十怪』の一角マハトマ・ハック以外には負ける事がないほどの腕前をしていた。
「あ、周辺のカメラを見張りに使うか。その機能は含まれてないから…………よしできた。これで怪しい影を見かけたら俺の方に連絡が行く」
今片手間で行った監視カメラの作成に関しても、彼自身が様々な機能を追加し便利なものに変化させており、それ以外にも様々な電子機器を駆使し自身の周囲の守りを固めるその様子は巣ごもりをする野生動物のようであった。
「こちらへの攻撃がどこから行われたかは認識出来なかった。残念だがな」
「だが逆に言えばそれが手掛かりでもあるわけだ。不自然な動きや機能を停止しているカメラや。周囲の景色をしっかり映していないもの探そう。それがきっとヘルス・アラモードに繋がる手掛かりになるはずだ」
「…………」
「おいそこのバカ。ウドの大木みたいに突っ立ってないでさっさと手伝え。それともパソコンの操作一つできないのか?」
「量産することしかできない能無しが! かっこつけた次の瞬間には赤っ恥をかいた私の気持ちを考えろ!」
「知るか。さっさと働け」
そのような動きを人知れず行うヘルス・アラモード。
彼にとって予想していない事があったとするならば、それは自分が相手にしているのが惑星ウルアーデきっての天才科学者たちであるという事で、彼らは各々のノートパソコンの前でキーボードを叩き続け、瞬く間に怪しい場所を見つけると付箋を貼るように画面の中の地図に真っ赤な矢印のアイコンを打ちこんでいく。
「ラスタリア内部でカメラの映像に不審な点が見られる場所、それにこちらのを命令に反する動きを見せるものを確認してみた。台数はおよそ300。エリア分けするならちょうど十ヶ所だな」
大都市一つというかなりの広範囲であったにも関わらず三賢人はものの数分でラスタリア内部にあった防犯カメラの映像を調べ尽くし、屋内にあるコピー機で印刷し手渡された地図を見てクロバが作戦室に通信を繋ぐ。
「こちらクロバ。三賢人からヘルス・アラモードが潜伏している可能性があるエリアを絞り込んでもらった。かなりの範囲なので一個大隊規模の人数を探索に回してもらいたい…………承知した。快い返答を感謝する」
「君自ら探索に向かうのではないのかね?」
「それもいいのですが今回の目的はヘルス・アラモードの追跡と発見です。戦うわけでないのならその道の専門家たちを使った方が都合がいい」
「なるほど道理だな」
如何に優れた技術を備えていようとも、戦闘と同時に行えるかと問われれば中々難しい。
とくれば今回に限って言えばヘルス・アラモードを見つける事に専念するべきであるとクロバは決断。合理的かつ無駄がない選択の理由を聞き質問をしたジグマも納得をする。
「うぉ、き、来た来たぁ!」
それから数分ほどで『三狂』ヘルス・アラモードを包囲するための準備は整い、ラスタリア内部に施された転送装置を用い六百人以上の兵士が指示されたエリアへと移動。各々が持つ感知や探索の力を発揮し始める。
こうして瞬く間にヘルス・アラモードは見つかり、メタルメテオ攻略のための邪魔はできなくなった…………はずであったのだ。
「どういう事だ?」
「ん? どうしたガンク家当主?」
「貴方がたがマーキングしてくださった場所を探させたのだが、ヘルス・アラモードに繋がる痕跡が見つからなかった。どういう事だかわかるか?」
「ふむ?」
が彼らの想像通りにことは進まない。
しかしそれも当然と言えば当然のことだ。敵は『三狂』に限らず数多の犯罪者の中でも最も逃げ足や妨害に長けた男ヘルス・アラモード。
そんな彼が自身の身を守るための仕掛けを施さないわけがなく、その点について考慮するのを忘れていた彼らは僅かなあいだ足を止める。
「こういう可能性はないだろうか?」
「ん?」
「相手側からすれば自分が追跡される可能性は十分に考えられたはずだ。だから無数のダミーを用意した。本体はどのような手段を使っているかは分からんが、何らかの機械などを通してこちらに攻撃を仕掛けている。どうだありえそうか?」
「ふむ。十分にありえる可能性だな」
「というか逃げるのが日常のあいつからしたら当たり前の考えだ」
「気づかなかったこちらが迂闊だったというところか。待っていろ。索敵の範囲を広げ、怪しい影や姿はなかったかを確認し直す」
だが彼らは頭を働かせ続けるとすぐにヘルス・アラモードが行った策に辿り着き、クロバの案を聞き三賢人全員が索敵の範囲を広げるため、残像が生まれる勢いでキーボードを叩き続ける。
「いや待て。厄介な奴らが近づいてきている。クロバ!」
「!」
しかし平行して自分たちが陣取っている塔の周りを調べていたメヴィアスが声を荒げ、その意味を察したクロバが扉を開ける時間さえもったいないと感じ、正面玄関を突き破り草木が生い茂る外部へと移動。
「最もな選択だな。いやしかしこれは…………」
メタルメテオのコントロール権を奪う事を目論む彼らの元に、十体を超えるメタルメテオが送られてきたのを彼は確認した。
「行けるかクロバ・H・ガンク」
「レオンと共に戦った奴と同じ実力というのならまず不可能だろう。情けない話だが量産機故に弱体化している事を期待するしかないな」
その様子を見て、背後からアルに尋ねられ苦々しく語るクロバ。
とはいえここで引きさがれるわけもなく、自身の体内で生成している鋼属性粒子だけでなく自然に紛れている鋼属性粒子まで操り、圧縮し、大量の鉄砂を生成。
破壊することは諦め時間稼ぎに専念しようと考えたところで、
「手伝うぞ貴族衆当主」
「貴方は!」
漆黒の翼を羽ばたかせながら、夜闇を斬り裂き貴族衆最高戦力『四星』の一角、鳥人族の雲景が彼の傍らに着地した。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です。
遅くなってしまい申し訳ありません。
ここ最近疲れが溜まっていまして、その影響で少々のあいだ寝落ちしていました。
理由の説明はその程度にして、本編ではこれまではなかった一風変わった戦いが開始。
ネームド以外にも様々な兵士が現れヘルス・アラモードを追いつめるために力を尽くします。
また鍵を握る三賢人の元にはメタルメテオと強力な援軍雲景が登場。戦いは勢いよく進んでいきます。
ところでここ最近は登場人物の周囲の状況説明に結構力を尽くしているつもりなのですがいかがでしょうか?
何かご意見をいただければ幸いです。
それではまた次回、ぜひご覧ください!




