科学で果てへ挑む者達 二頁目
レオン・マクドウェルが意識を失うほどの重傷を負ってまで獲得した二つの戦利品。それを手にしたクロバ・H・ガンクが飛びこんだ細長い塔には白衣に身を包んだ三人の男がいた。
一人は狐のように細長い目をしてろ切る暇さえないのか伸び続けた金髪をうなじの辺りで縛った男。『量産』という分野において他の追随を許さぬ腕前を科学者アル・スペンディオ。
彼は脚立に昇り様々な機械に視線を向けていたのだが、勢いよく扉が開かれるとそちらに意識を向け、クロバがやってきた意味を瞬時に理解し脚立から飛び降り近づいていく。
そんな彼を退屈そうに見つめていたのは、円形テーブルに頬杖をつきあくびをかみ殺していた生物学部門における最高権威ジグマ・ダーク・ドルソーレだ。
アル同様髪の毛を切る暇もない様子の彼は少々遅れて反応したかと思えば、癖毛だらけの地面に触れるまで伸びた紫色の髪の毛を引きずりながらクロバへと近づき、爬虫類を連想させる瞳孔が開いた目をクロバが取りだした二つの物、すなわちメタルメテオの心臓部たる動力部に記憶媒体に注いだ。
「ほう。ほうほうほうほう」
「どうだい二人とも。彼が持ってきた物は使えそうか?」
細心の注意をはらっているというのが一目でわかる慎重な手つきでアルが動力部を掴み、隣にいるジグマが人差し指の第一関節程度の大きさしかない小さな記憶媒体を手に取り、そんな二人に対しクロバの来訪に対し視線さえ向けなかった男、科学者全体の代表となっている男メヴィアス=ロウが自身のノートパソコンから視線を外すことなくそう尋ねる。
「下らんことを聞くな。中身を見てみない事には何とも言えん」
「ただまあ大分古いモデルの記憶媒体を使ってるみたいだし、最新の機器で読み取れば意外に速く良い結果を伝えられるかもしれないな」
するとジグマとアルの二人は全く違う意見を告げ顔を合わせたかと思えば敵意を顕わにするのだが、クロバの苛立ちを募らせた顔と溢れ出ている敵意を目にして一歩ずつ後退し、すぐさま自分のエリアに戻りノートパソコンを動かした。
「信じられんな。これはまさに科学と粒子術の融合だ。これほどの技術を私は知らない」
壁には無数の機械を。地面には数多の部品や薬品を。
そして自分たちの座る椅子と目の前にある机の上にはノートパソコンを。
置いてある物こそ違うのだが、アルとジグマの周囲はそのように同じ意図を感じさせる並び方になっており、不仲と言われている二人の根底にあるものは似通っているとクロバは感じる。
それこそ自分とシロバの関係がピッタリ当てはまるようにだ。
ただそんな事を然程長くない時間考えていると心臓部分の解析を様々な機械を用いる事で試みていたアルが声をあげ、背もたれに体を預けると呆れや嫌悪感というよりは感動や賞賛の意を込めた息を吐いた。
「どういう事だアル・スペンディオ?」
「こいつはお前らの思っているようなロボットではない、という事だ」
「ロボットではない? という事は操縦者などが存在するタイプ。完全な自立型ではないという事か」
「いや違う。だがそうだな。自立型かどうか、というのはいい問いだ」
「?」
その様子を見ていたクロバが尋ねた内容をすぐさま否定したアルだが、彼を貶したりはしない。むしろ彼が何の気なしに行った指摘を褒め称えた。
「こいつらは間違いなく自立型だよ。ロボットではないと言った理由はだな、動かす際に使っている様々な要素が機械ではなく粒子術で賄われているからだ。これはお前さんが持ってきてくれた心臓部分の働きを再現した映像なんだが、率直な感想を貰っていいか?」
「動いているな。それこそまさに普通の人間のように」
「そうだ。こいつは文字通り心臓に当たる部位を持っており、人間と同じように縮小と膨張を繰り返しているんだ」
もったいぶる事なくあっさりと自身が辿り着いた事実を羅列するアル。しかし彼があっさりと口にした内容は専門外の分野であろうと見過ごす事ができるものではなく、クロバの視線が語り続けるアルに向けられる。
「もちろん血液を体内に流しているわけじゃない。こいつの場合は血液の代わりに炎属性粒子と氷属性粒子を体内で循環させてる。で、必要があれば一ヶ所に流し、鋼鉄の体の一部、例えば人間でいう関節部分を柔らかくしたりして、人間と同じような動きをしている」
「機械の兵と判断する事が遅れたのはそのためか」
「ああ。知らぬ者からすればこいつは人間のように見えて仕方がなかったはずだ」
「ふん。何を得意げになって語っている。必要なのはそんな情報ではないだろう」
そのような話をしている二人の間に割って入ったのは記憶媒体を手にして自身のノートパソコンと睨み合っていたジグマであり、疲れを感じさせる声を発しながら彼はキーボードを叩き続け、彼の背後にある真っ黒な液晶画面に青白い灯りが宿る。
「生命に関する研究を行う私からすればこれはやはりロボットだ。人間の模倣をうまくしているのは認めるがね」
「これは?」
「メタルメテオとか名乗るガラクタの脳みそとして動いていた記憶媒体の中身だ。様々な機能が搭載されているようだが、まあ事細かな説明はやめておくとしよう。今お前が知らなくてはならない事はただ一つ。それは」
提示された情報は内部に施されている様々な機能に関するものなのだが、専門分野ではないクロバではその見方が分からない。
なので液晶画面を見ている物のその内容まではさして追ってはいないクロバだったのだが、彼の背後からジグマが話しかけ、期待を持たせるような間を作る。
「それは?」
「例え人間のような動作をしているとしても奴の思考を担っているのは電子機器であるという事。そしてそれがどれほど高度だとしても、プログラムであるという事はこちらから介入できるという事だ」
「まさか」
「あぁそうだ。少々時間はかかったが、奴らはしょせん科学部門に関しては素人だ……いやこれほどのプログラムを作れた時点でその範疇を超えている気はするが。まあとにかくだ、超一流の私達、いや私ならば既に書かれているプログラムに介入し、各地で暴れまわっているメタルメテオを味方に取り入れる事も可能だ」
「でかした!」
そうして語られた情報はまさに値千金のものであり、クロバの口からは普段の重々しい様子を脱ぎ捨てた興奮の声が溢れ出る。
「どれほどで出来る」
「すぐにできる。奴らの使ってる記憶媒体はかなりの旧式で、しかも守りは甘い。最新モデルを使いなおかつ超! がつく程の天才である私ならば、物の数分で奴らの支配権を手に入れてやるさ!」
彼の背後に回る厳つい風貌のクロバに、ライバルの活躍を恨みがましげに見つめるアル。
そんな二人の視線と空気を前にしてジグマは『ヘハハハハハハ』と奇妙な笑い声を上げながら十本の指を残像が残るほどの凄まじい速度で動かし、
「え?」
「なに?」
しかし次の瞬間、彼が使っていたノートパソコンの電源が落ちた。
「無防備すぎると思ったが、そうか敵側にはヘルス・アラモードがいたな」
そしてジグマが辿った結末を眺め、静観していたメヴィアスが静かにそう告げた。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です
メタルメテオ攻略編第二章。
科学者VSヘルス・アラモード開幕です。
これまで『お前どこいっとったんやぁ!』などと思われていたであろうヘタレ野郎がやっと本筋に関わってきます。
はたして今回の戦いの形式とは。
あ、それとここ最近小説の書き方について色々と試行錯誤しているものでして。
色々なライトノベルの一巻を見て文章の練習をできればと思っているので、何かおすすめなどがあれば教えて欲しいです
それではまた次回、ぜひご覧ください!




