科学で果てへ挑む者達 一頁目
メタルメテオによるエヴァ・フォーネスへの反逆。
それは様々な状況を想定していた彼女にとっても激しい怒りと驚きを晒す程の事態であるのだが、このような状況に至った経緯を話すために時は戻る。
エヴァ・フォーネスに無数の刃が突き刺さる直前……ではない。
シュバルツ・シャークスがアイビス・フォーカスが駆使する絶技による光に包まれた直後でもなく、
ギャン・ガイアによる蹂躙やそれ以前の戦いよりもさらに前。
シェンジェン・ノースパスが原口善に下されるのとほぼ同じタイミング。
すなわちレオン・マクドウェルがメタルメテオを下した瞬間、敵対者を退場させるべく愛を語った鋼の騎士が決死の自爆を行った直後である。
「――――!」
核となる心臓部を両断したにも関わらず成されたメタルメテオ最後の一手。自身を作りだしたガーディア・ガルフが宿したとてつもない熱量の暴威。
それを前にして攻撃後の体勢からでは回避が間に合わないと悟ったレオンは背後にいるクロバを投げ飛ばし、その結果クロバだけは射程圏から離れる事に成功。
爆心地の中心に残されたレオンだけがメタルメテオの崩壊と共に勢いよく膨張し球体を成す炎の塊にその身を捧げる結果となった。
「レオンお前っ!?」
自身を助けた事に対する恩はもちろんある。
だがしかし、今この場は自分を置いてでも彼には生き残っていてほしかったとクロバは感じていた。
なぜならレオン・マクドウェルという男はこの一戦で失っていい駒ではなかったのだ。
彼の役割はここでメタルメテオを下したあと、紙の居城内部で行われている頂上決戦に参加する事にある。
その重要な役割を想像を絶する炎の爆発に巻き込まれて出来るかと問われれば、不可能であるとクロバは断言できた。
それどころかガーディア・ガルフが駆使する炎に包まれたとなれば、神器を手にしているためエヴァ・フォーネスの展開した結界の効果を受けれないレオンは命があるかすら怪しい。
そう考えていたクロバが落下の末に草木の一本も生えていない乾いた地面に己が肉体を打ち付け一度だけ小さく咳込むと、すぐに体を持ちあげ先程までレオンがいた中心部分に視線を飛ばす。
「ぐ、おぉぉ…………」
「し、信じられん! あれに耐えられるというのか!?」
そこで目にしたのは腰を丸め全身を左右に揺らしながらも落下することなく空に浮かび続けている『勇者』と呼ばれた男の姿。
傍目に見ても絶対に耐えられないと思えたそれを彼は耐えきったのだ。
「――――――」
とはいえやはり体に襲い掛かったダメージは凄まじいものであったらしく、数秒ほど体を浮かし続けていたかと思えば全身の力が抜けきった様子で落下を始め、底の見えない地中へと落下していく。
「大丈夫か!?」
その途中でクロバが駆け出し、地の底に堕ちるよりも早く彼を抱え地面のある場所まで移動。
「これ、を」
体に衝撃を与えぬよう細心の注意を払いながらあまり凹凸のない岩肌にもたれかけさせ、するとレオンはいくらかの地を吐き出しながら弱弱しい声を発し、力尽きることになろうとそれだけは手放さないとばかりに強く握っていた右手の中の物を晒し、それを見てクロバは息を呑んだ。
「今しがた、爆発した……メタルメテオの心臓部。そして脳に当たると思われる記憶媒体だ。これだけは、なんとか盗めた」
「……それだけの事をあの一瞬でできたとするのなら、お前は勇者でなく泥棒だな。いやしかし、どうやってあの大爆発からこの程度の傷で生き残った?」
本来骨まで燃え尽きてもおかしくないガーディア・ガルフが駆使する炎の襲撃。
それを受けてなおレオンは体の至る所から真っ黒な煙を発しながらも五体満足の状態であり、満身創痍になり血を吐きながらも、喋れるだけの余裕を残しきった。
その理屈が気になったクロバは問いかけながら彼の全身を観察し、そこで気になる怪我を見つける。
「この切り傷は」
メタルメテオのパーツを握っていた右手とは真逆の左手。そこに鋭い刃物を握った事による切り傷ができているのだ。
「ダンダリオンの…………能力だ」
「なに?」
その傷がどのような理由でできたのか思考を巡らせているとゆっくりとならばいくらか喋るだけの余裕ができてきていたレオンがそう語り、思いがけない答えを前にクロバは更なる答えを求めるとでもいうように返事をする。
「この魔剣の能力は、攻撃に纏わせ、相手に使った場合、『耐性無視』という能力を付与する、というものだ。だが味方に使えば」
「…………あらゆる耐性が手に入るのか!」
「そう、だ。あらゆる属性や能力に対する『耐性付与』、それが自身に刺した場合の……ダンダリオンの効果だ」
彼が隠していた神器の秘められた能力に対しクロバは感嘆の声をあげる。
がそれと同時に恐ろしいという感想も覚える。
彼の知る限り魔剣ダンダリオンが秘めている能力『耐性無視』の効果はあらゆる相手に通用してきたものであり、それを反転させたかのような能力『耐性付与』の力も凄まじいものであるはずだ。それこそ『絶対』や『完全』、『無限』という言葉が当てはまるほどに。
しかしガーディア・ガルフの炎はそれさえも上回り、レオン・マクドウェルを満身創痍に追い詰めている。
この世に『絶対』や『完全』、『無限』などは存在しない。
この結果を前にクロバはそのような感想を抱くのだが、
「!」
そこで虚空から黒い洞が突如現れ、皺ひとつなく日に焼けていない真っ白な幼い少女の腕が現れると、それが誰の者であるのかすぐに理解したクロバが鉄砂を集めて作りだした刃でそれを払いのけ、レオンが自身に向けた大切な勝利の戦果を握りしめる。
「すぐに救護班を呼ぶ。お前はここで体を癒せ。その間に俺はこれを奴らに届ける」
「…………頼んだぞ」
確固たる意志を込めクロバが自身がやるべきことを口にする。
その意味を理解するとレオンは安堵したような笑みを浮かべそのまま意識を失った。
「…………死んではいないな。ならばこれでいい」
その後クロバはアル・スペンディオから手渡されていた光学迷彩と発信機をレオンに張り付け、彼の姿が完全に見えなくなった事を確認すると医療班に連絡。
「こちらクロバ・H・ガンク。メタルメテオの心臓部分と記憶媒体、いやメモリーチップを回収した。すぐにそちらに移動するから検証を頼む!」
それを終えると別の場所へと連絡を行い、
「来たか」
「レオン・マクドウェルの予想は当たっていたか。いやまあそうでなければ我々が待機している意味がないのだけどね」
「無駄口を叩く時間はないぞ。我々の手で大逆転を演出しようではないか」
ラスタリアを中心とした戦場の最北端にある細長く伸びた黒い巨頭に辿り着くと、そこで待ち構えていた科学サイド最高の頭脳を持つ三賢人に手に入れたものを手渡した。
ここまでご閲覧いただきありがとうございます
作者の宮田幸司です。
メタルメテオに何が起きたのかの解明編開幕。ここで科学サイドのトップが舞台に上がります。
彼らが行うのはメタルメテオの所有権の強奪。
そしてそんな彼らの前に立ちはだかす存在とは
次回、さらに話は進みます
それではまた次回、ぜひご覧ください!




